1話・少女の記憶
「はあっ、はっ……」
息が切れそうなほど走っている。どれぐらい走っただろうか。
少女の瞳には涙が滲んでいた。後悔が募るほど、膨らむほど涙は粒になってぼろぼろでてくる。
「うぅ……助けて……っ」
「ガアアアアアアルルッ!!!」
突如怪物の悲鳴に近い叫びが聞こえる。
「ひっ……!」
草木に身を隠し怪物が通りすぎるのを待つ。
お願い通り過ぎて!しかし、少女の祈りは儚く運命は訪れる。
少女の目の前に、怪物がいた。
「きゃあああああっ!!」
少女もまた、悲鳴に近い叫びをあげて後ずさる。
その後、全力で走っているのに、ねぇ、どうか助けてよ、神様。いるんでしょ、いるんなら返事の一つぐらい、姿の一つくらい、出してよ見せてよ。
「ガアアアッ!!」
怪物が迫ってきた。
少女が死を覚悟したその時だった―――――――
「うおおおおおっ!!!」
少年が怪物の脳天目指して剣を振り翳した姿が見えた。
剣は淡い光に包まれている。魔法かなにかをかけているのだろう。この時代に魔法、魔術はめずらしくないが使える者はめずらしく、人々から好奇の目で見られることが多い。
と、まぁこうして少年はあっさり怪物を倒してしまったのだ。
「先ほどはありがとうございました」
「お礼なんていいよ、それより大丈夫?」
「あっ……」
少女は自分の手足に目を向けた。傷だらけの身体ともに服もボロボロだった。
しかし少女は頷く。
「……大丈夫です」
そう言って手の傷にそっと片手を触れた。
黄緑のような光を放ち、傷口が塞がっていく。
「お前……魔術師か……?」
魔術師。あらゆる魔法を駆使する魔法使い。
「ちょっと、違うかな」
少女が答えたのはそれだけだった。
闇の森と呼ばれる森は怪物が潜んでいる。
それはお母さんから聞いたこと。
お花摘みに出かけると言って、嘘をついて森へ足を運ばせた。
目的?
探し物。
女神があの森にいたって噂を確かめるため。
あれから、何年かの時が過ぎた。
私はまた、あの森へ向かう。
好奇心に駆られて、少女……彼女だろうか。17歳になったティルフィアは家を出た。