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初めてのお買い物

「寒い!」


外に出て、何度目になるかわからない文句をサタンは繰り返していた。

今は10月になったばかり。晩秋、または初冬と言える季節。

服を買いに行くにしても、そのままの格好では一緒に歩くのも恥ずかしいという、サタンからすれば理解出来ない理由で天使に燕尾服の上着は奪い取られ、今はシャツ1枚に黒い長ズボンのみという格好である。


「もう少しだから、我慢しなさい!」

「自分はセーターとか着てるくせに、ずるいぞ!」

「だから、今からそれを買いに行くんでしょ!」


字面だけ見ると、まるで親子の会話である。

そんなこんなで、天使の自宅から歩くこと20分ほど。目的地の店の看板が見えた。


「着いたわ。ここよ」

「…まさか、このビル全部…?」

「当たり前でしょ。UMIQLOなんだから」


そう、赤地に白字の目立つ看板。最近はどうやら日本人のお客よりも外国人の方が多いらしく、いくつかの言語でTAX FREEの文字が並ぶ。


「……すげえぇぇぇ!!」


自動ドアを入ると、山積みに並べられたカラフルな服に、サタンは純粋に目を輝かせていた。

見た目が見目麗しい外国人に見えるサタン。だが、初の日本旅行に来た御上りさん的外人を周りの人に思ってもらえればそこまで違和感はない。

天使は自分の店チョイスに心の中で、目いっぱいのガッツポーズをとる。


「はいはい、とりあえず、メンズのTシャツコーナーとか行くわよ」

「お、おぅ」


放っておくといつまでも買い物できそうになかったので、天使は半ば強引にサタンの腕を引っ張って連れていく。

3Fメンズのコーナーにたどり着き、とりあえず格安のTシャツを試させた。

……のだが。


「……こんな壊滅的にカジュアルスタイルが似合わない人って、いるのね。いや、人じゃないけど」


試着室の前で、天使は絶望していた。

そもそも、服を買うのにUMIQLOを選んだ理由は家での会話にあった。



◆◆◆◆◆



「なぁ、後で言うと怒ると思うから先に言うんだが…」


珍しく、サタンが殊勝な態度を取るので天使はちゃんと聞いてやることにした。


「服って、1万円で買えるか?」

「店によるわね。いやに具体的な金額だけど、何なの?」


そう尋ねると、少しだけバツが悪そうにサタンは頭をポリポリ掻きながら答えた。


「いや、俺ら悪魔って基本的には人間の金って必要としないんだよ。だが、契約するとしばらく人間と一緒に生活することが多いわけだ。悪魔との契約で、経済的なことを願う奴の場合は問題ないが、それ以外の場合は必要経費的なものが出てくる」

「それで?」

「今俺が支給されてるのは、人間感覚でいう時間1か月につき、日本円で1万円。だからそれ以内で」


何だろう、この、彼氏に「俺、安月給なんだ。だからデートはファーストフードかファミレスで」って言われた時のような感覚。


「…サタン、なんか可哀想」

「俺に同情すんなっ!!」



◆◆◆◆◆



まぁ、上の会話があったからと言って、自分が服を買ってあげるというのも何か違うと思った天使は、1万円でトータルコーディネート出来る店を考えた結果UMIQLOを選んだ訳だ。

それでとにかく安いものから、とTシャツ、チノパンなどを選んだのだが、これが究極的に似合わなかった。

以前、そこそこイケメンだと思っていたクラスメートが視力の低下で眼鏡をかけるようになって、それが壊滅的に似合わなかったときに受けた以上の衝撃だった。


「アンジュ、どうした?頭か腹でも痛いのか?」

「…あぁ、うん、ある意味頭は痛いわ」


とりあえず、カジュアルスタイルは諦めて、元の服に着替えさせる。

多少値段は上がるが、あんな服装で隣を歩かれては燕尾服と対して変わらないので、スーツ・シャツのコーナーでコーディネートを試みる。

元の顔とスタイルは決して悪くないのだから、頑張ればエリートサラリーマン風に出来るのではと天使は考えていたのだが…


「…どう見てもホスト。でもこれが限界か……」


このコーディネートなら、以前の服でも変わらない気もしたが、どうやら悪魔のくせに寒さを感じるらしいサタンの為に、コートと替えのシャツ、そしてかろうじて見られるGパンの購入を決めた。

これだけ買ってもかろうじて1万円で足りる辺りは流石UMIQLOと言うべきだろう。


サタンを見られる格好に変えたところで、天使は当初の目的である大学まで行くことにした。


「そういえば、大学ってのは俺が勝手に入っても大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。私の通ってるところはそれなりに大きいから、正直誰が勝手に入ったってわからないわ」


セキュリティ的にはどうなのかと思うが、確かに日本の総合大学は多種多様な人間が居て、年齢層も幅広い。堂々とさえしていれば、まぁ入っても大丈夫だろう。


天使の予想通り、大学の正門をくぐり、図書館で本を返し、その後もの珍しそうにするのでサタンに構内を適度に案内しても、誰にも怪しまれることはなかった。

だが、そろそろ帰ろうかとしていた時。


「あれぇ~?天使ちゃん?」


ちょっと天然入ったような声が後ろから聞こえた。

振り向くと、そこには見知った顔。いまさら他人の空似です、というのは通じない。

隣にはサタン。


さて、どう説明しよう…。

本日2度目のひどい頭痛が天使を襲った。

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