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第四話 村正、保護観察を受ける

第四話 村正、保護観察を受ける


 壇上から睨みつける男の威圧感は先程のモンスターとは比較にならなかった。

まるで厳しい親に叱られている途中の子供のようにすくみ上がる他なかった。

「簡潔に説明出来るものは居るか?」

決して叫ぶような大声ではないものの、広間によく響く声で男は言った。

すぐさま近くにいた兵士がことの成り行きを報告していた。ところどころ聞き取り辛いところもあったが、おおまかなところは理解できた。

「ふむ……ナタリー!」

「……はい」

研究所の方に避難していたナタリーが前に進み出る。

「お前の研究房からモンスターが出たらしいが、お前が出したものか?」

「わかりません」

「わからないとはどういうことだ?」

「私は召喚の研究をし、実験を行いました。その結果出てきたのがそこの男です。私はすぐに実験結果を報告しに来ました。その後地下から先ほどのモンスターが現れました。出現の瞬間は確認しておりません」

恐怖を感じているようなどこか弱々しい声で答えているのをこの場にいる全員が見ていた。

男が兵士に調査に行かせ、その間ナタリーは別室待機を命じられた、処遇は後ほど伝える……と淡々と告げられている。

そしてナタリーがとぼとぼと別室へ向かうと当然のごとく次は村正へと視線は移る。

「さて、何者か聞いてもいいかね」

「私は八千代 村正という者です。わけあってこことは別の世界から来ました」

「別の世界……何をしに?」

「どうやら世界の崩壊を防ぐためだそうです」

「となると、神の使いか何かだと名乗る訳だな」

「まぁ近いものですね。ただし神とは限りませんが、世界の崩壊を防ごうとする存在の尖兵です」

「それを証明出来るものはあるか?」

「どう証明したらよいのかがわかりません、私はこの世界に来たばかりですので、この世界の一般的な常識や信仰などについて無知です」

「ホラ吹きの侵入者であると見られても構わないのだな?」

「それは困りますが出来ないものは出来ません、ちなみに侵入者とみなされた場合私はどういった扱いを受けるのでしょうか」

「先ほどのモンスターを倒してくれた事を考慮し、この建物からの退去を命じる程度になるだろう。かつこの国にいる間はある程度の監視下に置かれると思って貰おう」

「わかりました、寛大な処置に感謝します」

正直不法侵入もいいところだったので場合によっては指名手配されてでも抜け出す必要があるかも知れないと覚悟していた。

この処遇については本当に寛大だと感じる。まったく知らない文化圏だ、一発で死罪扱いだったらたまったものではない。

話は終わったとばかりに踵を返して去っていく男、結局名前も名乗らなかったな……その後、兵士に連れられて別室へと移動した。当然のごとく武器の携帯はないかなどのチェックを受け、かつ武装した兵士達によって、である。


