act5戦闘
会場へ入ると、公爵はワイングラスを片手にパーティーに招待された客と会話をしていた。
その少し向こうに、猟犬が刻まれた紋章を制服に付けた青年がいた。
「なるほど、会場の警備にハウンドをね…ま、ハウンドつってもここにいるのは三人だけみたいだし、問題なし…と。」
人混みを掻き分け、公爵との間合いを徐々に縮めて行く。
「ーーーしかし、わざわざ招待してもらって申し訳ないですな」
「お気になさらず、息子のハウンド入隊記念のこのパーティーを楽しんでいただければ光栄でございます。」
「しかし、あの息子さんも随分と成長なさられた。」
「私の自慢の息子でございます。」
公爵の背後を取り、刃を伸ばし、真後ろまで忍び寄る。
「ん?………ガッ……‼︎‼︎⁉︎」
後ろを振り向こうとした瞬間に首に刃を突き刺し、ゆっくりと刃を引き抜く。
徐々に首から血が溢れ出て、公爵はゆっくりと崩れ落ちていった。
公爵が崩れ落ちて視界が開けた時、少し向こうにいたハウンドの青年と目が合った。
「……。…‼︎衛兵隊‼︎俺に続け‼︎あの白装束を拘束しろ‼︎」
小さく口角を釣り上げると、青年は持っていた武器を構えて衛兵に指示を出しながらこちらへ駆け出してきた。
辺りからは悲鳴が上がり、会場は逃げ惑う人々で溢れかえって悲鳴と怒鳴り声が不協和音を奏でた。
衛兵達はこちらを囲むように立ち、それぞれが中央に立つ俺に向けて武器を突きつけてきた。
「…アルト・クラウソラス、貴様を拘束する。」
「ほぉ〜そいつはまた面白いな、やってみろよ。」
少し斜め上を見上げて頷くと、俺を囲んでいた衛兵達に矢が刺さり、俺を包囲していた壁はなくなった。
「おっと、全員倒したと思ったんだけどな〜。」
「…ハウンドを…舐めるな。」
青年は長剣の刃を折りたたんで盾のようにして矢を防いだらしい。
こちらが息を付く間も無く刃を展開し、体を捻りながら横薙ぎに刃を振るってきた。
地面を蹴って後方へ下がりながらダガーを左手で逆手に引き抜き、命中すればぶつ切りにされるであろう一撃を受け流す。
「他のよりはできるみたいだなぁ、退屈させないでくれよ?」
戦っていて気分が高揚してきたのはいつぶりだっただろうか。…面白い…。
空いた右手でサーベルを引き、サーベルの切っ先を相手に向け、ダガーを持った手を添えるようにして構える。
向こうと同時に始動して間合いを詰める。
長剣とサーベルが激しくぶつかり、火花を散らす。
ある意味、パーティーの盛り上げイベントのように感じるだろうが、これはイベントではない、殺し合いだ。再び横薙ぎに振るわれた一撃をバックステップでかわした瞬間、別の方向から長剣を首筋に突きつけられた。
「そこまでよ。おとなしく投降しなさい。」
「おっと、敵は一人だけじゃないんだったや」
もう一人ハウンドがいたことをすっかり忘れていた。
気づけば俺は、二人のハウンドに包囲されていた。
そこへもう一人、武器を構えて今にも俺を叩き切ろうと駆けてくる。
「よくもッ!父上を‼︎‼︎」
「馬鹿ッ‼︎マルコ‼︎下がれ‼︎」
「ちょ、な、何やってるのよ⁉︎」
その一瞬の隙をついて長剣から距離を取った。
しかし…
「でやぁ‼︎」
「おいおい、なんだよその腰の引けた振り方はよ?」
殺す気も失せてしまった。
振り下ろされた一撃をかわし、ガラ空きになった胴へ回し蹴りをねじ込む。
「ガッ…ハァッ…‼︎」
「雑魚が横槍入れるなよ。」
こちらが蹴り上げた足を着地させるのと同時に長剣の空気を斬り裂く一撃がこちらの胴体目掛けて振るわれた。
「終わりよ‼︎」
「容赦ないねぇ。」
着地したばかりの足で地面を思い切り蹴り、体をほぼ水平に飛ばし、きりもみ回転をかけて横薙ぎに振るわれたそれをかわし、着地するのと同時に次の一撃に備えてダガーを構える。
「こいつはまた手強いねぇ…ま、その方が血が騒ぐってもんかなぁ」
言い切る前に目の前の少女は態勢を立て直して地面を蹴り、長剣による突きを繰り出してきた。
右足を後ろへ引きながら身を捻り、突きをギリギリで躱す。サーベルとダガーの鞘を提げるための皮のベルトに長剣の刃が掠り、金属の留め具に傷がついた。
「そんな…外した…?」
「及第点かな〜、よっと!」
「あっ!」
勢い余った彼女の足元を軽く足払いをかけると、彼女はそのままつんのめるようにして倒れた。
「エリカ‼︎」
へぇ、エリカって言うんだ。まあそれはいいとして…。
「で、どうするよ?」
「貴様を拘束する…」
そう言うや否や、奴は切っ先をこちらの方へ向けて風を切りながら突進してきた。
「面白い…」
改めて構え直し、突きを受け流そうとダガーを繰り出した次の瞬間、今まで突きの態勢で構えていたそれを後ろへ引き、斜め下から斬り上げてきた。
まずい、こいつは…
振るわれた一撃は俺の胴を捉えてその身を二つに分断した。