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第152話 脱出作戦

 シルヴァホエールは巨大だけれど、マイナシウムの反重力特性を利用した単体での大気圏突入と、重力下での空中航行、そして重力圏の脱出が可能だという。

 しかし、惑星の大気がマイナシウムで満たされたAEWの環境では、航行に不備が生じることと出力が不安定になるため、重力圏から脱出する際に機体に大きな負荷がかかるらしい。


 このことから白ロボ真中たちは、シルヴァホエールをAEWに降下させずリモア(小判鮫)に格納したドルイドだけを降下させてミッションに挑んだのだろう、とアキラは推測した。


「シルヴァホエールそのものは、遠隔操作で稼働する惑星探索用の無人宇宙航行鑑や。SFマンガにでてくるような、ごっつい兵器があるワケやない。せやけどな。あのクジラには惑星調査用の”ドルイド”のほかに、小惑星群から身を守るための護衛機が搭載されているんや」

 アキラは、地面に描いたクジラの頭部にピーっと矢印線を引いて、”護衛機”のイラストを描いた。


「……エイですか?」

 純粋な心の持ち主である香夜さんが、再び問う。


「まぁ、形はそんなところです」

 アキラが苦笑する。


 シルヴァホエールの護衛機である”エイ”には母艦が小惑星群に突入してしまった際に、母艦を守るための装備が搭載されている。


「鉱物を破壊できるレベルの高出力レーザーでもあるの?」


 ユリハの問いをアキラは否定でかえした。「レーザーよりもタチは悪くないが、兵器としての威力は抜群だ」と。


 魔導砲マジック・キャノン。生体パーツを利用した魔法の一種で、高密度のマイナシウムを平面上に、壁のように集約し、目標を弾き飛ばす装備だ。


 高密度のレーザーだと、エネルギー消費量の割に有効射程が短く、目標に命中させても飛散した破片が艦を傷つけるおそれがあるため、小惑星群の処理には、目標を遠くへ押しやるこの装備が採用されたらしい。



 それでも左右から一度に魔導砲マジック・キャノンが放たれれば、対象を粉々のペチャンコにできるだけの威力があるという。兵器としても十分な脅威だ。


 護衛機エイは、重力下を飛行することもできるが、単体で大気圏に突入することはできない。だけど、シルヴァホエールが降下してきたならば、こいつらも相手にしなければならなくなる。


「シルヴァホエール一つにつき、護衛機の搭載数は……二〇〇機や」


 恐らく相手方は、成果が得られないまま母艦が傷つき、重力圏脱出が不可能になることをなによりも恐れているだろう。


 僕たちの戦闘力を知った白ロボ真中たちは間違いなく、持ってきた全戦力をつぎ込んでトーカー達をさらうに違いない。

 ドルイド90機+護衛機エイ200機を相手に、このメンバーが無事でいられるのだろうか。


「……それだけやないんや」

 アキラは最後に、シルヴァホエール本体の驚異について話した。


 アキラが引き出したシルヴァホエールの最後のデータ。

 装備の分類としては、マイナシウムが蔓延している環境下で航行するための機能の一種であって、武装ではない。それでも、マナコンドリアを力の源とする僕たちにとっては、最大の脅威だった。


