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悪魔のプライド

「何、当事者抜きで話を進めようとしてやがるんだ?」


ポカリ、という音がして、蝙蝠のニックは頭を叩かれてバランスを崩しよろめいた。

何だか可愛い。

そしてニックの後ろには、いつの間にかサタンが現れていた。


「サタン様!?昏睡状態だったのでは!?」

「あの程度力使ったくらいで昏睡するほど弱ってねぇよ。ちょっと久しぶりに寝てただけだ」


天使が見る限り、サタンの体調不良は回復したらしい。

何故かそのことに少し安心していた。


「で、何で今回俺の契約を邪魔するような真似してくれたのか、まず説明してもらおうか?」

「邪魔などと……」

「邪魔だろうが。あ、アンジュ、昨日お前を駅のホームから落としたのコイツだから、数発殴ってもいいぞ?」


そういってサタンはニックの羽を持って天使の方へ差し出してきたが、実際には天使には怪我もないし、殴る気にはなれなかったので丁重に辞退した。


「でも、どうしてニックは私を突き落としたりしたの?」

「……」


無言のニックの代わりに、サタンがため息混じりに答えた。


「たぶん、さっさとアンジュの魂をもらう為、だろうな」

「?魂は、契約が完了したときに渡すんじゃなくて?」

「まぁ、本来そうなんだが、実際には契約内容は曖昧なものが多いんだ。たとえば金持ちになりたい、なんて願った奴がいたとして、現実にいくらの金を得れば金持ちかは定義されてない。だから本人的には不満でも、死んだときには魂をもらうことになるのさ」


どこかで読んだことがある。

悪魔との契約は、呼び出した段階で成立してしまう。半分詐欺みたいなものだと。


「それでも、悪魔信仰や儀式はかなりの時代に渡って盛んだったよねぇ~?不満だらけだったら、誰もやらなくなると思うんだけどな~?」


商売に置き換えて考えてみるとよくわかる。

お客の口コミと言うのは、良くも悪くもかなりの影響力を持つ。


「そりゃあ、悪魔には契約を遵守することにプライドがあるからな。普通、契約者の望みを叶えないで魂もらうなんてことはしない。金に関してだって、その時代の誰が見たって金持ちだと思う程は与えるさ。それで、自分はまだ不満だとか言っても、そんなもんは聞かないけどな」


つまり、モンスターカスタマーには容赦ないが、商売自体はきっちりしていると言う訳だ。


「じゃあ、今回ニックはどうして?」

「……このままでは、サタン様が死んでしまうと思ったからです」

「死ぬ?悪魔って死ぬの?」

「さぁな。正直、悪魔の死体なんて見たことないからわかんねぇけど、中世にはあれだけたくさん居た仲間の姿を最近はほとんど見かけないのは事実だ」


悪魔の国、みたいなものがどこかにあるのだろうか?

しかし、悪魔信仰が盛んだった頃はヨーロッパのそこかしこで姿を見かけたのかもしれない。

サタンがハイテクに疎いことを考えても、悪魔SNSコミュニティなんてものは存在しないのだろう。


「まぁ、悪魔に伝わる都市伝説みたいなもんだ。ずっと魂を吸収しないでいる奴は、人間になるってな」


人間、つまり短命で悪魔のような特別な力を持たない存在になるということか。

それならば、死ぬというのも頷ける。


「まぁ、単純に死にたくないってのもあるが、悪魔は悪魔を呼び出すような類いの人間しか知らないから、そうなることを恐れるってのに由来するもんだ。だが、真実は分からないし、俺は、人間やるってのも悪くないとも思ってる」

「サタン様!?」


驚くニックのことを、サタンは完全に無視していた。


「まさか、人間になってみたくて、今までずっと契約しなかったとか?」


天使は真面目に聞いたのだが、それに関してはサタンは一笑に伏した。


「そんな訳ないだろ。俺は迷信とか都市伝説とか本当にあった怖い話とかは信じない派だ」

「しかし、サタン様!」


なおも食い下がるニック。

この不毛な議論に解決策を提示したのは、意外にも亜美だった。


「たぶん~、サタンさんはまだ当分は死なないよ~?まぁ、人間で言う死んでるって状態にならないって意味だけどね~♪」

「なぜ、お前のような小娘にそんなことが分かるのですか?」


動揺の為か、ニックの話し方が無礼なのか丁寧なのかわからなくなっている。


「この間、サタンさんの髪の毛から調べた限り、DNAのテロメアがす~っごく長いんだよね~。これ、寿命が長い証なの。あとはね、そもそも人間と契約してる最中に突然死ぬだか消えるだかする悪魔なんて、いるのかな~?」

「……」


恐らく、後半部分の理論によってだろうが、ニックは遂に反論出来なくなった。

確かに、契約中に悪魔が消えて助かった、または何かが起こったという話は聞いたことがない。


「と、言うことは、アンジュが生きてる間は俺も安泰って訳だな」

「たぶんね~♪まさに一蓮托生?」

「悪魔と一蓮托生なんて嬉しくない」

「そんなこと言わずに、これからもよろしくな!」


大団円、な3人だが、ニックはそれでも納得行かないようで、


「今日はこれで帰りますが、こんなことで私が諦めたとは思わないで下さいね!!」


テンプレートな捨て台詞を残して、ニックは虚空に消えていった。


「ま、これでしぱらくは静かだろ」

「だといいわね」

「さてさて、人生、悪魔生がつまらなそうなお二人さん♪」


悪魔生って何だというサタンのツッコミはスルーで、亜美は続ける。


「この夏休みは一緒に死ぬほど遊び倒さな~い?」

「お、いいな」

「どうせ~、天使ちゃんはそんなに遊びも知らないと思うし~、あたしが二人に新しい世界を教えてあげるよ~♪」


亜美はとっても楽しそうだった。


「新しい世界って……私は研究とか科学には興味ないわよ」

「天使ちゃん、あたしのこと、研究ばっかりしてて寝てない子だと思ってるでしょ?」

「何よ、違うの?」

「あたしが万年寝不足なのは~、研究の合間にいろんな友達と遊んでるからだよっ♪仕事とプライベートの両立は大変なのさっ♪」


研究バカだと思っていた幼なじみが、超絶リア充だと知ったときの衝撃は、こんなに大きいものなのか……。

正直、天使はそんなに新しいことをするのが好きではない。知らない人に会うのも面倒だと思う方だ。

それでも、この夏休みは亜美に付き合ってもいいかと思った。

サタンも乗り気のようだし。


「わかったわ。この夏休みは、亜美に付き合ってみることにする」

「うん、期待してて!」


暑いだけで嫌いな夏が、今年は少し楽しみになった。

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