第九話 村正、関所での事件
第九話 村正、関所での事件
事が起こったのは三日間の治安維持活動の最終日。
二日間の激動の仕事にも多少慣れ、最終日も卒なくこなしていた昼過ぎのことであった。
行商がグリッドランド市街へ入場する際には当然関所での検問を受ける。
今日の到着予定は各国から合わせて4つの行商団がやってくる予定だった。
そのうちの一つが入場の際に行商登録が不明なところからやってきたというのでミレイと共に関所まで呼び出された。
「おいまだ来ねえのかよ責任者ってのはよー」
荷馬車の周りを数人がうろついている、関所にいる番兵に二人ほど詰め寄っているのが見える。
そのうろついているのも詰め寄っているのも全員が黒いフード付きのロングコートのようなものを身につけているためにやたらと目立つ。
と、いうよりも怪しさ抜群であった。単純に見た目だけでも通してはいけなさそうにも見える。
「お待たせしました」
ミレイが声をかけると黒コートの集団のうち一人がやってきた。
「早くしてくれよ、こっちには用事があるんだからよ」
「まずは行商登録証を見せていただけますか?」
「はいよ」
そう言って男が取り出したものは一枚の紙だった。少し離れたところからぱっと見ただけではなんと書いてあるのかも読み取れなかった。
「ちなみにこれはどこで発行されたものですか?」
「さぁねぇ、俺らは雇われだからよ。そこまでは知らねぇな」
「……残念ながらこの登録証によく似たものでは入場を許可できませんね」
「は?偽物だってのか、番兵だけじゃなく上司もこれかよ」
「ええ、番兵も私も正規の手段で登録証が正しいものか確認する手段があります」
「へえ」
「とある方式で魔力を流すと紙に行商協会の印が浮かぶのですよ。これにはそれがありません」
「カァーっ、んだよじゃあここまで来たのに戻るしかねえのか」
「積み荷を入れることは出来ないというだけですので、単純な入国だけなら問題ありませんよ」
「そうは行かねえよ、この積み荷を中に入れるのが仕事なんだから俺達だけ入ってもしかたねえだろ」
「とにかく、行商登録を行っていない積み荷は中に入れることが出来ません」
「しょうがねえな……」
そう言って黒コートの男は頭をかく仕草をして振り返り、両腕を広げて黒コートの集団に馬車の荷台に乗るように指示した。
男たちの馬車は馬を4匹も使って引っ張るかなり大型のものだ、番兵の話では中に巨大な箱が乗っていたそうで、その中身までは確認していないという。
「揉め事無く引き返してくれそうですね」
「そうね。まぁ行商に関する取り決めは広く知られているし従わないと面倒だから」
黒コートの集団が馬車に乗り、先ほどの男がこちらに声をかける。
「じゃあな、お努めご苦労さん」
それに対し一礼をするミレイさんに習い自分も頭を下げる。
巨大な馬車はゆっくりと方向を変え、こちらに背を向けた。どうにも先程から荷台から何かの音が聞こえているが、中に乗っている人が動き回れるほどに広いのだろうか。
そして数メートル行った所で馬車がゆっくりとその動きを止めた。
その次の瞬間、馬車の荷台を覆っていた木材が外側に開いて中身が露出した。
「何だ?」
番兵たちもミレイも自分も何が起こるのかと注視していた。
「じゃあな、無能な上司さんよ」
男が高らかにそう声をあげ、荷台の中の箱も展開すると中には不思議な形の石があり、男たちがそれに張り付くように背中を預けていた。
「行け!」
そう男が言うと突然石が緑色の光を放ち、黒コートの男たちを次々と門の方へと飛ばした。
この行商の関所となる場所には大きな壁があり、それが大きく街の入口を囲っている。
元々は周辺からやってくるモンスターの侵入よけのために作られた壁は高さが約3mほどで、ねずみ返しのような反りがあるためよじ登っての侵入はしにくい。
だからこそ検問で遮断することで不法侵入を許さなかったのだが。
石に飛ばされた男たちは次々と壁の上に着地していく、あの壁の上に立たれてしまったらあとは中に飛び降りるだけで入国出来てしまうということだ。
「何をしている!不法入国になるぞ!」
番兵が声を荒げる。馬車に乗った男は笑いながらこういった。
「本当に無能だな。不法入国になるぞじゃねえよ、もともとそのつもりなんだし、こんな入り方目の前で見せられてもまだ動かないのか」
「なんだと!捕まえろ!」
「お前ら!仕事の時間だ!行って来い!」
そう男が叫ぶと壁の上に立った黒コート達は壁の向こうへと身を翻していった。
ミレイは懐から石を取り出すとそれに向かって叫んだ。
「緊急事態だ!黒いコートの集団が不法入国を起こした。グリッターで手の開いているものは東関所周辺で制圧、捕縛せよ。服装が変わっている可能性もある。不審なものは一度同行を求めろ!」
そう言ってすぐミレイ自信も走りだす。
「ムラマサ!その男を捕まえて!私は中に行く!」
「了解」
指示を受け黒コートの男に目を向ける。男は未だ不敵に笑っていた。
「ムラマサ……ねぇ、いーい名前じゃないの」
「……おとなしく投降してくれるか」
「まっさか、いったいどこのテログループならやめろって言ってやめるのか教えてほしいね」
失言なのか意図的なのかは読めないがやっていることがテロのそれであるのは間違いない。
単純に国の安心を脅かすだけでもそこそこの罪にはなるだろう。
「お?やる?やっちゃう?」
男はへらへらと笑いながらコートの中に手を入れ、すらりと剣を抜いた。
「俺もさー、一応中に入らなきゃいけないらしいからここで捕まるわけにはいかねーのよね」
「俺は中に入れてやるわけにはいかない」
「じゃあやるしかないね、かかって来いよ」
その言葉に素直に従って突撃した番兵は一瞬で槍を刻まれて蹴り飛ばされ、地面に転がった。
「よっわ。殺す価値もないな、こんな雑魚を番人にしとくとか人手不足なのか?」
地面を転がる番兵は腹を抑えて呻いている。致命傷でないならばよかった。
「……覚悟」
全身に力を行き渡らせ支給されたガード付きの棒を構える。
おそらく相手は殺す気でかかってくる、全力で立ち向かわなければ……死ぬ。
村正は武術に関する試合を行うとき必ず祖父から教わった言葉を思い返す。
「戦いは命の奪い合いだ、相手は常にこちらを殺すつもりと考えろ。
こちらが殺さないのはこちらの勝手だが、相手の事をお前が決めるな。
たとえそれが武器を持たぬ試合であってもだ。いいな村正」
その言葉は命の危険があるこの瞬間でもよみがえる。
何度も繰り返した言葉は緊張や震えを消し去り、ただまっすぐに相手を見据える事に集中させた。
その様子に男も村正の思いをどこか感じ取ったのだろう、へらへらとした笑いが引き締まる。
「いいねぇ……いいねその目、久々にガチな奴がきたね」
そう言いながらも口元の笑みは消えない、ただ心の底からこの先起こる命の奪い合いを楽しもうとするような笑みだった。
なんか各話のタイトル付けのルールに失敗した感でてきて困ってます
まぁ村正、なになにをする。 みたいなあれでつけてたけど
各話の視点人物 、 話のテーマ
みたいな感じで受け取ってくれればいいかなみたいな感じです。