 ”マナ・ドレイン”。通常は動力部分で精製し、艦やドルイド、護衛来エイに送り込む為のエネルギーに変換しているマイナシウムを、外部から取り込む機構。


 航行に支障をきたすマイナシウムを取り込んでエネルギーに変換させるこの装置は、一時的に、広域に漂う大気中のマイナシウム含有率をゼロに近づけてしまう。


 これはマナコンドリア保有者に対する”力封じ”と”魔封じ”にあたる恐るべき装置だ。


 白ロボ真中達がシルヴァホエールを降下させてきたならば、勝ち目は……限りなくゼロに近い。


「彼らの目的がはっきりしているなら、突破口は見つかるはずよ」

 アキラから絶望的な情報を経ても尚、ユリハがひるむことはなかった。


「おねえさま! ワタクシが必ず守ります!」

「あんがとリズ、ヨシヨシ」

「アネゴ! アタイだって守ってみせるぜ!」

「あんがとね、ペティ。ヨシヨシ」

 両手に花を抱えてご満悦の悠里。この三人が揃うと、シリアスな状況もなぜかコミカルに思えてしまう。


「ハナタさん」

「ん?」

「大丈夫……ちゃんと、私が守るから!」

「……うん。僕もサイア嬢を守るよ」


 あどけなさの残る可憐な14歳の少女(ドワーフ的には成人年齢)のサイアに大の男が守られてばかりなんて男が廃るよな、そりゃ。勇気を振り絞ったサイアの頬は、やっぱり赤く火照っていた。


 香夜さんは膝丈サイズのアズラをぎゅ~っとしている。その横で膝丈サイズのシンベエをぎゅっと抱えているのは咲良だ。……まずい、僕の中にうごめいているシリアスな感情がぶっ飛んでしまいそうな光景だ。


 ユリハ、悠里、カイド、シドが中心となって、作戦を練った。空には星が瞬きはじめていた。

「ペティ、なるべく大きな火をたくぞ」

「おうよ」

 シドがテントに使っていた丈夫な大布を引っ張りだして、ペティに焚きつけるよう指示をだした。


 リズがエルフの体質として持っている”樹木との同化”能力で、拠点の周囲に槍襖やりぶすまのように張り巡らせていた木の杭を引き抜き、カイドが火の元へと運んで燃料にする。


 残ったメンバーが、炎のそばにテントを一張り立てなおした。これらは野営用のカモフラージュだ。


「あんまりやりたくはなかったけれど、香夜ちゃん。……食品を出してほしいの」

「うん。やってみるね」


 ユリハの要請で、香夜さんが操る謎生物ストラップのオーラビームで食料を顕現させた。


 オムライスだった。真ん中にはケチャップでハートマークが書かれている。


「できたわね」

 ユリハも、ほかのメンバーも真剣な面持ちで、特に突っ込んだりはしなかった。香夜さんだけが羞恥のあまり体をプルプルさせていた。


「花太郎、食べてみて」

「え? 僕?」

「ええ。君の体内に入れてもキチンと食品として吸収されるかが重要なのよ」


 ユリハが真顔だし、ほかのメンバーも花太郎に注目しているし、オムライスにはハートマークが描かれているしで、花太郎もやや赤面している。


 香夜さんと花太郎の目があって……お互いが真っ赤になる。


 サイアに太股をつねられて正気に戻った花太郎がオムライスを口に入れた。


「どう? ですか? 花太郎さん」

「……とっても、おいしいです。香夜さん」


 サイアの表情に微かな憂いが指す。


「お腹にたまっている感覚はある?」


 ユリハの問いに「わからない」と答えた花太郎は、満腹になるまで香夜さんお手製(?) の料理を食べた。


「花太郎が問題ないなら、この作戦でいきましょう。アキラ君たのむわわよ」

「はいな。まかせてください!」



 未来人達との戦闘を回避して、悠里、香夜さん、花太郎、咲良、そしてアキラを旧地球へ帰還させる。この作戦の要は、アキラだ。


 アキラの幻影魔法の有効範囲は、かなり広い。


 テントで野営しているメンバーの幻影を可能な限り見せながら、岩山の拠点を脱出。闇に紛れる。

 アキラがアズラに乗って、メンバーの姿と足跡を幻影で隠し、全員が固まって魔境のしるしを刻んで封印した坑道を目指す。トーカー達を月面に一時避難させる作戦だ。


 ロボットたちの動力部には小さなワームホールが内在しているため、結界が張られた遺跡には近づけない。


 トーカーを遺跡内部へ進入させるため、アキラが結界の解除を行っている間はほかの魔法が使えない。

 幻影魔法が切れた段階でロボ達が察知し坑道内に進入してきたなら、応戦か、坑道内に落盤を起こさせて時間を稼ぐ。


 トーカー達を月面へ逃がした後に、再び結界を張れば、未来人たちが攻めてくることはできない。


 月面での食料は、香夜さんの”錬金術”でまかなう。花太郎の体質でも吸収できた為、食糧難になることはない。ユリハを含め、カイドやリズたちも”錬金術”で食料を獲得することはあまりよくないことだと考えてはいたけれど、手段を選べる状況でないことは、全員理解していた。


