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第108話 バテバテの防衛戦

「アキラぁ、カニってのは、こんなグロかったっけかなぁ?」

「カニっちゅーより、ヤドカリやな」

「ああ、確かに。いいおダシがとれそう」

「知っとるか? タラバガニって、厳密にはカニやなくてヤドカリの仲間なんやで」


「二人とも、しっかりしてよ!!」


 花太郎が所持しているエアっちボールから瞬間移動した僕が最初に目にしたのは、現実逃避しかけている花太郎とアキラ、そして二人を現実に引き戻すように、声を張りあげているサイアの姿だった。 


 完全に包囲されていた。けれど、三人と一定の距離を保ったまま近づこうとしない。


「もう、薬使い切っちゃったよ!」

 サイアがタカヤシが忌避する薬品を周囲に振りまいたらしい。


「じり貧やな」

【アキラ、幻影は?】

 僕がメモ帳で、アキラに幻影魔法を使うように促す。

デコイはだめや、見てみぃ」

 アキラが花太郎の幻影で無数の花太郎を作り出すと、八方に向かって一斉に走らせた。


 タカヤシの群れの一部が幻影の花太郎に向かって飛びかかる。


 しかし、群れの数が多すぎて、こちらの包囲が崩れる様子は全くない。

「おい! 僕が食いちぎられているぞ!」

「リアルやろ? あの幻」

 見ると、幻影の花太郎たちが、タカヤシたちに食い尽くされている姿があった。幻影は触れることができないので、アキラがカニたちの動きにあわせて、花太郎の身体を凄惨せいさんに変化させているのだ。


「もう!」

 サイアが怒ってアキラを小突いたことで、アキラがようやく現実に目を向け始めた。

「幻影で姿消せないかな?」

「ハナ、それはアカンやろ。移動時に跳ねられたら、お嬢が撒いてくれた薬のラインを越えてまう」


 敵性生物の講義でタカヤシの習性についても学んだ。群れで移動するタカヤシは、仲間の背中に乗って飛び跳ねて動くことがある。個体は高さ一メートル程度の台形のボディに、長い六本の足で、横歩きはせず、縦に移動する。足を伸ばせば体長三メートルは越えるだろう。アキラの幻影で花太郎たちの姿を消せても、ロードローラーをかけるような群れの大移動と、長い足による跳躍で、命が助かる保証はない。


「薬が、飛んじゃう」

 サイアが撒いた薬品は石灰質の粉状のもので、風が吹けば飛ばされそう、というか、微風で吹き飛び始めていた。地面の一部分には水を撒いた跡があって、薬品が半分溶けて固まっている。しかし、持ち合わせの水が足りなかったのだろう、円上に撒かれた薬品の一角には、水のかかっていない部分があって、そこの粉が今にもなくなりそうなのだ。


『状況は?』

 アキラの持っている無線のスピーカーから、ユリハの声がする。


「完全に囲まれてもうたぁ!」

 さっき聞いたよ!


「サイア嬢の撒いた薬で、襲撃は免れているよ。だけど、もう薬がないんだ」

 花太郎がアキラに変わって通信する。


『わかったわ。咲良ちゃんが救援に向かうから、信号弾を放って』


 アキラが「信号弾!」と体中をまさぐったあと、顔が真っ青になった。

「……あかん、落としてもうた」

「アホ!!」


『……エア太郎は近くにいる?』

「うん。いるよ、母さん」

 絶望している大の男二人に変わってサイアが返答する。


『エア太郎、上昇して咲良ちゃんに位置を知らせなさい。なるべく派手に飛び回ってね』


 ”YES”のサインをサイアに送る。


「”わかった”だって」

「その手があったな」

「頼んだでぇ! 空気のハナ!」


 僕は花太郎に[食われるなよ]と健闘の言葉を送ると、上昇し、なるべく派手目な赤い色の衣服をイメージして身にまとうと、空中を上下に大きく旋回した。


 遠くで、咲良のFUが低空飛行しているのが見えた。けれど、向こうもどうやら戦闘中らしい。というか、向こうのタカヤシの群れの方が遙かに数が多い。つまり花太郎たちは、打ち損じたおこぼれの群れに包囲されているのだ。


