act1偽りの正義
ええと、初めて投稿しました。文章が拙いところや、知識的に欠落しているところもあるかもしれません。
目覚まし時計のベルが鳴り響き、少しやかましいと思いながらも毎度毎度同じ時間に目を覚まさせてくれるこの時計に少し感謝をしつつ、それでも心地よく眠っていたところを起こされたことに少し苛立ちを込めて時計のベルを止め、体を起こす。
「ふぁ…もう朝か…どうも夜が短く感じる。」
部屋を出てカウンターへ向かい、開店の準備を始める。
「よし、準備完了っと。」
カウンターを出て店を出ると、朝の澄み渡った空気が肺の中に飛び込んできた。
「…ずっと平穏ならよかったのにな…」
小さくそう呟いた後、腕を突き上げて体を伸ばし、眠気を覚ます。
「さて、今日も一日頑張るか」
そう言って店に戻り、その際に、ドアのプレートを閉店から開店に切り替える。
「まあ、そんなすぐには客が来ることもないだろうしな。」
そう言って眼鏡をかけて、カウンターに置いた椅子に腰掛けて本を読むことにした。
それからしばらくすると、街は人々の声で溢れてきた。
すると、誰かが来たらしく、ドアのベルが鳴らされた。
「おっと、随分と可愛らしいお客さんだ。」
そこにいたのは、まだ幼い子供だった。
「いらっしゃいませ、ご用件は?」
「ええと…その…これ…。」
子供はカウンターまで来ると、懐から大切そうに何かを取り出し、つま先立ちでそれをカウンターに置いた。
それは、まだ買ってからあまり時間が経っていないような懐中時計であった。
しかし、時計の針は時間を刻むことなく止まっていた。
「壊れちゃったのかい?」
「…うん…。」
子供は少し泣きそうになりながら頷いた。
「ふむ…これは…あぁ、そうか…大丈夫だよ、すぐに直るさ、そこに腰掛けて休んでいるといいよ」
そう言って道具を取り出し、時計を分解して修理を始めると、子供はその様子に目を奪われたらしく、カウンターにしがみついてその様子を見ていた。
その様子に少し和まされながら、作業を進める。
「よし、これで直るかな。」
最後の部品をはめ込むと、時計は再び時間を刻み始めた。
カウンターを出て、子供の前にしゃがみ込み、時計を手渡し、その頭をそっと撫でる。
「これで一安心だよ。」
「ええと…その…お金…。」
子供は鞄からお金を取り出し、こちらへ差し出してきた。
それをにっこりと笑い、その手をそっと閉じさせた。
「お金は取らないよ、そのお金で何か他に欲しいものを買うといいよ。」
子供は少し驚いた顔をした後、お金を鞄にしまった。
「大事にするんだぞ?」
「うん!」
子供は元気良くそう返した後、帰り際に
「ありがとう‼︎」
そう言って眩しいくらいの笑顔を向けた後、店を出て行った。
その後ろ姿を見送り、カウンターに戻る。
「おっと!随分と元気がいい子供だな、何かあったのか?」
子供と入れ違いで店に入ってきたのは、少し老けた腕っぷしの強そうな男だった。
「あぁ、おやっさん、まぁ、ちょっと時計を直してあげただけだよ。」
「なるほど、通常通りの業務ってか」
「無料だけどね。」
「ボランティア精神に溢れてるな」
「それより、頼んでおいた例のものはもう出来たのか?」
そう話を切り出すと、おやっさんはその話が来るのを待っていたといった顔で荷物を取り出した。
「ほらよ、これでいいんだよな?」
おやっさんがカウンターに置いたそれは、腕に巻きつける籠手のようなものであったが、それには、下に長方形の四角いものが取り付けてあった。
「とりあえず、試しに使ってみろよ」
「あぁ、そうするよ。」
カウンターに置かれたそれを腕に装着し、手首を返す。
すると、その四角いものから刃が飛び出した。
「どうだよ?」
おやっさんは得意気な顔をしていた。
「あぁ、さすがはおやっさんだよ、やっぱりおやっさんに頼んで正解だったよ、俺の予想以上のものだよ。」
「そいつはまた光栄ってもんだぜ。」
呑気にそんな話をしているさなかに、勢い良くドアが開かれ、怒鳴り声とともに軍服を着た兵士が入ってきた。
「武器職人がこの時計店に入ったと報告を受けた‼︎どうゆうことなのか説明してもらおうか‼︎」
「おやおや、これはまた、衛兵さんが何かと思えばそんなことですか。」
おやっさんはにやけ面でこちらを見ていた。
