第五十一話 第二の契約
第五十一話 第二の契約
『何を呆けている?』
砕け散った水晶体の上から見下ろすような形で双子だったはずの存在が声をかける。
飛び降りる際もどこか重力を感じさせない動きを見せ、人では無いことを感じさせた。
「あの双子は?」
村正が聞くとははーんという声が聞こえそうなほどおおぶりな仕草をして答えが返ってくる。
「あれは私、あれらが私。外にでるときに力が足り無さそうなんで一つになったまでよ」
よくわからないがそういうものなんだろうと無理矢理納得する。
「えーと……名前を聞いてもいいか?」
「私はセタと言う、よろしく頼むぞ主よ」
「あ、主?」
「そうだ、ん?もしや契約をするために解放しにきたのではないのか?」
「いや、そのつもりは無かったけど契約をしてくれるならありがたいかな」
「そうかそうか、それでは契約といこうか」
セタが手を下に向けると、地面から台座が生えた。
その台座に言われるがままに手を置くと、手首が優しくしっかりと台座に抑えられる。
セタも村正と向かい合うようにして手を置いて目を閉じた。
「なんだ、既に中は先約がいるではないか……ならば仕方あるまい」
とぼそぼそと何かをつぶやいて目に見えるほどの魔力を放出し始めた。
一瞬村正の手首に高熱を感じ、痛みに目をつむるとすぐに痛みはおさまり、再び目を開けた時には台座は消え、代わりに腕輪が村正に付けられていた。
「これは……?」
契約の証、とでもいうのだろうか。
村正の腕に付けられた腕輪は丈夫な鉱石と宝石で鮮やかに彩られた見事なものだ。
宝石が長く、プラチナのような輝きの部分とオレンジ色に透き通る宝石が絡みあうようにして腕輪を作っているもので、あまり細工に詳しくない村正でも人の手によるものでないことはひと目で分かる。
「すごく綺麗……」
エイディアが腕輪を見ながらため息をつく。それを見たセタはにやりと笑った。
「主のコレか、ついでに作ってやろう」
コレ、って……何を言わんとしているのかわからないでも無いがせっかく腕輪を作ってくれると言っているのだから余計な訂正はしないでおいた。
エイディアにも同じように台座を作り、手首には村正のものとよく似ているが、デザインがより女の子らしいものが付けられた。
「わぁ……ありがとう」
「何、この程度なんてことはない」
こうして契約の儀式を一つ済ませ、村正は二人目の楔を仲間にした。
と、いうところでふいにシルフィエが口を開いた。
「楔なのは間違いなさそうね、村正は使命を持ってるのは理解してる?」
「ああ、感じておるよ」
「そう、私はシルフィエ。よろしく」
「ああ、よろしく頼む」
「ムラマサ、ちょっとセタに色々と説明しておくから中に戻るけどいい?」
楔同士の話あいがあるのだろう、了承する旨を伝えながらも聞きたいことを先に聞いておくことにした。
「セタはどんな力が使えるんだ?」
「私は主に石を操る力、といえばいいか?」
石、地面、主に大地……という感じのニュアンスでいいんだろうか。
「まぁおそらく主の思う範囲であらかた出来る、と思って貰って構わんだろう」
「ってことは鉱石や宝石の類を操る事もできるって認識でいいのかな?」
「その程度なら造作も無い」
「なるほど……どうしてここに封じられてたか……は後で聞くとして、その水晶体って特別なものなのか?」
「そうさな……これはあの忌々しい人間どもが作り上げた物でな、内側から魔力を吸い取り消し去ってしまうという厄介な代物よ」
「外側からには弱い、ってことか」
「それでも十分な強度がある上魔法耐性も強い、よくぞ助けてくれたとしか言い様がないわ」
「なるほど……外に出た今ならコレを加工できたりってする?」
「加工……?」
「こんなに硬くて魔法耐性が高いなら、防具やら剣やらをコレで作ったら便利そうだなって思って」
「ははははは……なるほど、考えもしなかった。面白いことを言う主だ」
村正が先ほど長めに折れた水晶体を手にした時に思った事は、その大きさに対して見た目よりも軽く、そして圧倒的に強度があるこの水晶体を加工できれば……ということだった。
オストルトに連れ去られた二人を探しに行っても、おそらく戦いは避けられない。
今の貧弱な装備で敵陣に乗り込むのは自殺行為だ。
「なるほどな、出来るぞ主。ただすぐにというわけにはいかん」
