予感と驚愕
とりあえずしばらくは体験入部という形にさせられた翌日の放課後、今日は早めに家に帰って野良猫でも愛でようかと考えているのに夢中になっていた僕は背後から近づくもう1人の仲間に気づかず、眠らされてしまった……!目が覚めた時には………体が縮んでしまっていた!ということはなく普通に御幸に首根っこを掴まれ普通に部室まで連行された。そう簡単に名探偵にはなれません。
今日の部室には昨日知り合ったメグ先輩の他に、いかにもスポーツマンといった風貌の同学年と思しき少年と、見るからにハーフといった容貌の少女に加え、ぱっと見男なんだか女なんだかよくわからない、おそらく少年とみられる人物が先に陣取っていた。ていうかなんだこの子可愛過ぎるだろ。
「お、今日は結構いるね!」
部室に入るなり御幸が元気良く言う。
「久しぶりだね〜。特に千歳きゅん!」
「いや昨日も会ってるしなんならさっきからずっと一緒にいるけどね!」
どうやら彼女の生きる時間はとても早く流れるようだ。価値観の相違。
「さすがは第5位ってところか」
そう言いながら会話に入ってきたのは先ほどのスポーツマン。洋室風になっている方の部室奥に構えるソファにどっしりと座るその姿は雄々しく勇ましい。その目は野心に燃え、その体は研ぎ澄まされた刃のような鋭さを持っていた。そんな彼の姿は、サバンナで悠然と佇むライオンを連想させた。
「サッカー部2年、沙原実咲。皆はサキって呼んでる。よろしく。」
ダメだ名前めっちゃ可愛かった。ライオンじゃなくて子猫だった。
「あ、よろしくお願いします。」
「なんで敬語なんだよ、タメでいいじゃん」
「それもそうだね。よろしく」
「よろしく」
明るく周囲を盛り上げていくタイプの人間のようだ。御幸もこれぐらいに落ち着けば普通に可愛いのに。……なんだ可愛いってんなわけあるかバカか
「そっちにいるパツキンロリっ娘がマリー。そこでめっちゃパソコン使い過ぎて家の電気代の7割はパソコンの分になるくらいは使ってますって顔してるのがパウエル。」
「誰がパツキンロリっ娘だ!!」
御幸が全く自己紹介する気配の無い2人に代わり紹介したところ、マリーと言われた少女がものすごい勢いで御幸に食ってかかった。
「2-Aの荻原真里よ!マリーでいいわ!いい!パツキンツンデレロリっ娘とは絶対に覚えちゃダメよ!絶対だからね!」
「勝手に属性足しちゃってるけど」
「あ……わ、忘れなさい!今すぐに!」
「分かった。そのうちそうするよ」
「それ絶対しないやつじゃない!」
悲痛な声をあげるマリー。どうやらいじられの才能があるらしい。愛くるしい見た目と大人ぶろうとする性格が生み出すちぐはぐさが可愛くてついいたずらしたくなってしまう、そんな不思議な魅力を持った少女だ。パツキンロリ万歳。
「パウエルです。パソコンならちょっと自信があるから、デジタル関係で何か困ったことがあったら僕に言ってくれたら嬉しい、な?」
何この子めっちゃかわいいじゃない肌の透明感とかなんなのガラスなの?
僕もまあまあ男の娘だなんだかんだと言われてきたけど、この娘にはさすがに敵いません。その艶やかなショートカットの髪であるとか、透き通るような素肌であるとか、ビードロのように煌めくつぶらな瞳であるとか、圧倒的な実力差がそこにはありました。
べ、別に悔しいとか思ってないから!!
「さて、今日は珍しく集まりがいいみたいだし、やっておきたい会議ズバッといっちゃいますか!」
一通り初対面の儀式が終わったところで御幸が突然どこからか取り出してきたホワイトボードを背に会議の開催を宣言した。
呆気に取られている僕にさりげなくイスをすすめてくれるメグ先輩。良妻力。
「今日集まってもらったのは他でもない!」
「いや勝手に集まっただけだけどな」
茶々を入れるサキ。御幸と彼はおそらく恋人なのではないかと思う。なんか距離とか近いし。
「細かいことはいいの!それより今日はみんなに伝えたいことがあったの!」
「なんなのその『みんなに伝えたいこと』って」
皆が抱いていた疑問を口にするマリー。サバサバしているというか、意外と言いたいことはズバッという性格のようだ。
「実は……来月の竹ノ大高校統一部活動報告会、通称『皆月会』で生徒会が納得するような成果を報告できなければ、哲学部は廃部です!!!」
意味の分からないことを言う御幸。
やはりこの少女には頭のネジがいくつか飛んでいるのではないかと思う。
ってもう廃部危機ってどういうこと?!!
「「「「「ってもう廃部危機ってどういうこと?!!」」」」」
どうやらこの人たちとは仲良くやっていけそうだと、ぼんやりと感じた。