「いえ、確かに武器職人がここにいますけど、別に武器の生産を依頼したわけではありませんよ、これを見てくださいよ」
そう言っておやっさんが持ってきた別の荷物を取り出して見せた。
「…これは…なんだ?」
「時計の部品ですよ、ほら」
そう言って部品を見せる。
「そ、そうなのか…?」
「ええ、彼の鋳造技術は非常に高いので自分の代わりに部品の鋳造を依頼していたんですよ。」
すると、衛兵は少し申し訳なさそうな顔をした。
「そ、そうだったか…申し訳ない。」
そう言って衛兵は店を出て行った。
「…やれやれ…」
「全く、下っ端はちょろくて助かるよなぁ?アルバ…いや、アルト。」
「よしてくれよ、今はアルバだ。」
「おっと、そいつは悪かったな。」
おやっさんはわざとおどけてみせた。
「それはそうと、この間向かいの家の主人が捕まっただろ?」
おやっさんがそう話を切り出してきた。
「でも、冤罪なんだろ?」
すると、おやっさんは渋い顔をした。
「確かに、冤罪のはずなんだけどなぁ…どうもそのまま処刑されちまいそうなんだよ…」
しかし、向かいの家の主人は人柄もいいし、そんな事をするはずがないし、そもそも謀反を企てていただの言われて捕まっていたが、彼に謀反を起こすほどの用意などできるはずがなかったのである。
「…罪なき処刑…か…」
「行くのか?」
眼鏡を外してカウンターに置く。
「あぁ、いい試し斬りの機会だ、行かせてもらうさ。」
「暴れるのはいいが、ほどほどにしとけよ?」
「そりゃわかってる、暴れ過ぎるのは俺の本分じゃねえからな」
「ま、死なない程度に頑張れよな、俺としてもお得意先がなくなっちまったら商売上がったりだからな」
そう言っておやっさんは店を出た。
「さて…少し留守にしますか…」
店のドアのプレートを閉店にして、カウンター下の床板を特定のリズムで叩くと、床板がせり上がり、床の下に通路が現れた。
そこへ降り、灯りを灯す。そこには、白装束のフードのついたものがあり、その近くにはナイフやサーベルが掛かっていた。
それらを身につけ、先ほどおやっさんから受け取ったそれを両手に装着し、フードを被る。
「さて…、見物に行きますか」
その隠し部屋から更に奥へ進んだ。
少し進み、突き当たりの壁のくぼみを押すと、天井が開き、教会の祭壇の横に出た。
「主よ、我らに加護を。」
そこでは、神父が祈りをしていた。
「おお、アルトよ、また行くのか…」
「まあ、ちょっとね、見過ごせないことが起きそうでさ」
「そうか、汝に神のご加護があらんことを…」
「主よ、我らに加護を。」
神父に続いて十字を切る。
そして教会の鐘塔に登り、処刑場の様子を伺う。
「この者は謀反を企て、国を滅ぼそうとした反逆者だ‼︎よって、極刑に処する‼︎」
判事の判決を下す声が聞こえた。
「おいおい、冤罪で極刑って無茶苦茶にもほどがあるだろ…」
鐘が振り子のように揺れ、往復をした頃、そこにアルトの姿はなかった。
「この判決に異論を唱える者も同罪とする‼︎」
「嘘だ‼︎そんなはずはない‼︎俺は確かに親父の無罪の証拠を持って行ったはずだ‼︎」
「そんなものは受け取っていない‼︎処刑しろ‼︎」
そして、主人が吊るし首にされるその瞬間、何かが縄を切断し、主人は処刑台の床に落ち、縄を切り落とした何かは処刑台の壁に刺さった。
「な、何者だ⁉︎」
「やれやれ…ろくな審議もしないで極刑にするとはまた随分と無茶苦茶してくれるじゃないか…」
そう言って人を掻き分けて処刑台まで向かう。
「ん?なんだ?おぅぁっ‼︎」
「ん?貴s…んふぅ‼︎」
仕込んでいた刃を伸ばし、こちらに気づいた衛兵を押しのける要領で突き殺す。
「あ、あいつを捕らえろ‼︎反逆者を助けた犯罪人だぁ‼︎衛兵‼︎早くしろぉ‼︎」
判事がそう叫ぶと、近くにいた衛兵がこちらへ向かってくる。
「…ったく、雑魚ほど口ばっか動くってか。」
槍を持って向かってきた衛兵の一人の槍を掴み、そのまま首を描き切り、槍を奪い取って次の衛兵に突き刺し、三人目の後ろから振るわれた槍をしゃがんでかわし、サーベルを抜き放ち、足元を斬る。
判事はその場から逃げようとしていた。
「…悪いけど、死んでもらうよ、民のためにな。」
