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五玉君の異世界転生物語はここで終わってしまった

作者: べりや

「異世界に転生、ですか?」



 私は新人女神のアテナ。

 実は手違いで地球の若者を一人殺してしまいました……。このままだと地球がある世界を治めている神様に怒られてしまいます。


 そこで閃きました。

 この若者を私の世界に転生させれば良いのだと(今、すごいドヤ顔してると思う)。


 若者にはすでに地球に生き返らせる事は不可能であり、このままだと輪廻の輪に囚われて地上で七日間しか生きられないセミだったり人間に食われるための牛だったりに転生するかもしれないから、(私のミスを帳消しにするため)私の世界に転生するよう取引を持ち掛けています。



「どうかな? 転生してくれる? えーと……」

五玉(ごだま)五玉志田多(ごだましだた)です」

「ごめんね、志田多君。人の名前を覚えるのが苦手で……。それで、私の世界に来てくれますか?

 君も嫌でしょ?」

「嫌って輪廻する事ですか?」

「そうそう。それに君もやりたい事とか、したい事とかあったでしょ? 私の手違いとはいえ、それを志半ばで諦めるのは辛いよね。本当にごめんね。

 だからせめて償いという意味でも私の作った世界に転生して。私の作った世界は異世界ファンタジーのような世界だから魔法もあるし、剣もあるし……。知り合いの所だと転生した人が鉄砲作って英雄になったりしているらしいし、君も転生して来世を謳歌してみたら?」

「いや、そういうの間に合っているので。そもそも鉄砲の作り方を知っているような危ない趣味は持っていないのですし。あと、下の名前はちょっと……。恥ずかしいというか。せめて氏で呼んでくれませんか」



 く、中々手ごわい。このままじゃ手違いで志田多――五玉君を殺してしまった事がバレてしまう。

 五玉君がどうしても異世界に行きたいと暴力にも訴えてきたと言えば私に角が立たないだろうし、私の世界で技術革新とか、英雄とかになってくれれば面目も立つはず。なんとしても異世界に転生させねば。



「そ、そうだ五玉君。チート! チートをあげるよ! 武器を作ったり、戦ったりするのに慣れてないでしょ? 魔力とかたくさんあげるよ。並列思考とかの方が良い? それとも演算とか召喚とか――」

「いや、そういうの間に合っているので……。チートもらって目立つのも嫌なんで」

「で、でも力があればハーレムとか余裕だよ? 男の子の夢でしょ?」

「別にそんなこと無いですよ。そもそもそんな偏見で見ないでください」



 く、怒られた。

 男の子はみんなハーレムにあこがれているというのは確かに偏見かもしれない。

 一人の女性に深く愛してもらう純愛派という事か。



「そもそも女性は視姦するだけで十分です」

「へ、変態! 私をそんな厭らしい目で見ていたの?」

「視姦だけであれば罪に問われませんし、その上、女性を脳内だけですが好きなように出来ます。それに女と付き合うって、めんどくさくないですか? 金かかるし、自由な時間が減りますし」

「ぷぷ。それって言い訳かな? 非リア充かな?」



 五玉君は「そう受け取っても構いません」と潔く言い放った。なんだこいつ。発想が変態だ。

 と、言うか草食すぎないか? 見ているだけで満足しちゃうの? さすが平成の草食系男子。

 異世界で英雄になる事にも魅力を感じないのか!?



「それじゃ、質問いいですか? その、神様? の世界についてなんですが」

「うん、良いよ良いよ。あとなんで神様の語尾が疑問形なのかな?」



 五玉君は腕を組んで「それじゃ……」と質問を口にしてくれた。



「インターネットはあります?」



 アチャー。さすが現代っ子。インターネットの申し子。



「ごめんね。そこまで文明のレベルが高くないの。地球で言う所の中世ヨーロッパのような感じ」

「中世ですか……。衛生観念の低いあの時代ですよね? 大人になる前にペストで死にそうですね」



 おとと。これは悲観すぎないかね。



「確かあのくらいの時代って平均寿命が確か三十くらいでしたっけ? 乳幼児の死亡率も格段に高そうですし。転生したは良いけど、すぐに死ぬんじゃ……」

「だ、大丈夫! 魔法とかあるから。回復魔法とか、治癒魔法とか。なんならチートで病気にならないようにするから」



 まさかこんな事を聞かれるとは思わなんだ。



「ちなみにその世界の平均寿命はいくつですか? あと乳幼児の死亡率とか」

「ご、ごめんね。私、新人だからそういうのまだ把握してなくて……」

「管理人も把握していないような所に送られるかもしれなかったんですか?」

「い、いやそういう意味じゃなくて……。と、とにかく魔法があるから地球と直接比べるのなんて無理ですよ! 怪我や病気は魔法で治るんです」



 このままだと絶対に転生を拒否される。それは何としても避けたい。世界のためにも。(そして私のためにも)



