小鳥とソーマ
カバンの中身をひっくり返す、制服のあらゆるところを探す。
「……ない…」
入学してすぐに生徒手帳を無くしてしまったのだ。
「見つかった?」
僕の隣にいる澪夜は心配そうな顔で探すのを手伝ってくれている。
「無い……」
みんなが帰っていった教室の中で僕ら二人は黙々と生徒手帳を探した。
「落とした……?」
澪夜が、ぼそりと呟き僕のほうを見る。
「んー、落としたって言っても……ぁ」
心当りが見つかった。
今朝の、体育館裏だ。
今朝の事を思い出すと顔が赤くなるのが自分でもわかった。
澪夜が驚いたような顔で”大丈夫?”と、言って顔を覗き込んでくる。
普通に美女だね。うん。
「ごめん、心当りがあるからそこ行ってみるわ。先帰ってていよ」
「え?あ、うん……わかった……」
彼女は納得いかないような顔をして僕に手を振って見送ってくれた。
少し迷いつつ体育館にたどり着いた
裏に回ろうとしたらそこには春がいろんな部活の勧誘を受けていた。
今見えてるのだけで、バスケ、バレー、野球、テニス、ラグビー、陸上………。
困ったような顔をして勧誘の人達を交わしていてこっちに気付く。
「あ、ゆーう!!」
勧誘の人達の間をすり抜けて、僕の方に来て、肩を組んで、言った。
「すいません、今日コイツと今からデートなんでまた後日ってコトでよろしくです!!」
「はぁっ!?」
彼の方を振り向くと爽やかスマイルで勧誘の人達に手を振ってそそくさと逃げ出し体育館裏に回る。
回る最中に女子生徒がニヤケながらこちらを見ていたのは気のせいということにしておこう。
「ふぅー、ちょうど良かったよ。アレ人多過ぎてめっちゃ困ってたんだ、サンキュな」
くしゃくしゃの僕の頭を撫でて言った。
「デートってなんだよデートって」
少し睨みつけて言ったが彼は全然怖がらずにまた爽やかスマイルで
「んなもん、冗談だよ、じょーだん」
と言った。
「たりめーだろ!!ばぁか!!」
頑張って肩を小突いたが何もなかったように彼は再び笑う。
この笑顔に長年負けてなんでも許してしまう。
「で、なんでお前ここいんの?」
「あー、生徒手帳無くしちゃってさ朝ここに来たから落としてないかと思って」
「あー、そっか、大変だな」
「うん、見つけたら拾っといて」
「おぉ、見つけたらな」
探す気ないなコイツと思いながら苦笑いをした。
「お前もなんか行くとこあるんじゃないの?」
「あ、バスケ部に見学行かねーとな」
「そっか、じゃ、ココでバイバイだな」
「おぅ、見つかるといいな」
と言って彼は体育館に向かっていった。
「さてと、探すかな」
しゃがんでみて辺りを見回しテミルガそれらしい物が見えない。
桜の花びらが落ちているので見つけやすいとは思ったのだが、なかなか見当たらず何回も見回す。
その時背中に衝撃がきた。
「いてっ」
「おっ、と」
振り向くと人影があり春ほどではないが大きい体をしていて、無造作に伸びてき金髪に、中々のイケメンヅラ、背が高めの丈夫な筋肉質な体、左耳だけにしてるピアスは、今朝見たアイツにそっくりだ。
「あ、小鳥ちゃんじゃん?」
「こ、小鳥?」
男は今朝のディープ・キス野郎だ。
そして僕はコイツに名前を名乗った記憶がない。
てか、名前じゃないだろ、小鳥って。
「ほら、今朝アンタ急いでどっか行ってこれ落としてたからさ」
彼が右手に持っているのは僕の生徒手帳だった。
「あ、それ僕の!!探してたんです!!」
彼の手から受け取ろうとしたら生徒手帳が上に上がった。
コイツ、僕が小さいから届かないだろうと思っているのか……。
手を伸ばして何回か飛んでみるがかすりもせず……。
「ちょ、返してくださいよ…」
「お礼とかないわけ?」
「え、お礼……?」
飛ぶのをやめて相手を見るお礼……か。
「してくんないの?」
「じゃ、じゃあ、一つだけゆう事聞く……ってのは?」
彼は一瞬ポカーンとした表情を見せて笑い出した。
その隙に生徒手帳を受け取る。なんだコイツ。
「ホントにしてくれんの?わー、嬉し、」
お腹を抑えながら笑っている彼についていけずに何回か頷いてみる。
「んー、じゃ、今日から俺の子分ね」
「はぁ?」
「アンタ後輩なんだから良いだろ、よし、今日から子分ね」
「ちょ、勝手に進めないで下さいよ」
「なんでも聞くって言ったじゃん、嘘つくの?」
「……わかりましたよ」
この人アレだ。危険な人だ。
「やった、じゃあよろしくね小鳥ちゃん」
彼が微笑む。
綺麗な顔がとてもお昼過ぎの光を浴びて魅力的に見えた。
「ってか、なんすか小鳥ちゃんって…」
小鳥ちゃん。確かに名前の中にははいっているがそこだけを抜き取って言うのは普通の発想ではできない。
「だって、名前が小鳥遊優じゃん?しかも、アンタ小鳥みたいにどっか飛んできそうだし、ちっちゃくて可愛いから?」
から?って疑問系で返されても困るんですけど……。
しかも可愛いって何!?
確かに生まれつき僕はおとなしい性格だから間違えられる事は少なくはないけど背も伸びたし、髪だって少し短くなったから女には見られないだろうと思ってたのに……。
「じゃ、先輩の名前はなんですか?」
「んー、俺は、冴島蒼馬」
「じゃあ、冴島先輩?でいいですか?」
「ぷ、そんな堅苦しくなくていいよ、ソーマでいいよソーマで」
なんていうけれどさっき後輩だからと言ったのはどこの誰だっけ……。
「はいはい、じゃ、蒼馬先輩で」
「まぁ、ギリギリ許す」
彼は再び微笑み”それじゃね”と言って体育館裏を後にした。
高校生活に不安が増した入学式だった。