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第148話 激戦 

 ロボ軍団が放つレールガンの雨の中を、リズが造った水の防弾幕の一部を纏いながらカイドが突撃した。


 無人機の一体にタックルを浴びせると、肩部けんぶを斧で引っかけてロボを持ち上げ、盾にしながら軍団の深くへ突入する。


 左舷隊列の中心に侵入したカイドは、気迫と共に引っかけていたロボットを上空に打ち上げると、落ちていくロボットめがけて斧を切り上げた。


 脇腹から鎖骨部にかけた一閃がロボを両断して、破片が辺りに飛び散る。


 返す刃の惰力を利用して長柄ながら戦斧せんぷをハンマー投げの選手が助走をつけるみたいにグルグルとデタラメに振り回し、無人のロボット達をかく乱した。


 カラーリングが施された有人機三体が、四つの足で後方に飛び退いたのと、炎で身を隠しながらシドが奴らの眼前に現れたのは同時だった。


「クソッタレ!」

 白ロボ真中がいた場所に放たれたフルスイングの唐竹割りが空を切った。シドが纏う火の粉が白ロボ真中の砲頭にぶら下がる白旗に引火するが、それ以上の成果はない。

 花太郎の血がしみた紐が、魔法の炎に触れたのだろうか、シドにまとわりついていた炎が青白い粒子になって拡散する。


「やりますねぇ!」

 三体のロボが空中でレールガンをシドに向けた瞬間。

 横殴りの一刃の風が激突した。


 咲良カッコイイ!!!


 魔法障壁マジック・バリアを展開した咲良が黒ロボ三木めがけて体当たり。そのまま白ロボ真中を押し込むも、その先にいた紫ロボが舌打ち音を漏らしながら二体を蹴り落として軌道を変えた。


「FUー23C! これほどのパワーとは……」

咲良の追撃を受けながら、紫ロボから、低くかすれた声が聞こえた。

ナンか言ったかコラァ!!」

 もっと優しい言葉遣いを日頃から使おうよ!!


 右舷の無人ロボ達が上空の咲良めがけてレールガンを構えるけど、撃たない。紫ロボが魔法障壁に張り付いているからだろうか。


 咲良が装備しているユリハお手製のレールガンを放つと、紫ロボは魔法障壁を蹴り上げて弾丸を避けながら、地面に向かって退避した。


 機を見計らったかのように右舷のロボ軍団が上空に弾丸を放つ。


 トンボのような急停止、急旋回を繰り返し、弾丸をかわしながら離脱を図る咲良。

残り半数の無人ロボがシドに向けて発砲するも、リズが放った水の防弾幕がシドを守った。


「シンベエ!! 一秒で突っ切るのよ!!」

「うむ」

「サイアも来なさい!!」

「ちょ、母さん落ち着いて!!」

 ペティが放った業火の壁の中から、地面スレスレを超速低空飛行で直進する青き翼竜と、それに跨がった母娘があらわれた。いや、跨がっているんじゃない、娘の魔法で二人とも身体を竜に括り付けている。母の方は目がイってる。


 風刃を纏うシンベエ。蹴散らされるケンタウロス型のロボ軍団。


「喰らいなさぁい!!」

 後ろ足に装着されている杭を地面に突き立て、踏ん張っている一体めがけてショットガンを放つユリハ。ロボの頭部が吹き飛ぶ。


「早くるのよサイア! 射って!! ほら、早くイってぇ!!」

「と、遠すぎるよ~」


 尋常じゃないスピードで戦線から離れていくシンベエの上で嘆くサイアの声がこだまする。

 遠くで旋回し、再び接近してくるシンベエに向けてロボ軍団が弾丸を放つも、ひるむことなくジグザグにかわして突き進むシンベエ。


 遠くのシンベエや咲良には発砲しているけれど、ロボ達の渦中にいるカイドが撃たれる様子はない。アキラのデータは正しかった。


 ロボたちの両腕から放たれる魔法鞭マジック・ウィップがカイドめがけて伸びていく。これもアキラの情報通りだ。


 そのまま斧をぶん回してなよ、カイド。……僕が止めるから。

「来たかよノロマァ!!」

[これでも急いだつもり!!]

