第175話 楽しい茶番劇 後編
邪悪っぽい靄からあらわれた、六体の魔獣……獣っていうわりにはその全身がメカっぽい。これは、後で魔獣達が合体するためだ。
ヘクス:「ぬあぁっはっはっはっは! 村を焼き付くせ! パシフィック魔獣たちよ!」
ヘクスが手をふりおろすと、魔獣が空中を縦横無尽に暴れまわり、口から火の玉とか出し始めた。
火の玉が地面に落ちる。
アズラにキューが入る。
……アズラが寝ている。
寄り合い連中が揺り起こす。
ねむけ眼でアズラが巨大化し、その御身足で地震を起こし遊ばせる。
地面と建物が揺れる。観客は大喜びだ。魔獣を操っている設定の怪人メオットケンカーの足下もぐらついてたけど。
「ああ! ヘクス兄ちゃん! なんてことするんだー!!」
ヘクスの知り合いとおぼしき子どもが、怪人メオットケンカーに抗議する。
ヘクス:「ふははは! マー坊よ。俺様はヘクスではない。怪人メオットケンカーだ! 俺様はヘクスと名乗る、気さくな色男の身体を乗っ取ったのよぉ!!」
「そ、そんなぁ! ヘクス兄ちゃーん!!」
……楽しんでいただいてるようで何より。ヘクスもサービス精神旺盛だな。
ヘクス:「さぁ! パシフィック魔獣よ! その力でこの村を滅ぼすのだぁ! だが、地震の方は程々にしておけ! 行商の宿”石の肝っ玉停”がボロだから、倒れてこないか心配だ!」
ヘクスのユーモアに大人達が笑った。宿屋の主人もまわりにいた連中に肩を組まれながら、「ケッ!」と苦笑していた。
僕と花太郎にキューが入る。
花太郎:「ああ、もうだめだ~! この村はおしまいだぁ~」
サイア:「ダ、ダァーリーン!」
花太郎が気絶。僕が口のあたりから出てくる。
……観客、笑う。
千恵美:「あきらめないで!」
千恵美さんが投げキッスしてきたところで再び合図。
僕、退場。花太郎復活。
花太郎:「……あ~。僕はいったいなにしてたんだろう?」
サイア:「ダーリン!」
アキラ:「あっちが魔獣なら、こっちには聖獣がおるでぇ!」
千恵美:「ササダイ村を守るために、みんなの力で、聖獣を呼んでほしいの! 私が、”せーの”って言ったら、”セントラル聖獣”って大きな声で叫んでねぇ。 せーの!!」
観客:「セントラル聖獣~!!」
子ども達やオカーチャンだけでなく、酒飲みの酔っぱらいまでが叫んでいた。……楽しそうで何よりだ。
夜空に浮かぶ月の光がより一層強くなり、神聖っぽい光球が現れる。女神の抜け道に住まう聖獣たち(そういう設定らしい)が一体ずつ説明文付きで(今度はAEW公用語)姿をあらわした。
アルファベットのYとGをくっつけたような兜をかぶった巨人、”ジャイアント”
イスに座りながら羽を羽ばたかせてる雀”スワロウ”。
水夫が着るセーラー服がよく似合う頭が星の形している”ベイスター”
なんか一番聖獣っぽい出で立ちのスカイドラゴン(竜族とは違うヘビッぽい形)”ドラゴン”
一応空は飛んでいるけれど、赤い帽子と野球のユニフォームを纏った普通の男性(旧地球人)”カープ”
…………無理があるだろう。メカっぽいデザインの聖獣たちに紛れて、どっからどうみても中肉中背の生身の男にしかみえない”カープ”さんが浮きすぎていて、他の聖獣、魔獣の中で一際小さくも、存在感がすごかった。
アキラ:「出よ! ゴッドタイガー!!」
アキラが天に向かって手を振りかざすと、ひときわ大きな光が漏れて虎をモチーフにしたロボットが現れた。
アキラ:「おまえの好きにはさせへんでぇ!」
千恵美:「セントラル合体よ! タイガー!!」
アキラ:「やらいでか!!」
ニセ関西人アキラが江戸弁で「やらいでか」と叫んだ瞬間、シンベエにキューを送った。突風が吹き荒れる。
アキラ:「セントラル合体!!」
アキラがよくわからない印を結ぶ。
ヘクス:「負けてたまるかぁ!! パシフィック合体!!」
六体の聖獣(うち一人は生身の人間)と六体の魔獣がヒーローっぽいバックミュージックに合わせて、それぞれ合体を始める。
ロボットの動きはアキラが担当し、その他の視覚効果は魔法使い寄り合いが担当している。
村人達は、空中で繰り広げられる巨大ロボットの合体シーンに釘付けだった。
ヘクスの姿が邪悪っぽい光に包まれて舞台上からかき消える。
合体が完了した魔獣ロボットが地表へ降り立ったところで、アズラにキュー。今度はロボットの着地にあわせてタイミング通りに地面が揺れた。
ヘクス:「完成、公式将軍 カマセイヌ!」
ロボットからヘクスの声が響きわたる。
アキラ:「トウ!」
千恵美:「はぁ!」
アキラと千恵美さんが空高く飛び上がり、ロボットに乗り込んだ。