そう言って判事の背後まで走り、その肩を掴んで飛びかかり、仕込み刃を首に命中させる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ‼︎‼︎あがっ‼︎‼︎‼︎」
そして判事は動かなくなった。
処刑場は悲鳴で溢れかえり、人々は叫び声をあげてパニック状態となった。
そこへ衛兵達が更にこちらへ向かってきた。
「やれやれ、試し斬りはもう終わったんだけどね…まあいいや、今度は耐久実験かなぁ。」
刃をしまい、サーベルと少し長めのダガーを抜き、自分の前で構える。
衛兵の数は六人、正直手ぬるい。
一人目はサーベルを大上段で振りかぶり、俺を真っ二つにする勢い振り下ろしてきた。…こいつら本当に軍人なのか?動きに隙がありすぎる。
振り下ろされたそれを逆手に握ったダガーの腹に添わせて受け流し、そのまま首を掻き切り、頸動脈を切ったらしく斬られたところから噴水のように血が吹き出した。
後ろで衛兵が倒れる音を聞きながら前へ駆け出す。
次の二人はこちらへ向かって来ることはなく、こちらの前で二手に分かれ、両脇からめちゃくちゃに斬りかかってきた。
「だからお前ら本当に訓練受けたのかよ?」
一度サーベルとダガーをしまい、腰の後ろに据え付けておいたナイフを右手で引き抜き、空いた左手で右脇腹に差したナイフを引き抜き、それを横に振るように投げつける。
ナイフは円盤のように回転しながら、一つは衛兵の首に、もう一つは別の衛兵の額に突き刺さった。
「やれやれ、ナイフ二本仕入れ直しかな。」
気を抜いていたら、目の前で槍を持った衛兵がまさにこちらを貫こうとしていた。
「死ねぇ‼︎‼︎」
「おっと、油断は禁物だったな。」
俺を貫かんと向けられたそれをかわしながら掴み、手前に引っ張り距離を詰める。
「隙をついたのは大正解、でも攻撃が甘い、及第点だ。」
「しまった‼︎あがっ…」
そう言って仕込み刃で衛兵の胸を貫く。
槍を奪い取って背後から斬りかかってきた衛兵の足元めがけて足払いをかけ、転倒したところに槍を突き立
てる。
「あがぁ‼︎…」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ…」
最後の一人は腰を抜かして動けないままだった。
「戦意がないなら殺さないっと」
最後の一人を無視して駆け出す。
別の衛兵隊が到着したらしく、後ろから声が聞こえたが、それを無視して建物の壁のでっぱりを掴んで上へ登って行く。
「さてと、ずらかりますか。」
建物を縫うように飛び越えて街を風を切りながら駆ける。
下で衛兵たちが騒ぐ声が聴こえる。
その時、視界の隅に、猟犬を模したエンブレムを肩につけた兵士の姿が見えた。
「…あれは…確か…。」
アルトには確信があった、あれは、間違いなく…。
そんなことに脳を巡らせていると、 最初に逃げ出した教会の近くまで到着した。
「そうこうしてるうちに到着だな」
衛兵達はまだ別の場所を探しているらしく、教会の近くにはその姿はなかった。
教会の扉を開き、祭壇まで向かう。
「おぉ、アルトや、無事だったか。」
「あぁ、神様の加護があって無事帰れたよ。」
「そうか、それはよかった。しかし、また随分と暴れたみたいだな。」
「あははっ!そいつは言わないでおくれよ、俺だってあそこまでやるつもりはなかったんだ。ただ、衛兵達が駆けつけるのが早かっただけさ。」
すると、神父は少し訝しげな顔をした。
「アルトや、わかってはいるだろうが、無益な殺生はするべきではないぞ?」
「わかってるって、殺さなくていいなら殺さない、殺すのは向かってくる奴だけだよ。」
「そうか、ならいいのだが…」
「心配するなって、あくまでもそこだけは必ず守るからさ」
当たり前だ、俺が殺すのは…市民達にとって害のある人間だ…。
「うむ」
「早く終わればいいんだけどな…」
「そうだな…」
「んじゃ、俺はこの辺でお暇するよ。」
そう言って祭壇横の床を持ち上げ、その下に降りる。
少し進み、時計屋の下の部屋まで辿り着き、そこに元あったようにサーベルやナイフ、白装束を掛け、上に行く。
カウンターに置いておいた眼鏡を掛け直して、ドアのプレートを再び閉店から開店に切り替える。
「さて、仕事の続きっと」
そしてまた、時計屋はいつも通りに営業を再開するのであった。