 聞こえやしないのはわかっていたけれど、とりあえず口応えしてみた。


 振り回す斧に追随してカイドを中心に回ると、ラーメンの替え玉麺みたいに密集していてウネウネしていた魔法鞭マジック・ウィップが拡散した。


「なんだ、あの現象は……」

「ドちびがぁ!」

「撃つな三木! ドルイドが傷つく!」

 カイドに向かってレールガンを構える黒ロボ三木を、白ロボ真中がたしなめている声が聞こえた。


「来たよ、エアっちぃ!」

 悠里が”透過”しながら僕たちの所へやってきた。

「カイカイ~! エアっち借りてもよい?」

「もってけもってけ! 俺も相棒が来たところだ」

 左手に花太郎の血が付いた布切れを巻き付け、魔法鞭をかいくぐりながらシドがやってくる。

「とっと行けぇ!!」

「あんがとね」

 まとまっていては戦いにくい、僕と悠里が走り去る。僕は浮いてるけどね。


「エアっち二つの無限ダブル・インフィティの第二弾よろしく!」

[できれば悠里には後方に下がっていてほしかった]

「咲リン戦っているのに?」

[止められるならそうしたかった!]

「咲リンにはシンベエがいる! アタシには王子様がいるから大丈夫!」

[王子様って年齢としじゃない]

童貞どーてーっぽいから”王子様”だよ~」

[童貞でもない!!]

「ポイだよポイ。ポイっとなぁ!」


 間近のロボめがけてトンファーをクルクルとまわし、首の付け根を殴りとばすと同時に足払いをかける悠里。ロボが半回転してすっ転ぶ。

 両手でトンファーを握ったまま、器用な手つきで人差し指で手榴弾を持つ。


「アキノシンが言うウィークポイントは、首の付け根だったね」

 言いながら悠里が、すっ転んだロボットの首の付け根に、右手で持ってた手榴弾を透過で埋め込んだ。

「ごめん、ネズミさん」

 生体パーツに使われているであろうマウス、”スキニー・ブルーフェイス”に語りかけながら、悠里が手榴弾のピンをぬいた。


「なんか触手みたいで、気持ち悪いね」

 迫りくる魔法鞭マジック・ウィップから悠里を守りながら、距離をとった。

「エアっちって、こうゆう触手とかでヘンな妄想しちゃう人?」

[ううん、しない人]

「咲リンには言わないよぉ?」

[咲良は関係ないよぉ?]


 仕掛けた手榴弾が炸裂する。


「弱点さえ分かれば、手榴弾一発で十分だネ」

[よかった]

「ぜんぜんよくないぞ。あと三発しか持ってないもん。どうしよ?」


 言いながら悠里は右手側のトンファーでロボの首を透過してして、内側から「バチバチ」と電撃を送り込んでいた。


 ロボットが動かなくなる。

「これでイケそうかナ?」

 やっぱりこの人は、強い。


「そろそろアタシ、エアっち特製、”究極の盾”が見たいな」


 ……さっきから念じてます。ちょっとこの状況に動転しすぎて、落ち着いてイメージできないのです。久しぶりだし。


 …………いける、いける! いけそう!


JOXA社宅(アルティメット)悠里部屋の扉(シールド)、展開!]


 シンベエ&咲良が、超低空飛行で、十字を切るように突入し、ロボ軍団を一網打尽にしたのは、僕が扉型の盾を顕現させた直後のことだった。




 シンベエの風刃、咲良の魔法障壁マジック・バリアによる突撃でケチらされるロボット軍団。

 随分派手に吹き飛んだものの、ダメージは少ないようだった。咲良が突撃しながら放ったレールガンで射抜かれた数体が機能停止した程度で、ほとんどがピンピンしている。


「貴重なドルイドを! 貴様ぁ!」

「三木!!」

 白ロボ真中が引き留めるのを無視して、ロボ軍団の懐で大暴れする咲良に向けてレールガンを乱射した。


 射撃は正確で、ロボット達の隙間を縫いながら命中するも、レールガンが魔法障壁に弾かれる。


「くそぉ!! 旧式兵器がぁ!!」

 三木が目標を変え、カイドとシドに向けてレールガンを放った。

「カイド!」


 ロボから殺気を感じ取ったのか、カイドのサポートにまわって魔法鞭マジック・ウィップを無力化していたシドがロボの一体に長柄の戦斧を突き刺すと、黒ロボ三木が構えるレールガンの射角に向けて突き出した。