ロボットが着地と同時にアズラにキュー。アズラ、あくびをしてたせいでちょっと遅れる。
アキラ&千恵美:「完成、中央将軍 ロッコンショウジョー!」
ご丁寧にも、観客に分かりやすく吹き出しのような映像が出てきて、コックピット内の様子が宙空に映し出されている(もちろん、ご本人たちは舞台上に残ったまま幻影で姿を隠してるんだけど)。
ヘクス:「そろそろ、貴様等の顔も見るのも飽きていた頃だ」
アキラ:「いままで幾百もの怪人たちを倒してきたが、ここまで顔を合わせて無事でいられる怪人も珍しい。今度は逃がさへんでぇ!」
ヘクス:「逃げはしない。ここで討ち取る!!」
カマセイヌが左投げのピッチングポーズを取ると、左手から邪悪っぽいエネルギー球が生成される。
アキラ:「伝説バット、”物干し竿”」
アキラがつぶやくと、神聖っぽい光がロボットの手の平から延びて、バットが顕現した。
ヘクス:「くらえぇぇ!!」
投球するカマセイヌ。バットを振るうロッコンショージョー。
「ストラァァァァイク!!!」
空振り。どこからかわからないが、審判の叫ぶ声がした。
カマセイヌが投げた球が村に落ちて爆発する(もちろん幻影)。
アキラ:「く、くそぉ!」
ヘクス:「フハハハハハ。公正な審判だな」
アキラ:「あ、当たり前や! こちとら正義の味方やぞ! 正々堂々打ちとったるでぇ!」
……よくみると、ロッコンショージョーの頭上に、防具を装着した”カープ”さんがいた。どうやら彼が審判をやってくれてるらしい。
サイアにキュー。
サイア:「あ、あれは何? いったい何をしているの?」
破壊活動だろう。
花太郎:「あ~、あれ僕知ってるぞ。旧地球で、野球という名の競技だ。本当は9人でチームを組んで行うのだけど、これはずいぶん簡略化してるねぇ~」
野球の存在を知らないササダイ村の人たちに、花太郎が野球のルールを説明し始めた。取り合えず、ストライクゾーンに入った球を三回以内で打ち返すか、ストライクゾーンにはいらない球を四回投げた時点で、バッターが勝つ。という一打席分の簡単な流れを伝えた。
ヘクス;「第二球!!」
花太郎の説明が終わってから、ヘクスが振りかぶる。
カープさん:「ブォォォォル!!!」
嫌遠球とも判断されるほどの暴投だった。
ボールが落ちて村が破壊される。
カープさん:「ブォォォォル!!!」
三球目もボール。村、大惨事。
アキラ:「なぜや。第一球を投げたときは、抜群のコントロールやったでぇ」
千恵美:「……もしかして、わざとボール球を投げてるのかも!」
アキラ:「んなアホな!? いや、まてよ。確かにそうかもしれへん。やいメオットケンカー。お前はん、村を破壊するためにわざとボール球投げとるなぁ!」
ヘクス:「そのとおりよ! しかしわかったところでどうなるというのだ!? 次も俺はボール球を投げるぞ!」
カマセイヌが降りかぶって投げる。
アキラ:「させるかぁ!」
カープさん:「ファゥゥゥル!!」
ボール球を無理矢理バットに当てて、ファールフライ。球は村の外の砂漠のあたりに落ちて爆発した。
ヘクス:「これで、後がないなぁ? 半神タイガーよ」
アキラ:「ち、ちぃ!」
千恵美:「アキラめないで! アッキュン……タイガー!チャンスはあるわ!」
アキラ:「そうや、まだ向こうには遊び球が一つある。次もボールを投げる気や。そうとわかれば……」
ヘクス:「いくぞぉ!」
アキラと千恵美さんの会話が丸聞こえなのに、聞こえないフリで大きく振りかぶるヘクスと巨大ロボット。
アキラ:「六根清浄……六つの魂よ、いま我に力を与えたまえ……六・魂・清・浄!!」
ロッコンショウジョーと頭の上に立っている審判のカープさんが光輝いて、そのエネルギーがバットに集中する。
カマセイヌが投げる。
ロッコンショウジョーが振るうバットがボールを捕らえた。
ギュィィィィン! と音を立ててバットとボールがせめぎあう。
ヘクス:「な、なにぃ! ボール球に当てただとぉ!」
アキラ:「真芯で食らえ! ピッチャー返しからのホームランやぁ!」
打ち返した玉がカマセイヌの胸部を貫きながらホップし、そのままホームランの軌道に乗った。
バチバチと音を立てて行動不能になるカマセイヌ。
アキラ:「……打線・爆・発!!」
ヘクス:「…………ダイナマイツ」
敵ロボット爆発。
このテの爆発では建物が吹き飛んだりしないのはお約束だ。……敵ロボットを倒したことで、謎の力が発生して村が元通りになるのも。
聖獣と”カープ”さんが月へ帰っていくと、舞台上には、ヒーローの男女と敗北して地に伏した怪人の姿が現れた。
ヘクス:「俺様の負けだ。好きにせい」