 村正が降り立ったこの国はグリッドランド王国という。

山に囲まれた盆地に国土を持ち、四季がはっきりとした気候にある。今の季節は春にあたる。

農業や林業が盛んであり、国土内においては自給自足が成り立つ程に豊かな土地を持ち、またその歴史も長い。

山を堺に隣国との領土分けを行っていて、丁度陸地を分断するような位置にあるため両隣の国の中継地としても栄えている。

そのため商業も盛んであり、食料の輸出も行っている事もあって隣国に比べて経済的にも豊かであった。

他国と比較して負けているところがあるとすれば、土地面積自体は狭く、また軍事力も低い。

攻めこまれていないのは複数国の国交において優秀であり、また戦争をしかけるとせっかくの資源が失われてしまう可能性の方が大きいからである。


「なるほど……」

案内された部屋には見張りを兼ねた待機兵が数人おり、その中の一人に声をかけてこの国の事について話を聞いていた。

説明をしてくれたのはジューリと言う青年兵士だ、兵士とはいうものの比較的貧弱な体で、主に資料整理などの事務兵といった所だと彼は言っていた。

おおよその話を聞き終わり、今度はジューリの世間話を聞いていると部屋の扉がノックされ、また武装兵が数人やってきた。

「あなたの処遇が決定しました。ついてきて下さい」

「いろいろ教えてくれてありがとうジューリ」

「いえ、何も知らない土地というのは不安ですから」

そう挨拶を交わして立ち上がり、言われるままに武装兵達についていった。


 次に通された部屋は先程の部屋と比べると比較的立派な部屋だった。

置いてある家具を見るに執務室といったところだろうか、通された部屋の大きい机には先ほど処遇について話した男がいた。

「待たせたな」

「いえ、この国の話を聴く時間が出来てよかったです」

無表情とも仏頂面とも言える男の表情にほんの一瞬だけ変化が出る。

「どんな話を聞いた?」

声のトーンがほんの僅かにだが下がり、よほど鈍いものでなければ威圧されてしまいそうだ。

「豊かで暮らしやすい国だと聞きました、交易も盛んであるとか」

「そうか」

返答を聞き緊張が解ける、心なしか部屋も少しだけ明るくなったような気がした。

「あまり情報を探っているような真似をするべきではありませんでしたね、本当に無知でしたので、ご容赦下さい」

「いや、気にするな。気持ちはわからんでもない」

逆に言えばこの男の気持ちもわからないでもない、きっと責任のある立場にいて、その責任を全うしている人間なのだろうと予想がつく。

彼がいるだけで兵士達に緊張が走っているのがわかるほどに。

「早速だが処遇についての話だ」

「はい」

改めて向き直られるとこちらも姿勢が正される。その雰囲気は道場で父を相手にしている時それとよく似ていた。

「君には我々の保護観察下で生活をしてもらう事になった、異論はあるか?」

「まず保護観察というと……?」

「簡単にいえば我々の目の届く所で我々に害のない人間であることを証明して貰おうという事だ」

なるほど、ある意味当然の話の流れだ。

「突然我々の管轄の敷地内に現れたのだ、口で無害ですなどと言うだけで信用は出来ない、分かるな?」

「はい」

頷くと彼も頷き返し、話を続けた。

「私の部下から数人を観察官として付ける、君の言うことが真実であれば放り出して生きることは出来ないだろう、わからないことは全てその観察官に聞くといい」

「ありがとうございます」

ありがたい話である、初めはどうなるかと思っていたがもしかしたら渡りに船というやつかもしれない。

「何か質問はあるか?」

「申し遅れました、私は八千代 村正と申します。差し支えなければ名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「これは失礼した、確かに名乗っていなかったな。私はこのグリッドランドの王国の治安維持を中心に行っているグリッターという組織の幹部をしているアルマンディンという者だ」

そう言って手を差し出してくれる、好意と受け取って握手をした。

がっしりとした手はおそらく武器か何かを扱い続けた者の手である事を感じた、アルマンディンも村正が鍛えられた手をしていることに気づいたようだ。

ほんの少しだがアルマンディンの口端に笑みが見えた。


 グリッターは国家で運営管理されている組織なだけあって、本部はかなり大きい施設だった。

外に出て本部を振り返ると、そこらへんの小中学校よりも大きいんじゃないかと思うほどだった。

「あなたがムラマサさんですか」

と声をかけられ振り向くとそこにいたのは分厚い眼鏡と大きなおさげに巨大なリュックという出で立ちの女性だった。

「はい、私が村正です。あなたは……?」

「私はあなたの保護観察官を任されたミレイです、よろしく」

そう言って握手をする。

「あと二人もすぐに来ますのでお待ちくださいね」

そう言ってリュックを下ろしミレイは肩を回したりしていた。

数人の保護観察官と言ってたな、合計三人も自分に付けるだなんて人材が豊富なんだな……などと考えていた。


 数分して一組の男女がやってきた。

「お前がムラマサか、俺は保護観察官のジェイドだ」

そう名乗った男はオールバックが印象的な青年だ、腕には小さな盾と腰に挿した剣が光る。

「よろしくお願いします」

「ああ、そしてコイツが」

「ナタリーよ」

一応自己紹介してやるよと言わんばかりの態度で挨拶をしてきた少女は、先ほど人を使い魔扱いしたあの子だった。

「さて、じゃあ早速だがこれからムラマサが住む事になる家に案内する」

「家を用意していただけるんですか」

「身寄りが無いと話に聞いているからな、金も持ってないんだろう?」

「恥ずかしながら何もありませんね」

「流石に野宿をする奴のために観察官も野宿ってのはマズイだろう?なら共同で生活出来る場所に押し込んだほうが得だってわけだ」

「なるほど、ありがたい話です」

「とは言ってもタダで住み込み飲み食い出来るわけじゃねえからな、ムラマサは今後俺達の一定の監視下で何かしら働いてそれなりに稼いでもらう」

「わかりました」

「仕事ぶりや俺たちグリッターの活動に対して有益となる行動に対して評価を行い、それにともなって観察処分の期間が決定する」

「わかりました、よろしくお願いします」

「まぁ俺たち三人はグリッターの正式なメンバーだから、何か問題のある行動や実力行使による反抗を行って無事でいられると思うなよ、と釘だけは指しておくぜ」

「そんな事をするつもりはありません」

「そうしてくれ、面倒事はごめんなんでな。さて、じゃあ行くか」

そう言ってジェイドは村正を連れて街へと向かった。



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