「今日はカニ鍋やな」

「食われるなよ」

 花太郎が僕が伝えたのと同じ健闘の文言をアキラに送った。さっきまでの現実逃避とは違う「時間を稼ぐぞ」という確固たる意志があった。


 甲殻類には痛覚がないため、ハンドガンでは効果が薄い。花太郎は、ユリハ特製の刀を鞘ごと手に持った。


「なぁ、アキラ、カニって共食いするのかな?」

「ザリガニはするから、カニもするんとちゃう?」

「試してみるか。サイア嬢、一匹縛ってくれる?」

「わかった」


 サイアは弓を装備していたけれど、リールとつながった矢をつがえることなく、直接タカヤシに投げつけた。

「ストリング・バインド」


 最前で手ぐすね引いているタカヤシの一匹に糸が巻き付くと、花太郎はそれを掴み、引っ張り上げて刀を起動させた。


 革製の鞘の先端には金属の突起がついていて、それが小刻みに振動する。電気で稼働するこの鞘と一振りの刀を、ユリハは”超音波ブレード”と名付けた。


 タカヤシの胴体に鞘の先端が突き立つと、接触部分の周囲を溶かすようにして硬い甲殻の中へと鞘がめり込んでいく。超音波の共振現象を利用して金属を震わせ、対象を切断する仕組みだ。もちろん刀身にも同じ機能が備わっている。


 花太郎は突き立てた鞘を起こして、縛られたタカヤシを持ち上げると、鞘から刀を抜き、片手でタカヤシを両断した。


 両断されたタカヤシの片割れを、アキラがFUの武装である魔法鉄拳マジックブローを起動して殴り、遠くへと飛ばす。花太郎は鞘に残った方のカニを、アキラが飛ばした方角とは反対の方へと振り飛ばした。

「……効果ありそうやな」

 

花太郎が仕止めたタカヤシを同胞たちが喰らうのをみて、アキラがつぶやいた。


「それだけ飢えてるってことだろ?」

「ハナはほんまにネガティブやな」

「やられる前にやるぞ。こっちから先制しよう」


 いずれ薬品は吹き飛んでなくなってしまう。ならば、と、花太郎たちは砂を蹴り上げ、防衛ラインの一角にあえて穴をつくった。待ち伏せしてカウンターで仕留める作戦だ。


 切れた円の一角から、カニたちが流入してゆく。前衛は花太郎が務め、花太郎の横をすぎた個体は、アキラが魔法鉄拳で叩きつぶした。

 個体が大きいから、一対一で戦闘が行える状況だった。サイアは花太郎が切り散らかした個体を魔法で縛っては、小柄な少女とは思えないほどの強靱なドワーフの力でもって、群れの中へと投げ込み、共食いさせて攪乱かくらんを図る。