 シドに呼ばれて状況を察知したカイドが、シドのそばについて身を屈める。小柄なドワーフが身を隠すには十分な物陰だった。


 黒ロボ三木のレールガンは強力で、無人ロボのボディを数発の弾丸で撃ち抜いた。貴重なものと怒っておきながら、随分と扱いがぞんざいだ。


「このまま死ねぇ!!」

 乱射を続ける黒ロボ三木。


 シドが斧を少しずつ上下させ、先端に突き刺さるロボを動かして場を凌いでいた。僕と悠里は離れた場所にいて、救援には間に合いそうにないし、そして、行く必要もないな、とも思った。二人のドワーフがニヤリと笑っていたから。


「やっぱりあいつは三下さんしただな」

「違えねぇ」


 黒ロボ三木の上空をシンベエが通り過ぎた。


「ストリング・バインド!」

 糸付きの矢が黒ロボ三木を縛り上げる。


「ストリング・ストレングス!」

 サイアの一本釣りで、黒ロボ三木が空へと跳ね上がった。


 白ロボ真中をはじめ、ロボ軍団がシンベエの下腹めがけてレールガンを放っていたけれど、シンベエの真下でランデブーしている咲良がこれをすべて弾いた。……肝が冷えた。矢面に立つ咲良の度胸が誇らしくも恐ろしい。


「こんな糸クズゥ!!」

 胴体に巻き付いた糸を断ち切ろうとしたのか、黒ロボ三木が、四足の脚部を変形させ、後ろ足を格納させる。バックパックと折り畳んだ後ろ足にサイアの糸が挟まったけれど、その程度で引きちぎれるほど、サイアの強化魔法はヤワじゃなかった。


 空中を引き回されながら黒ロボ三木は、レールガンの銃口をシンベエに向けた。

 黒ロボ三木が発砲する瞬間。ユリハのショットガンがレールガンの銃口をへし曲げた。


 破裂する黒ロボ三木の射撃ユニット。


「反応速度は、無人機よりも遅いわね。これが有人操作の限界かしら」

「ストリング・バインド」


 爆風で糸が焼き切れる寸前、再びサイアが糸付きの矢を放ち、黒ロボ三木を縛り上げた。

 射撃ユニットを自切パージする黒ロボ三木。すかさず両腕から魔法鞭マジック・ウィップを放つ。


「ほぉら、やっぱりワンアクションで外せたじゃない!」

 花太郎の血紐をふるって、まとわりつく魔法鞭を拡散させながら、不適なほほえみを浮かべるユリハ。


「その紐は何だ!?」

「答える必要ある?」


 ユリハが糸をグイッと引き寄せる。


 そして、目標を超至近距離の位置に捉えたユリハが、ショットガンを放った。

 黒ロボ三木の頭部が吹き飛び、動かなくなる。


「サイアちゃん、強化魔法かけなおしてね。シンベエは思いっきり旋回!」

「うむ!」

「……ストリング・ストレングス!」


ユリハがウキウキしていた。

 そして戦闘狂バサーカーになったユリハが、黒ロボのボティを巻き付けた糸を振り回し、上空から解体工事で使う巨大な鉄球の如く、ロボ軍団に叩きつけているのが見えた。


「さあ! 耐久度のテストよぉ!!! ウェロウェロ、ぉを!」

「母さん!!」

 シンベエの急旋回に酔ったのだろう、笑いながら、目をランランとさせながら、口からいろんな”モノ”をまき散らしながら、グロッキー&ハイな意味のわからないテンションで黒ロボ三木の残骸を振り回すユリハ。


 僕と悠里は透過できるからいいけれど、カイドとシドは、頭上に新たな驚異が現れたことで戦闘どころではなく、飛び散ってくるロボの残骸たちから身を守ることに精一杯のようだった。


