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第118話 深部到達

 悠里が立ち止まった場所は、僕たちが出入り口を探すために透過で潜入したときに引き返した、昇り階段の前だった。不滅の青いランプに照らされてはいるものの、階段は螺旋状に延びていて、奥の様子はよくわからない。

「入り口のワームホールの先とは偉い違いだぜ」

 荷物の運搬に活用できないかと、リッケンブロウムへと続くワームホールに進入し、崩落でぼろぼろになっている部屋を見たカイドが、全くの無傷といっても過言ではない螺旋階段を見てつぶやいた。


「この神殿全体に強化魔法がかけられているのう。壁の灯りや、結界も同時にかけられているようじゃし、マナが異常なほどに濃密なここでしか成立しない術式じゃろうな」

「マイナシウムの発生源は、やっぱりココにあるのかしら……」

 ニモ先生の解説を聞いたユリハのつぶやきは、少し沈痛なものだった。


 僕と花太郎はアルターホールとなって宇宙人みらいじんたちの引き揚げ(サルベージ)によって三次元に出現し、砂を生成しては辺りにまき散らして、広大な砂漠を創りあげた。


 悠里はアルターホールとなって植物の種子や胞子を周囲に蒔いて”幻霧の森”を創った。


 NOSAの五人も、各々が何らかの物質を生成し、単体で地球の環境を変えてしまえるほどの影響力を持っていた。


 再構築を経た後も、物質は消えることなく残る。だけど、マイナシウムは違うのだ。


 マイナシウムは、一定の分子が集まって結晶化しなければ、すぐに消滅してしまう。

 AEWでは、大気や水の成分とマイナシウムは結合してるしているけれど、その結束はとても弱く、ほんの少しの衝撃で分離してしまう。この結合の弱さ故に魔法が成立するのだけれど、魔法に使われなかったマナは、一度分離してしまえば、例外なく消滅してしまう。


 結合力が弱く、すぐに消滅してしまうマナがAEWの大気中に満ちているのは、地球上のどこかで、大量に生成され続けているから。この現象がどのようにして起こっているのかは現在の科学やAEWの魔法学においても、未だにわかっていない。だけど、全ての法則を覆して、あらゆる現象を簡単に起こすことができる物質がある。アルターホールだ。


 ……もしマナを生成し続けているのが、アルターホールだったら。


 住人たちの力と長命の源、電気の代用品であるマナを造っているのが、僕たちが探している最後のアルターホール……香夜さんだったら。

 僕たちが香夜さんを救うと同時にAEWから魔法が消滅する。

 ムーン・グラードに赴任する前、ユリハが示唆した可能性の答に近づいている実感があった。


「ユリ。マナの濃い方にいけばいいんだね?」

「ええ、お願い」


 螺旋階段を上りきってからいくつか通路の分岐があったけれど、アズラの鼻が、マナの気配を敏感に嗅ぎ分けていたので、躊躇することはなかった。


 通路を抜けると、突然高い天井の部屋にでた。部屋の間口、奥行き、共に十五メートル程だろうか。

 高い壁のど真ん中には、広間にあったような、観音開きの大扉があった。


「待ってくれ! アネゴ!」

 僕と悠里がすり抜けて中の様子を見ようとすると、ペティが止めた。

「ここから先に、強いマナを感じます」

 リズはそう言い放つと、詠唱を始めた。


 悠里の前方にだけ出していた水壁が半球状に広がって、調査隊全体を覆った。足下にも隙間なく水が広がって、外気と調査隊を隔離した。


 ……もちろん、僕だけが水壁の外にいた。

「エアっち! 落ち込まないよ!」

[別に何も言ってないじゃん! ほっといておくれよ悠里!]

