遊園地に行こう
「うおぉ、なんだ、これ!て言うか、すごい人だな!」
そんなこんなで勢い任せにやってきた夢の国とよばれるテーマパーク。
入場門をくぐるなり、サタンのテンションは上がりまくっていた。
「日本でたぶん一番有名な遊園地よ。人の数は、平日だから少ない方なはずだけど」
で、どこから行く?と入場ゲートで取った地図を広げる天使だったが、サタンはその地図を奪い取った。
「何するの?」
「せっかく面白そうな場所なのに、んなもん見てたらつまんないだろ。楽しむために来たんだから、色々見て、気になったところに入ろうぜ!これ持ってたらどこでも入れるんだろ?」
そう言って、首から吊るしたパスポートを天使に見せる。
瞳がキラキラと輝いている。子供みたいだと思いながら、天使も少し楽しい気分になってきた。
「そうだけど、食べたり飲んだり、アトラクションによってはお金かかるからね」
「わかってるって。とにかく行こう!」
そう言って、さらっと天使の手を取って歩き出す。
しかも、それは恋人繋ぎで……あまりにも自然だったので、数歩後に認識して、天使は思わず赤面する。
「ちょ、ちょっと!何で手を繋ぐのよ!?」
「何でって、周りの男女はみんなこんな感じだし、楽しそうにしてるから、その方がいいんじゃないかと思って」
「周りはみんなカップルでしょ!?」
「あれ?もしかして、アンジュは他に恋人がいるのか?」
「いないわよ、いないけど……」
「じゃあ、いいじゃん。それとも、絶対拒否するくらい嫌か?」
そう、顔を覗き込まれながら聞かれ、サタンは顔色一つ変えていないことが少し悔しいのと、繋がれている手は悪魔のくせに暖かかったので、渋々承諾することにした。
「……仕方ないから、繋いであげる」
「おぅ、じゃあ行こう」
そうして連れ立ってパーク内を歩き始めた。
◆◆◆◆◆
そして夕刻。
パーク中央に聳えるお城の前で、本日最後のショーが始まるのを天使とサタンは待っていた。
手には、結局気になって買ってしまったお菓子や、グッズ、そしてアトラクションで撮られた写真が収まっている。
「サタンって、普通に写真に写るのね」
「悪魔は幽霊じゃねーよ。後、ヴァンパイアの一族は写らないのもいるな。今度機会があったら紹介してやるよ」
「そういう人外コミュニティあるんだ……」
そんなことを話していると、あたりは暗くなり、本日最後のショーが始まった。
天使がそれを観るのは、いつ以来だろうか。
別に特別、テーマパークが好きと言う訳ではない。
でも、その光景は美しいと感じられるもので、この時間がもう少しで終わってしまうのが少し寂しいと思った。
◆◆◆◆◆
閉園のアナウンスを聞きながら、天使とサタンは最寄り駅へ向かう。
閉園直後の電車ということで、ホーム内はかなりの人で埋め尽くされていた。
天使は最前列でサタンと横並びで電車を待っていた。
♪まもなく~ 2番線に列車が参り~ます
独特の抑揚がある駅アナウンスが流れ、電車のヘッドライトがホームに眩しく射し込む。
「えっ……」
天使は小さく声をあげた。
誰に触られた感覚も押された感覚もなかった。
それなのに、気付いたときには自分の身体はホームから線路に向かって投げ出されていた。
叫ぶことも出来ない。
迫ってくる車両。
やっと恐怖を感じて、もう次の瞬間に自分を襲うであろう衝撃に目を閉じて、身体を固くする。
しかし、天使が想像していた衝撃は襲ってくることは無かった。
かわりに、少し長めの浮遊感の後、重力が復活し、自分に覆い被さる何かの感触。
「大丈夫か?」
小さく聞かれて、ようやく自分の上にいるのがサタンだと分かる。
「私は、大丈夫。だけど、何がどうなって……?」
「あぁ、たぶん……」
「大丈夫ですかー!?」
何かを説明しようとしたサタンの話を遮ったのは、駆け寄ってきた駅員の声だった。
とりあえず、駅員に対して、誰かに押されたりしたのではないことを説明し、二人はそのまま帰してもらえることになった。
しかし家に着くと、サタンはそのまま倒れこんでしまった。
「サタン?どうしたの!?」
「あー、さっきお前助けるのに飛んだからな。少し、疲れた」
「そう、なの?何か、必要?」
「いや、ただしばらく動けないかもしれねぇから、寝させてくれ」
「わかったわ」
天使は自分のベッドを今日はサタンに使ってもらうことにした。
サタンが横になったのを確認して、カーテンを閉めようとベランダの扉に近づいた。
バサッと何かが飛び立つ音がして、その影は、サタンを呼び出した日に見たニックのような気がしたが、あまり気にすることはなく、天使自信も眠りに就いた。