「偉くなったとしてやりたい事とかありませんし」

「そ、そんな。お金とか沢山もらえるよ? 偉くなれば彼女も出来て君もリア充の仲間入りだよ」

「お金は大事なファクターですけど、無理して貯めるほどのモノじゃありませんし。ほら、清貧に生きろって聖書に書いてあるでしょ」

「そ、そうだけど。あ! 奴隷!」

「奴隷とかいりませんよ」と五玉君が首を振る。平成日本で生きて居ると奴隷と言われてもピンと来ないか。

「言い方が悪かったね。パートナーとか? 君の言う事をなんでも聞くような存在。ほら、欲しいでしょ? ね? ね?」



 むむ、と五玉君が反応した。これは手ごたえを感じた。

 やはりゆとりある世代だけあってお手伝い係りが必要か。



「そいう存在は良いですね。何かの討伐などはそれに頼めば良いし。何よりもニートになれるのが良い」

「いやいやいや。そんな自堕落な生活は駄目だよ」



 ダメですかと残念そうに溜息をつく姿にもう呆れしか起きない。



「あと、転生した所で何をすれば良いんです? 異世界の人に宗教でも弘めれば良いんですか?」

「そういうのは自由で良いよ。好きな事をして、好きなように生きられる自由がある。

 だから現世で出来なかった事をやり直したり、新しい事に挑戦したり――」

「あ、そういうのいいです。現実でも己はなんのために生きて居るのか考えて暮らしていたのに、転生しても何のために生きるのかわからないままなんて沢山です」

「なに、その哲学発言!?」

「俺としては仏教的な発言のつもりですが……。まあ、この際、言いますが、来世が人間に踏みつぶされるアリだろうが、人間に食われるための牛であろうが、七日間しか地上にいられないセミだろうが、大して変わりません。

 そもそもそうやって永遠に輪廻する事の方が苦しみですよ。手塚治虫先生の火の鳥って知ってます? 死んでは生まれ変わってを繰り返して死の恐怖におびえる毎日ってよくよく考えると残酷どころの話じゃないですよね。

 そうそう。何に輪廻するか分からないのが嫌だと聞きましたよね? 輪廻が嫌って言うより輪廻という業苦を重ねる方が嫌です。

 このような苦しみから解き放たれ、一切の煩悩と執着を焼尽に帰して悟りの涅槃の世界へと脱出したいものです」



 な、なんだこの無欲さは。神様もその無欲には唖然だよ。

 チートも要らない、ハーレムも要らない、パートナーをあげると言えばニート宣言。

 そして神様に輪廻を説くその姿。


 これが、これがゆとり世代ではなくさとり世代か。



「そういう事なので異世界の話は無しで」



 五玉君の異世界転生物語はここで終わってしまった。


『コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた。』って面白いですね。

世の中、さとり世代という物があるというのを知りました。


まあ仏教の基本理念は煩悩を捨てて、輪廻から脱しましょうね、ですから仏教系の人にとって異世界転生物はNGなんでしょうか?(キリストさんだったりイスラムだったりは死後の世界は最後の審判に向けてのスリープモードだからよけいにNG?)


最後に登場人物について。

アテナ

ギリシャ神話のあの人。新米の女神(神様なのに新米とはこれ如何に)


五玉志田多

ゴータマ・シッダッタから。さとり世代。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに仏教的には転生より輪廻からの解脱で異世界転生が成り立たないw 面白かったです
[良い点] この展開(ストーリー)は新鮮で楽しかったです。 確かに煩悩を捨てましょうという仏教系と、煩悩(欲望)全肯定なギリシャ系とでは水と油ですよね(笑)。 そもそも女性は視姦するだけで十分です…
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