アキラが手を差し出す。
ヘクス:「……何のマネだ?」
アキラ:「ええ、勝負やった。またお前と対決したいなぁ」
ヘクス:「……俺様は、わざとボール球を投げて、村を破壊した男だぞ?」
アキラ:「村は元にもどったんやから、それはまぁええわ。ボール球投げるんも立派な戦略やしな」
ヘクス:「半神タイガー……」
アキラ:「それにお前はんは、憎き敵の俺に向かって、デッドボールは投げへんかったやろ? わざと狙ってもよかったっちゅーに、正々堂々、お前はんは勝負しようとした。まさにスポーツマンやな」
スポーツしてたのはロボットだけどな。そのロボットも幻影だけどな。
怪人が「フッ」と笑い、タイガーの手を取る。
アキラ:「せやけど、村をまた壊すっちゅーなら。お前はんにトドメささなアカンねん」
ヘクス:「いや、それよりもやりたいことができた」
アキラ:「そうかい」
ヘクス:「次は、俺様が勝つ」
アキラ:「次も負けへんでぇ!」
二人が堅く握手をかわす傍らで、千恵美さんが「ふふふ」と微笑んでいた。
舞台裏で魔法使い寄り合いが、気合いを込める。
宙空に巨大な邪悪っぽい渦が現れた。
謎の声「我が名は”ベイコク大帝メイジャー” この世界は我のものだ!」
……なんかボイスチェンジャーを使ったみたいなやけに低い声が響いた。
アキラ:「なんや! お前なんか知っとるか?」
ヘクス:「いや。とにかく。この村がやばい!」
二人は聖獣と魔獣をよびだし、邪悪っぽい渦に攻撃をしかけるが、まったく効果がない。カープさんはひたすら「アウトォ!!」と叫んでいる。
メイジャー:「ふっははははは、手ぬるいわ」
夜空がピカっと一瞬光ると、カープさんとロボット達は黒こげになった。
千恵美:「いけない! いまの私たちでは、奴に勝てないわ」
アキラ:「どないせーっちゅーねん」
ヘクス:「あきらめるな! 何か方法はあるはずだ」
花太郎と僕にキュー。
花太郎:「ああ、だめだ~ この世の終わりだ~」
サイア:「ダーリーン!」
花太郎気絶。僕、登場。
千恵美さんが投げキッスして、また復活する。
千恵美:「メオットのいう通りよ。方法はまだあるわ! だけど……時間を稼がなきゃ」
千恵美さんがアキラにウィンクした。
アキラ:「どうしたんや。シュイニーア・ガール。なんやお前、様子が変やぞ?」
千恵美:「メオットが操っていたパシフィック魔獣は、もともと月の女神を守護聖獣だった。十二体の聖獣がそろったいま、究極の合体、”ニッポンシリーズ・オールスター”ができるはずよ」
アキラ:「そうか! 究極合体やな!」
ヘクス:「ふむ。それならばあやつに勝てるかもしれん!」
千恵美:「だけど、今はできないの」
アキラ:「なんやて?」
千恵美:「究極合体を実現するには、三種の神器を揃えなければいけないわ、聖なるバットと聖なるボールと、聖なるグローブよ」
ヘクス:「そ、そんな。その神器とやらはどこにあるんだ!?」
千恵美:「わからない。だから、タイガー、メオット。二人で三種の神器を探し出してほしいの」
タイガー:「ふ、ふたり!? どういうことや、お前はどうするんや!」
千恵美:「私は……二人が三種の神器をみつけるために、時間をつくる!」
千恵美さんが金色の光につつまれ、宙に浮かんだ。
千恵美:「あとは……よろしくね」
アキラ:「そ、そんな、シュイニーア・ガール! いくな! いくなぁ!」
千恵美を捕まえようとするアキラをヘクスが羽交い締めにして阻止する。
ヘクス:「いかん! いまのシュイニーア・ガールにはものすごいエネルギーが流れている。触れただけで焼け焦げるぞ!」
千恵美:「……またね、アッキュン。大好きだよ」
アキラ:「いくな! いかんでくれぇ! 千恵美ー!!!!」
千恵美さんが邪悪っぽい渦に突入する。
謎の声「な、なにぃ!! 我を封印する気か!? アジな真似を、だが、すぐに復活して、世界を闇に染めてくれようぞ。それまではせいぜい余生を楽しむがよい」
邪悪っぽい渦は、千恵美さんとともに消えた。
大人がみるには、幼稚だし、子供がみるには小難しくてちょっと暗い結末をむかえた僕たちの余興は無事、終了した。
肩書き上の代表者である花太郎の簡単な挨拶で、今回主役と総指揮を担当したアキラが紹介された。
アキラは「自分はろくな魔法は使えないが」と珍しく謙虚なコメントの後に、自身がこういったショーを行って、村を活気つけるかわりに、アルターホールの呪縛に捕らわれた妻を助けるための活動に協力してほしい、と、村人たちとササダイ村出身の行商人たちに向けて深々とお辞儀した。
次回は11月15日 投稿予定です。




