第107話 インフラ整備と、離脱失敗。
「エア太郎がいればできるんじゃない?」
翌日、地質学者達に”コー”を見てもらう間、掘削班は坑道のインフラ整備を行うこととなった。
拠点から坑道までの道のりに目印をつけることと、”コー”を岩抜きしたエリアの整備だ。
今日の采配は掘削班が多めに割り振られ、さらに班内で目印をつける組とエリア整備の二組に分かれて行動する。
昨日の班の中では花太郎とサイアが、目印を付ける組に割り振られた。僕はカイド達と一緒にエリア整備を行う。
悠里は肩書き上、掘削班のレギュラーメンバーに当てられているけれど、彼女の活躍はまだ後みたいで、きのこフレンズ三人で食料調達を担当した。
そして、アキラが掘削班に立候補した。
マナコンドリアを持たず、地質学の専門知識もないアキラは、この地質調査隊のチーム内では一番の役立たずである。まぁ、それを自覚したんだろう。
「FUがあるから大丈夫や!」
と主張するので、花太郎達と目印を付ける組にまわった。
上空で咲良が坑道までのルートを確認し、低空飛行で地面に印を置いていく。花太郎やAEWのたちが拠点から資材をワラワラと持ち出し、FUヘラクレスを装着したアキラは、魔石で動く荷馬車に交じって、木杭を積載したリアカーを曳くことになった。
FUヘラクレスは、操作方法自体はレベル1のFUアキレウスと大して変わらないらしい。相違点は、両腕の小手にノズルが追加されていることだ。
バックパックで推進力を得て、脚部のノズルで舵を切る。FUヘラクレスは、そこから両腕のノズルを活用することで、さらに小回りが利くみたいだ。そして、アキレウスには無い武装が追加されている。
魔法鉄拳。拳を保護する部分に高密度のマナを収束させ、腕部ノズルの出力にモノをいわせて目標を殴り飛ばす技だ。
一見するとかなりカッコいい。パワードスーツのロマンが詰まったような武装だった。技能修得中のアキラが調子に乗って思いっきり魔法鉄拳を空撃ちし、反動で地面を転げ回ったことは言うまでもない。
FUヘラクレスの操作を習得したことで、逃げ足だけでなく護身程度の戦闘力を得られたというのが、アキラが作業の参加を認められた大きな理由である。
僕たちが担当したエリア整備では、アズラが巨大化してカイドたち人員を、シンベエが必要な資材を運んだ。
アズラの背負い子姿を久しぶりにみた。ほんの三ヶ月程前のことなのに、砂漠での出来事がとても懐かしく感じる。
シンベエは空を行くから、僕たちより先行できるはずなのだけど、アズラの後方を飛んでいた。……道がわからないのだろう。
坑道の入り口に到着した。アズラはあたりをキョロキョロと見渡してから、入口には入らず、ノシノシと明後日の方角へ歩き始めた。
「……このあたりだね」
アズラが立ち止まった所は、坑道の入り口からかなり離れた場所だった。
「エア太郎、さっきの入口の場所わかる?」
僕は”YES”のサインを送った。
ユリハは、僕やカイドたちに、メモ帳なしでも簡単なコミュニケーションがとれるように”ハンドシグナル”を創って、覚えさせた。
”YES” ”NO” ”警報” や、方角、数字などなど。
その時、花太郎とアキラの野郎が”僕はカガリユウリ外界交官をお慕いしております”という訳の分からないサインを創って、悠里に教えていた。最近寝る前になると、悠里からそのサインを要求される。
「エア太郎にはレーダーになってもらうわ」
「頼んだぜ、エア太郎よ」
”YES”のサインを受け取ったユリハたちは、僕に、僕にしかできない任務を課せた。
シドと二人で坑道の入り口まで戻り、中へと入る。魔石のランプを点けながら、サイアが伸ばした糸をたどって”岩抜き”を行った深部のエリアに到達すると、シドはコーを抜き出した部分に、派手な色合いの目印を付けた。
「後は任せたぞ」
”YES”のサインを返すと、シドは来た道を戻っていく。僕はそのまま上昇した。
「ドンピシャだね」
「やるじゃねぇか、アズ」
天井をすり抜けて地表に出ると、ちょうど眼前にカイドが立っていて、ニカニカと笑っていた。
「エア太郎、まずはじめに、”岩抜き”箇所を一つずつ、垂直に昇って来て頂戴」
ユリハの指示を受け、僕は再び地中へと潜った。
シドが付けた派手な目印の前に立って、そのまま真上へ上昇する。僕が地表に現れた地点に、カイドが印を付ける。
「上出来だぜ、エア太郎」
繰り返し作業を行い、地表に地中エリアの図が描かれた。
シドが合流し、アズラはさらに巨大化する。
「頼んだぜ、アズ」
「あいよ」