 シンベエの腹部で、ユリハたちを守りながら追随してる咲良が若干引いているのがわかった。咲良にも、肝が冷えるってことがあるらしい。


 ロボットたちが一瞬制止した。


「お遊びはここまです」

 ロボット軍団が一斉に身を屈め、四足の脚部をピーンとのばして空高く飛び上がった。

「任務を遂行させていただきますよ」


 やや怒気をはらんだ白ロボ真中の声。咲良とシンベエが空中で迎撃をするも、手に負えないと判断したのか、ロボ軍団の懐から離脱する。


 ロボ軍団が着地した先は、後方で魔法を詠唱しているペティとリズの背後、アズラが逃げ込んだ旧坑道の前だった。


「リズ! 後ろだ!!」

「見えてるわよ!!」


 リズとペティの前に防弾用の水壁を展開する。

 が、ロボット軍団たちは、撃たなかった。


「あいつらアズアズを追う気だ!!」

 約半数の軍団が旧坑道の中に進入し、白ロボ真中率いる残りのロボ軍団が、入り口を塞いだ。


 リズの防御壁を挟んで、メンバーとロボ軍団が再び対峙する。


「お見事です。戦闘は完敗でした。私たちが持ち合わせているドルイドでは、あなたたちに敵いそうもありませんね」

「遠隔操作型のロボットだと、情報の伝達量と速度がネックみたいね。それでも、四光年以上離れた場所から操作可能な技術……興味深いわ」


 もはや破片しか残っていない黒ロボ三木のボティを白ロボ真中に向かって放りなげた。

「ご指摘のとおりです。半自動操縦用のaiを改良して対応してますが、我々の技術を持ってしても、現段階ではこれが限界ですね」

「だけど魅力的だわ、人型の無人偵察機。複雑な作業もこなせる上に安全。エネルギーさえ確保できる最低限のインフラが整えば、どんな環境だって活動できるんだから」

「インフラを整える必要もないのですよ」

「なんですって?」

「今日は勉強させて頂きました。ドルイドの残骸はいくつか差し上げましょう。どうぞお調べください。解析できるものならね」

「……そうさせてもらうわ」

「私たちは、貴重なサンプルを頂きますので……」


 旧坑道から地鳴りのような音が響いた。


「何!?」


 カイドがニカニカと笑う。

「やっぱりてめぇは素人だなぁ! アズの罠にハマりやがった」

 連鎖する爆発音。入り口周辺にいたロボットたちが危機を関知したのか、退避する。


 朝に仕掛けた崩落用の爆薬を、アズラが起爆させたのだろう。無事だろうか。信じてはいるけれど、少し心配になった。


 シドと目が合う。

 いや、気がかりなことがあるのか、辺りを見渡して、何かを警戒している。


 …………紫ロボがいない。旧坑道にも入って行かなかった。


「……もう、容赦は致しません」

 白ロボ真中のスピーカーからやや興奮した高い声が響いた。


「こちらも、準備が整いました」

 リズが気迫を込めて手で印を結んだ瞬間、ロボ軍団の中心に巨大な水の球体が出現した。


「耳塞いでろよ」

 同じく念じていたペティの右手にマナが集約する。

 ……マナじゃない、青い火の玉だ。離れた場所からでもわかるくらいにすさまじい熱気を帯びている。


 火の玉はペティの手元から離れても尚大きくなりながら、リズが展開している水の防御壁の高さを超えた所で制止した。


 異変を察知したロボ軍団が身を屈めて水の球体から飛び退こうとした瞬間、突如、ロボたちの足下から水が湧きいでて凍りつき、脚部にまとわりついた。

 広範囲に展開されたせいか薄氷で、氷の足止めはすぐに砕けた。刹那の時間を稼ぐにすぎななかったけれど、その瞬く間に、大きな変化が訪れた。


「爆ぜろ!!」

 ペティの放った高熱の青い火の玉が、リズが造った水の球体に接触した。

 轟音が鳴り響く。


 ……水蒸気爆発というやつだろう、これは。凄まじい爆発音と共に生じた爆風でロボたちが吹き飛び、リズ自らが造った、メンバーを守る水の防御壁も弾け飛んだ。


 ガラガラと音をたてて落ちていくロボ軍団の砕けた残骸。


 ……白ロボ真中は健在。被害を免れたロボットたちが隊列を組み、メンバーに向かっていく。


「お前はハナタロウたちと合流しろ!!」

 シドが叫んだ。


 そうか、紫ロボは花太郎たちを追っている!


 悠里に目配せをすると、頷きが返ってきた。

 僕は花太郎が持つ”エアッちボール”めがけて瞬間移動テレーポートした。


次回は、8月30日 投稿予定です。


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