 序盤の戦況は優勢ではあったけれど、徐々に押されていった。戦線離脱班として、全速力で走った上に包囲されての籠城戦。休む暇のない攻勢に花太郎がバテ始めたのだ。


「しっかりせいや! ハナ!!」

 花太郎の打ち損じが増えれば、アキラに多くの負担がかかる。常人のアキラのスタミナ切れは花太郎よりも早い。


 ゼヒ、ゼヒ、ゼヒゼヒと花太郎の息切れが酷くなる。

「はぁ、なぁ! きぃばぁれ!!」

 アキラはもっと酷かった。

「こぉなぁぁくそぉぉ!!」


 防衛戦が崩れさりそうだったその時、上空から隕石が落ちてきた。

 タカヤシたちが蹴散らされる。


 隕石の正体は、咲良だった。


「咲良ちゃん!」

 サイアが歓喜の声を上げる。


 それからの咲良の孤軍奮闘っぷりを眺めて、花太郎とアキラ、そして僕も多分、ポァンと口を開けていた。


 魔法障壁を展開した咲良の体当たりが、タカヤシたちを一掃していく。

 地面スレスレを飛行する咲良は、カッコよくて、美しかった。


 サイアが造った薬品の防衛ラインから螺旋状に飛行し、咲良が通った後は地面が抉れ、ミステリーサークルのような模様が出来ていた。


 強すぎるだろ、咲良。


『そっちは無事か?』

 無線からカイドの声が聞こえてきた。花太郎が「みんな無事だよ」と返す。


『よかったぜ。収穫はどうだ?』


 この問いには咲良が返した。

「これから選別するよ。大漁なのは間違いないね。オッチャンの方は?」

『こっちにはほとんど来なかった。ひとまず拠点に戻るぜ』


 通信を切ると、花太郎たちは咲良に教えてもらいながら、タカヤシの選別に入った。じきに拠点防衛に回ったシンベエが、回収にくるらしい。食べられそうなタカヤシを選別しながら、アキラが「まさに弱肉強食やな」とつぶやいた。


 シンベエがAEWの戦士を背中に乗せて迎えにきた。

「スパイディ・ネット」

 サイアが、糸繰りの魔法で、大きな網を拵え、花太郎達が、その上に選別したタカヤシをポコスカと積み上げていく。


「よかった。ギリギリ足りたみたい」

 どうやらこの魔法は糸を大量に使うらしく、サイアが所持していたリール一本分の糸を、使いきってしまったようだ。


「では、ゆくぞ」

 サイアは糸に強化魔法をかけるためにシンベエに乗ったけれど、荷物が多いので、花太郎とアキラは徒歩による帰還を余儀なくされた。今日はすべての作業を中断し、みんなでタカヤシを保存食に加工する作業を行うとのことだ。


 僕は高く上昇して、拠点の位置を確認すると、花太郎に方角を伝えた。

「しっかし、ハナよぉ。その武器、ちょっとカッコええな」

「ん? 超音波ブレード?」

「せやせや。忍者刀ってゆうんかな、その形。ちょっと触らせてくれへん?」


 花太郎は「まぁいいけど」と言いながら刀を渡し、アキラが鞘から抜き身を出した。


「刃渡り短いくせに重いんやな」

「バッテリーがね、結構ウェイトがあるんだよ。すぐ無くなるし」

 刃渡り六十センチ程度の片刃の直刀で、反りは全くついていない。反りがなくても切れ味が衰えないからだ。鞘の先端についている尖った金属も含めて、忍者刀をモチーフにした、と、ユリハが言っていた。


「動かしてみてもええか?」

「……反動がすごいよ?」

「ちょっとだけなら大丈夫やろ?」

「まぁ、いいけど。こっちに向けないでくれな」


 反りがないのには、他にも理由がある。

 鞘で突くときに効率よく力を加えることが出来ること。そして、……少しでも刀身のバランスを保つためだ。


「あ、うおぉ、あばぁ!!」

 超音波ブレードを起動させたアキラの腕が振動で蛇のようにうねる。

「しびれるだろ? これ」


 花太郎はこの結果がわかっていたのだろう。アキラから刀をもぎ取ると、スイッチを切った。

「こんなん、不良品やん!」

とんがってるよね、この性能。開発者の性格が滲みでてるのかな」


 帰還後、それでも花太郎の得物を羨ましがったアキラを見て、ユリハが「これなら使えるんじゃない?」とアキラに得物を支給した。伸縮する特殊警棒型のスタンガンだった。


 浮かれたアキラが過剰にスタンガンを使用したため、初日でヒューズを飛ばしてしまい、ユリハにヒューズの交換方法を教わりながら怒られていた。

次回は6月9日投稿予定です

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