アズラが描かれた図を元に、地面を蹴りあげて掘削を始める。
作業の効率化と坑道内の資材を流用するため、新しい入り口をココに造るのだ。
「ここの土は、やはり脆いな」
「ああ、古い坑道があってよかったぜ。資材を運ぶとなると、一苦労じゃすまねえからな」
「……魔境、か」
カイドとシドは、アズラの堀り進めるエリアを確認しながら、今後の作業行程を相談していた。
「お手柄だったわね、エア太郎」
僕は時々地上と地中を行き来して、掘削ポイントに誤りがないか、落盤が起きていないかなどをチェックしていたけれど、手持ちぶさただったので、ユリハに素朴な疑問をメモ帳に書いて尋ねた。
不思議だった。ユリハから、この作業の依頼を受けたときに覚悟していたのだけど。地中に、生物がいなかった。
基本的に地中は真っ暗だけど、感触はある程度わかる。有機物か無機物であるかは、すっかり薄らいだ僕の触覚でもわかるのだ。
……地中の生物って、グロいじゃん? 旧地球でいうところのミミズとか、蟻さんの巣とか、なんかの幼虫とか、絶対すり抜けるよなぁ。って、覚悟しながら挑んだけれど、何往復しても岩の感触ばかりで、生物に接触している感覚は皆無だった。
「……ここ、植物もないわね」
ユリハの指摘の通り、見渡す限りは、ムーングラードに植物が繁茂している場所はなかった。僕のいたタロ砂漠にだって、ある程度植物はあったし、生物も住んでいたというのに。 タロ砂漠の数千分の一程度の面積しかないムーン・グラードには、境界線が引かれているかのように、灰色の丘ばかりのエリアを越えると、すぐの所に緑豊かな大地が広がっているのだ。
「……ここの砂は”レゴリス”、堆積岩なの。もしかしたら、養分がないのかもしれないわ……」
ユリハはしばらく思索していたけれど、明瞭な答えは得られなかった。
『進捗はどう?』
花太郎が血液通信で世間話を始めたので、通信を返した。
[ちょうど昼休憩に入ったところだよ。入り口はもう掘り終わるね。後は足場を造る作業かな]
『こっちも昼休憩に入ったよ。サイア嬢がまかない作ってくれた』
[よかったじゃん]
『人数もいるし、等間隔で杭を打ち込むだけだから、そんなに手間はないんだけどさ。こっちはもう一日かかるかも、だって』
「花太郎と通信してるの?」
ユリハが昼食のサンドイッチを頬張りながら尋ねてきたので、頷いて答えた。
「向こうの進み具合はどうなんだ?」
シドの問いにはメモ帳にペンを走らせて返した。日本語しか書けないから、ユリハに通訳してもらう。
「字、少しは綺麗になったじゃない」
[あ・り・が・と、ユリハ]
日本語で書いたメモをユリハが翻訳して伝えると、カイドとシドは今後の打ち合わせを始めた。
のんびりとした昼食を終えて作業に取りかかろうとしたとき、ユリハの持っていた無線機のスピーカーから声が聞こえた。
『警報! こちら杭打ち班、タカヤシの群体と交戦中。そっちにも向かっているぞ!』
「しばらくは食うに困らなそうだね」
通信を聞いたアズラが喜んだ。ユリハが「了解」と返すと、双眼鏡を持ってアズラの背中に乗り、高く跳ねて、周囲の状況を見た。僕も上昇した。
花太郎たちの居場所はいまいち掴めなかったけれど、ムーングラードを横断する敵性生物の群れをすぐに見つけることができた。
タカヤシ、というのは、いうなればリクを移動する巨大なカニだ。食用で、結構うまいらしい。
動きはすばやいが、単体の戦闘力は大したことがない。けれど、群体で行動する事が多いので、油断は禁物だという。
「確かにこっちに向かってきているわね。結構な数よ」
ユリハは着地したアズラの上からカイドたちに状況を伝えた。
通信は交戦中にも関わらず、救援要請ではなくて注意喚起だった。 AEWの戦士たちにとって十分対応できる相手なのだろう、余裕のある口調だった。
「アキラ君と花太郎は大丈夫かしら」
ユリハがつぶやいたとたん、スピーカーからアキラの声が聞こえた。
『こちら戦線離脱班! メーデー! メーデーや! アカン、カニ共に囲まれてもうた!』
「現在地は?!」
『わからへん、ここどこやぁ、ハナァ!?』
スピーカーから「知るか!」と花太郎の声が聞こえた。
「バカヤロウ! なんの為に木杭打ち込んでんだ!」
迷子になった戦線離脱班に、カイドが檄を飛ばす。
「エア太郎、行ってあげて」
ユリハの指示を”イエス”で返して、僕は瞬間移動した。
瞬間移動した先には、アキラ、花太郎、サイアの三人がいて、すっかり包囲されていた。
次回は6月7日 投稿予定です