「何、夫婦めおと漫才してんねん! コントなら、もっと仲良う、傍によってやったらどうや?」


 僕がバタバタしている様を眺めてアキラがケラケラ笑っていると、ユリハがFUヘラクレスを装着して厳つくなたアキラの肩に「ポン」と手をおいた。

 血の気が一気に失せるアキラに構うことなく、ユリハは言った。


「傍に行ってもらうのは君よ。アキラ君」

 ユリハは大して力を入れずスッと、背中を押しただけで、アキラは水壁の外へと押し出されてしまった。顔はなぜか真っ白になってた。しょうがないので筆談でコミュニケーションを図った。


【お前、ユリハにビビりすぎ】

「……うるせい」


 この半球状の水壁を維持するには詠唱を続けなければいけないらしい。


 この先にはどうやら、ペティとリズも簡単に関知できてしまうほどの”ヤバい”量のマナが渦まいてて、リズが造っている水のドームは、密閉された空間で探索隊を保護するためのものだという。


 マナの影響を受けない僕とアキラが、この扉の先を調査するのは……まぁ妥当な判断だと思う。


「空気のハナちゃん。おまはんがすり抜けて先に行くんや!」


 ……妥当な判断だろう。でも、アキラの言いぐさにちょっとイラっとしたので、メッセージを残してやった。


【一番乗りが大好きなアッ君。悪いね。”一番”を譲ってもらって】


 アキラが僕のメッセージを読み終えると、アキラが大扉の取っ手を掴んで、引っ張りだした。

「そこで指くわえて見とれぇ! ふんぬぅ!! ふんぬぅ!!! ほんごぉぉぉぉ!!」


 扉はビクともしない。


「サイア、取っ手に糸を結びつけろ」

「わかった」

 シドの指示でサイアが糸の先に重りをつけて、構えた。

「リズの水壁がある。まっすぐ狙うなよ」

「うん」


 サイアが山なりに重りを投げると、水の半球にぶつかってやや軌道を変えながらも、正確に大扉の取っ手の部分へと到達した。


「ストリング・バインド!」


 観音開きの大扉の片側に魔法で糸を括りつけると、もう片方に同様の作業を行った。ノーミスで投擲に成功したサイアを花太郎が感心して誉めたら、案の定照れてしまったサイアをみて、欲情したペティと悠里が彼女を奪い合った。

 詠唱の為に身動きがとれないリズの口から「ギリリ!」と歯ぎしりする音が聞こえたけれど、魔法は解けなかったので、「リズってすごいな」と思った。



 糸に触れているサイアと詠唱しているリズを挟んで、調査隊は左右に分かれた。カイドとシドが持つ斧の柄の部分にそれぞれ糸を巻き付けて、メンバーはそれを掴んで構えた。シンベエとアズラは両翼でできうる限り巨大化している。


「やれ! 嬢ちゃん!」

「ストリング・ストレングス!」


 カイドの号令でサイアが糸に強化魔法をかけ、それを確認したメンバーは「せーのっ」の合図で、糸が括りつけられた斧の柄を引っ張りだした。


 大扉が開くと、もう一つ、観音開きの扉が現れた。今度の扉はアキラの力だけでも開けることができそうだ。


『アキラ君、開けられる?』

「はぁ~い。あけられるとおもいますぅ」

 ユリハが無線クリアカムでアキラに指示を出した。僕は「ちょっと遠くに聞こえるな~」程度の感覚だったから気づかなかったけれど、どうやら水壁が肉声を遮断しているらしい。アキラがFUのマイクに向かって、ため息まじりの返答をしていた。


 アキラは自分ではビクともしなかった大扉が簡単に開いてしまったから、やるかたない気持ちでいっぱいなのだろう。仕方がないので【数の力に勝るものなし】とメモ帳に書いて慰めておいた。


「せやなぁ。せやなぁ」

 言いながらアキラは短い通路をトボトボと歩き、観音開きの扉の左右の取っ手を掴むと、それを引っ張った。簡単に開いた。


 扉の先には、ワームホールがあった。


 そして、地面がなかった。

 


次回は6月29日 投稿予定です。

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