第四十五話 オストルト、情報屋へ行く
第四十五話 オストルト、情報屋へ行く
「あれ……?」
『シルフィエ?』
応答がない、どうしたんだろう。
「どうしたの?」
「シルフィエが読んでも応答しないんだ」
『ごめん、呼んだ?』
と思ったら返事をしつつシルフィエが戻ってきた。
『どうしたんだ?何かあったのか?』
『うーん、ちょっと色々ね』
『ちょっと出てくれるか?』
『いいよ』
空気がゆらぎ、シルフィエが目の前に降り立つ。
「あ、シルフィエ」
「呼んだ?」
「あのね、魔法が上手く使えなくなったんだけど……」
「ああ、もうその段階まで来たのね」
ということは特に問題は無いのだろうか。
「どういうこと?」
「あれは体の中の魔力の通り道を作り替えてたの、だからエイディアは今まで使えてた魔法は今後一切使えなくなる」
「えっ……」
聞いてた?という表情でこちらを向くエイディア、しかし村正もそんな話は聞いていない。
「その代わり、エイディアは今まで身につけることが出来なかった力が手に入る」
「どんな力なの?」
今のところ失うだけで何が手に入るか分かっていない、そんな状態では不安は募るばかりだろう。
「エイディアという存在の資質を形に出来るようになる……っていうと分かるかな」
「存在の……資質?」
「才能とか潜在能力とかってことか?」
「それに近いんだけど、もっと根本的にエイディアそのものっていうか……うーん」
どうにも的を得ない、シルフィエにもなんと表現していいかわからないようだ。
「じゃあいつ頃になったらその力が使えるようになるんだ?」
「あ、力事態は使う環境が整ったみたいだから、あとはエイディアが魔力を形に出来れば」
「魔力を形に……」
「そう、後もう一つ言えば、新しい力は魔法じゃない。って感じかな」
「魔法じゃない……???」
もう何がなんだかという感じだ。
「詳しく説明できなくてごめんね」
「ううん、なんとか頑張ってみる。みんなを……ムラマサを守れるように」
そう意気込むエイディアは元気を取り戻したようだった。
「ねぇムラマサ、ちょっといい?」
「ん?」
シルフィエは深刻な表情でさっき応答出来なかった理由を話し始めた。
「あのオストルトって奴、かなり怪しいわ」
オストルトはクティに着いた後、村正達とは別の宿を取った。
(さて、お仕事か……面倒臭えなぁ)
クティは細長く伸びた島国のほぼ中心部にある町で、各地の行き来の中心となる町である。
情報が集まり、交易品も集まる、ただグリッドランドと比べるとその規模はかなり小さくなる。
主に人が利用するものではなく、商人や流通を生業とする者達が取引をする場所である。
この街の暗部、裏と言われるような場所にオストルトは足を踏み入れる。
薄暗い通路に扉があり、鉄製のノッカーが付いている。
コンコン、と小さく音が響くと少しして扉の向こうに人が来る気配がある。
ぼそぼそと扉へ合言葉をささやくとほんの少し隙間が開く、そこへチップをいくらか滑りこませると受け入れるように扉が開く。
部屋の中にはキラキラと煌く宝石に彩られた装飾品がところ狭しと並べられている。
(何度来ても見事なもんだ)
と眺めていると先ほど扉を開けた男が触るなよ、と言わんばかりに一歩踏み出す。
「分かってますよ」
噂に聞いた程度だがこの部屋には正規の手段以外ではいかなる手を使っても入ることが出来ないように魔術的な対策が取られているという。
おそらくそれを成しているのがこの部屋を彩る品々なのだろう。
少し精通しているものならばこの配置も含めて一つの結界を作り上げているということにも気づくだろう。
ただ並みの物ではそれらがそれぞれどんな意味を成しているかまで理解することは出来ない。
それほどの魔術的結界なのである。
しかしオストルトにとって、この部屋に仕掛けられた物は特に興味のあることではない。
今日ここへ来たのには当然理由がある。
部屋の中央へ据え付けられたソファーに座って待つと、チリンと一度だけベルの音が鳴る。
男が奥側にあるドアを開け、促されるままに中へと入っていく。
畳で言えば二畳程度しかないその狭い部屋には、今入ってきた扉ともう一つ扉があり、そしてイスが一つと小窓が一つ。
個室ながら受付のようでもある。その椅子に座って待つと黒い衣装に包まれた人物が対面に座る。
小窓の位置の関係で顔は見えない。
「久しぶりだな、2年ぶりか」
座るなり小窓の向こうから聞こえてくる声はその雰囲気に似合わず幼い。
年齢不詳、性別はおそらく女、ということしか分かっていない。
それでもここを利用する人間たちにとっては無くてはならない存在であり、畏怖の対象ですらあるという。
「……よく覚えてらっしゃることで」
「当然、覚えてないわけがないだろう?」
情報商売を営む上で知らないことはあまり無い、覚えていないことは無いというのが売りらしい。
「で?今日はどんな要件だ?」
「聞くまでもないだろ?」
情報屋が2年前を覚えているのであれば伝える必要もない。
「ほれ」
やはり分かっていたようだ、紙の束を取り出して片手で押しやる。
「流石……ふん……ふん……ん?」
その紙束に描かれた情報の中に少し見知ったものを見つけた。
「はー……これはこれは、俺もなんというか……」
ため息混じりにつぶやきながらも内容を頭に叩き込んでいく、その間も小窓の向こうでは身じろぎもせずこちらを見ている、そんな気がしていた。
「もういいのか?」
「ああ、十分だ」
「どうするんだ?やるのか?」
「……さぁ、折を見てやるかもな」
「一度失敗しているようだし、やるならしっかりやり給えよ……ふふ」
いったいどこまで何を知っているのだろうか……カマをかけられているだけなのか、恐ろしいものを感じながらも扉から外へ出る。
外に出た途端直接的な陽の光に目が焼ける。
オストルトはそのままの足で今後必要になるであろうものを買いに市場へと向かっていった。
その背中を空に浮いたままシルフィエが見つめている。
「私が入れない空間で一体何をしてるのかしら……怪しすぎるわ……」
オストルトの後を追ってみよう、としたところで村正の声が聴こえる。
一瞬迷ったがここは戻ろう、と決めてその体を風に溶かした。




