覚悟と団結
「いやこれには事情があってだね……」
「当たり前だよ事情もなく廃部にされちゃたまったもんじゃないよ?!!」
理由を説明しようとする御幸にまくしたてるマリー。相当に慌てているようだ。
「ストレスは溜まるけどね、ププ」
メグ先輩に至っては衝撃で頭がおかしくなってしまっている。
「どうしてそんな話になったの?」
パウエルたそが冷静に話を進めようと質問する。ああかわいい、かわいいよエルたそ〜。
「いやそれがねかくかくしかじかで」
「わかるわけないだろ!」
「なるほど生徒会に活動内容が不透明かつ部員も少ないから、今度の竹ノ大高校統一部活動報告会、通称『竹友会』で芳しい活動報告ができなかったら廃部にするってか………」
「なんで分かるんだよ?!!」
恐るべし幼馴染。
「いくらなんでも突然過ぎない?」
「私もそう言ったんだけど、ランキング下位の意見なんか聞く耳持たないって…」
「何それ信じられない!!横暴よ!」
「それが許されるのがこの学校よ…」
息巻いて不平を言っていたマリーも御幸の一言に言葉を失った。
そして部室に沈黙のカーテンが降ろされた。
誰一人として口を開こうともしない。皆それぞれこの状況を重く捉えているようだ。かく言う僕自身も新参者という立場ではあるが、多少の深刻さを感じていた。強引に連れられ、勝手に体験入部扱いにさせられてしまったが、居心地は悪くなかったし、出会った人々は皆魅力的だった。こんなに素晴らしい人たちが集まる場所を無理矢理消し去るなんてことがまかり通っていいのだろうか?そんなはずはない。ここに集った人たちの思いはそんなに簡単に消されていいものじゃないし、ここで紡がれるべき青春はここで無くなってしまうにはあまりに惜しい、出会って間もない僕にすらそう思わせるほどの場所を決してこんな形で失わせてはならない。心の底からそう思えた。
道は見えていた。答えももうでていた。
顔を上げると御幸と目が合った。
一度だけ。一度だけ肩を並べて舞台に立ってやらなくもない。
彼女が屈託のない笑顔を浮かべる。
「そこで私から案があります。次の竹友会で、私たち哲学部は漫才をします!!」
「どうして漫才なの?」
疑問に思ったマリーが問う。
「そりゃあもちろん、ここが竹ノ大だからよ。」
「……?」
「真面目に活動報告しても、みんなの印象に残らないし、そもそも活動内容が不透明だから普通にやってもまず廃部は確定。それならお笑いランキングを逆手にとって、会場を爆笑の渦にまきこんだその勢いで廃部させないようにしよう。ということですよ。」
御幸の言葉に困惑したマリーを見兼ねてメグ先輩が助け舟を出した。
よかった。どうやら正気を取り戻せたようだ。安心安心。
「そういうことよ!!」
「なるほど、そこで千歳の出番ってわけか」
「そう!お笑いランキング超上位ランカーの実力を以てすれば竹友会で大爆笑間違いなし!!私たちの哲学部も存続確定よ!」
「すごいすごい!」
嬉しそうにはしゃぐパウエル。ああ本当にかわいいなぁパウエルは!
……しかし彼は男であった。
「……というわけなんだけど、お願い、できるかな?」
上目遣いでこちらを見つめる御幸。
途端にフラッシュバックする過去の思い出。やたらと眩しい照明。微妙に高さの合わないスタンドマイク。暗くて見通せない観客席。そして、隣に立つ相方の横顔。そのどれもがもう無理だと、残酷に無慈悲に僕に叫んでいた。お前にはできないよと、舞台の上で輝く星にはなれないよと。
……でも。でも、もう一度だけ。一度だけ。
「……1回、だけなら。」
「………やったーーー!!」
返事を聞いて御幸がオーバーに喜ぶ。
正直に言えば、自分がもう一度舞台に立つイメージなどまったくできもしないが、目の前の少女と一緒に立つ舞台がどんなものなのか見てみたくて、この依頼を受けた。僕に舞台に上がる資格などもう無いのかもしれないが、それでも、この少女ならば、この少女と一緒に立つことで、許されるのかもしれないと、そう思っている自分がいた。
「さぁ!当面の目標が決まって、ちーちゃんの承諾も得れたことだし!」
「ちーちゃん言うな。」
油断をするとこれである。
「竹友会に向けて、頑張るぞー!」
「「「「「「おう!」」」」」」
初夏の校舎に響き渡る少年少女の掛け声。反響するその音に秘められた思いは一体どこになにを届けるのか。
こうして竹ノ大高等学校哲学部伝説の第一歩が踏み出されたのである。