カウントダウン
「ねぇねぇ、ミカンとってー」
妹の、のんびりとした声が俺に聞こえてくる。
「はぁ?自分で取れよ」
言いながらも、こたつの天板にあるかごに盛られている蜜柑の山を、グイッと妹へと押す。
両親は除夜の鐘聞きたいと言って、あっという間に家から出て行ってしまった。
残されているのは、居間に残っている俺と妹だけ。
寒いのが苦手な俺らは、とりあえず小さいころから集まっていたような記憶がある。
その中心がこたつだ。
こたつに蜜柑、そして目の前にはテレビ。
手野テレビでしている大晦日の番組で大笑いをしてから、例年通り午後11時40分からは神妙な気持ちになる。
単に年越しとだけの番組名で、手野鉄道の沿線からの中継で、それぞれの様子を見るという番組だ。
本当に年を越すタイミングでは、手野市にある手野八幡神社、大凡寺、手野浅間神社、金元寺のいずれかからの放送となる。
輪番制らしく、今年は手野八幡神社からの年越しになりそうだ。
そこにテントを作って、中継しているからだ。
「おー、今年は八幡さんからかー」
妹が天板に頬ズリしながら、テレビを見ている。
もはや注意する気もない。
テレビの右上に秒数と分数が出てくるころは、ちょうど日付をまたぐ5分前だ。
「すぅ……すぅ……」
寝息が聞こえてくるのは、妹からだ。
どうやら待っている間に寝てしまったらしい。
「風邪引くぞー」
といいつつ、俺は起こす気はない。
寝るのは妹の自己責任、それは最初に言っておいたことだからだ。
ただ、兄として、風邪を引きそうな妹を放置するわけにもいかない。
こういう時のために、こたつの傍らには毛布が2枚ある。
その一枚を引っ張って、わざわざ立ち上がって、毛布を掛けてやる。
ちょっと身じろぎして、妹は毛布を引き寄せる。
「ではみなさん、来年もよい年でありますように……」
テレビから声が聞こえる。
あと10秒で年越しだ。
カウントダウンは止まりそうにない。
そこで、ふと下を観ると、可愛い妹が、小さく笑っているように見える。
「年越しだぞ」
はち。
「起きないのか」
なな。
「起こしてやらんぞ」
ろく。
「……」
ごー、よん。
「ったく」
さん。
「人の気も」
にー。
「知らんでさ」
いち。
「あけまして、おめでとうございますっ」
テレビがめでたさ満点で声を挙げた。
妹は寝ている。
「明けました。おめでとうございます」
言いつつ、妹のでこにデコピンをかます。
「あてっ」
起きたようだ。
「よう、年越したぞ。いつまで寝てるんだ」
「ふぇぇ?」
俺を見て、毛布を手に取り、それからテレビを見た。
ようやく、現状を理解できたころには、さらに3秒は経っていた。
「……あーっ」
「俺は起さんといったよな」
「言ってたけど、言ってたけどさぁ」
何やら不満が溜まっているようだ。
それを俺は気にも留めず、妹に言う。
「親んところ行くぞ。初詣さ」
「そうだったね」
そんな約束してたね、と忘れてたように言った。
そして、妹とともに、電気を全部切ってから、俺らは家を出た。