「どのくらいかかる?」
「物によるな、まぁ一晩で一つというところか、何分魔力を殆ど通さぬからな」
「意外と時間がかかるな……そんなに長いことこんなところにはいられないぞ……」
食料は村正とエイディアのカバンにそれぞれ少し入っているが、それでもこの寒い谷底にずっといるのは勘弁だ。
「それは心配せずとも大丈夫だ、見ておれ」
そう言ってセタが手をかざすと、巨大な水晶体の殆どが溶けるように地面へと吸い込まれていった。
「おお……どうやったんだ?」
「大地、石やら岩に触れた場所は全て私の懐のようなものだ、持ち歩きに苦心することはない」
思っていたよりもはるかに便利な力を持っている楔のようだ。
「凄いなセタ、助かるよ」
「はは、主は素直だな」
セタは上機嫌で笑う、見た目は村正とそう変わらない成人に見えるのだが、顔や体は中性的で見た目ではどちらとも判別が付かず、喋り方ではまるで大人のような言葉を使うが、どこか感じる雰囲気は子供のようなそれを持ち合わせる不思議な存在だった。
「最後に一つ、ここから出たいんだけどどうすればいい?」
「なるほど、確かにここは人の身には容易に来れる場所では無いな、しばし待つがいい」
セタは再び地面に手をかざし、大きく振り上げると村正達の目の前に大きな球体が現れた。
「中に入りくつろいでいてくれ、準備が整い次第地上まで案内しよう」
言われるままに中に入ると、そこには豪華な石造りのベッドが一つあり、ほのかにオレンジ色の照明として飾られた宝石が光っていた。
「ありがとうセタ」
礼を言ってエイディアと中に入る。
なんだかんだでかなり疲れていたのか、ベッドに横になるとすぐに村正は眠りに落ちた。
エイディアはカバンの底に入れてある薄手の毛布を取り出すと村正にかけ、いそいそと自分もその中に潜り込んで目を閉じた。
「さて、セタって言ったっけ」
村正達が眠りについた後、シルフィエが口を開く、聞かなくては行けないこと、教えなくては行けないことがいくつもある。
「そうだ、シルフィエ姉」
「楔になったのはいつ?」
「楔になってからはすぐに数えるのをやめてしまったからな……なんとも」
「使命を果たす者の力になるのは初めて?」
「ああ、ムラマサが初めての主となるな」
「やっぱりね……」
「……ふ、やはりシルフィエ姉にはお見通しというわけか」
「ええ、あなた……元人間ね?」
「ご明察の通りだ、そこまで察しが付いているのならばここに封じられた理由も予想がつくのではないか?」
「まぁね、突然巨大な力を手にした子供がいれば封じるか利用するのが人間ってものだし」
「流石察しが良い」
「今でも恨んでいる?」
「初めは出ることが叶った瞬間に全て皆殺しにしてくれようとも思っていたが、それも風化してしまったよ、今となってはあんな小さな存在潰す価値もない」
「そう、ならいいの」
シルフィエが危惧していた事の危険は無いようだった。
シルフィエが危惧していたこと、それは昔にもあったこと。
世界の楔に選ばれるのは霊体だけとは限らない、いずれは霊体を持ち、シルフィエと同じような存在に成るのだが、そうなる前は力を持った人間として短い時間を生きなければいけない者達がいる。
セタもその一人で、シルフィエの記憶にある元人間にはほとほと手を焼かされた記憶しかない。
かつて仲間だった元人間の楔は、セタと同様に人間のうちに強大な力を突然与えられた。霊体へと変化していくにつれて徐々に楔としての使命を理解していくのだが、中には人間らしさが強く残る者もいた。
人間らしさ、と一言に言っても元になる人間の人間性を強く形作るものが残りやすいのだが、稀に暴力的な部分が色濃く残る者もいるのだ。
そういう者が楔になり、契約を果たすと上手いこと主人を騙し、気に入らない存在を消す方向へと導こうとする者もいたのだった。
楔としては最終的に世界を守れれば、増え続ける人間という生き物が多少減ったところで何の問題はない。
むしろ人間であった頃に力を得たことにより恐れられ、迫害され、しいては封印までされた者はそのほとんどが人間にすくなからず恨みや怒りを抱いていることが多かった。
不安要素に対する確認を済ませたところで、シルフィエは楔について、何をすべきなのかなど、経験に基づく知識をとつとつとセタに教え初めた。