 未来人たちが退いたら、トーカーを残してユリハたちだけでもリッケンブロウムヘ帰還し、街の地下深くに眠る遺跡へと続くもう一つのワームホールを掘り起こす計画を進言。 未来人たちが退かなければ、僕が単身JOXA支部へ赴いて、要請する(いずれにしても、状況報告は早急に行う)。


 掘り起こしたワームホールを通じて、トーカーがリッケンブロウムへ帰還。そのまま地上神殿から空中神殿へのワームホールをくぐり、ワームホール”さくら”を通って、旧地球へ帰還する。


 荷物は必要最小限にとどめなければならない。ユリハはアキラから情報を聞き出しながら、紫ロボ二階堂の地図情報マップデータが記録された箇所のパーツを取り出して、あとの部品は捨ておくこととなった。


 咲良の表情が少し険しいのには、花太郎も僕も気づいていた。


 FUメルクリウスは、大気中がマナで満たされた環境でしか起動できない。

 旧地球では、咲良は自由に飛ぶことができなくなるんだ。


「咲良……」

 咲良に抱えられながら、シンベエが声をかけた。


「……俺も、咲良の故郷ふるさとへ行こう」

 ……笑顔綻ぶ咲良のお顔を記憶に焼き付けた。


「ほな、いくで」

 アキラがテント内で幻影魔法を発動させると、みんなの姿が僕の前から消えた。

 それぞれメンバーが待機していた位置から少しずれたところに再びメンバーが現れる。


「なんか、変な気分だナ」

 悠里のつぶやく声が聞こえたけれど、僕に見えている悠里の口は動いてなかった。見えているものは全て、アキラの幻影だ。


 幻のメンバーたちがぞろぞろと表へでると、静かな晩餐を始めた。


「行ってくるね。エアっち」

[うん]


 見えないけれど、僕の耳元で悠里がささやく。


「エア太郎。向こうのことは頼んだわよ」


 ユリハの声がした方角に”YES”のサインを返した。


[花太郎、しくじるなよ]

「アキラにも言っておく」


 花太郎たちに健闘の言葉を送ると、僕はリッケンブロウムヘと瞬間移動テレポートした。


 リッケンブロウムへ到着すると、僕はターさんたちに詳細を書いたメモ帳をみせて、長老会に地上神殿広場地下の掘削許可を申請するよう打診した。


 僕ができるのは、せいぜいここまでだった。アキラの魔法に干渉してしまう僕は、この作戦が完遂するまで、JOXA支部で待機することになっている。


 もし、作戦が失敗して未来人たちと遭遇したならば、僕も応戦するためにムーン・グラードへ向かわなければならない。


 もどかしいけど、花太郎に呼びだされないことを願った。ターさんをはじめ、他の職員たちも僕のそばで固唾を飲んでいた。


『エア太郎……』


 …………呼ばれてしまった。


『……すまん、囲まれた』


[……今行くよ]


 声は聞こえなくとも、僕が放った言葉はJOXA職員の面々に届いていていた。遠く離れたこの地では、彼らはただメンバーの無事を祈ることしかできない。みんなの元へ駆けつけることができるだけ、僕の気持ちは彼らより幾分も救われているんだ。


「お願いいたします。エア太郎さん」


 ターさんから激励の言葉を受けながら、僕は目をつぶり、花太郎が持つ”エアっちボール”めがけて瞬間移動テレポートした。

  

次回は9月7日投稿予定です。

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