第三十七話 リゾアン孤島のダンジョン:その3
第三十七話 リゾアン孤島のダンジョン:その3
初めてのダンジョンの割にはパーティメンバーのお陰でサクサクと進めてきている。
よくあるダンジョン攻略ゲームにあるようなトラップの類も今のところ出てきていないため、純粋な戦闘力だけでいいので助かっている。
「次の一団だ、来るぞ」
村正達が降り立った層は天井や壁が水で出来ており、その間に空気の通路が張り巡らされている、という表現が正しい。
敵も今までの海老や蟹ではなく、魚型の物が多くなっていた。
空気のある通路が人間の通り道ならば、それ以外の水で出来た部分がモンスターの通り道と言える。
透き通っているために敵がどこにいるか見えるのは救いだろう。
こちらを見つけた数匹の魚モンスター達は一直線に泳ぎ、壁から飛び出して突進してくる。
初めはその速度や飛び出してくる角度に慣れずに何度かかわしきれず、ダメージを負っていたものの、慣れてきてからは特に問題なく対処できている。
敵の集団が見え次第なるべく近くの開けた場所へと移動し、シャーリーとエイディアの魔法で壁を作る。
こちらへ向かってくるモンスターはその壁に一度阻まれて勢いを失う、そこを村正とフィーディアが切る。
言葉にすれば簡単だが、案外このモンスターも一筋縄ではいかない。
丸いからだを持ったモンスターは勢い良く跳ねて飛び退り、長い体を持つモンスターは蛇のようにうねって移動する。
陸にあげてしまえば楽勝、というわけにも行かないのである。
それでも慣れれば難なく対処できているあたり、そこいらの極普通の冒険者よりはパーティとしての実力は上である。
何度目かの襲撃もそうして乗り切った。乗り切ったという割に被害は殆ど無いのだが。
念の為に村正は全員にヒールをかけていく、これも何度目になるかの礼を言いながらエイディアが言った。
「どこまで行けば下に行けるの?」
「さぁ……今のところ階段らしいものは見えないよな」
見通しがよく、壁も透けていてかつ光源もあるため階段があれば見間違えることなど無いのだが、それでも見つかっていない。
この階層におりてから既に数時間は経過しているだろうことを考えると、このまま見つからないのであれば引き返すことも考え無くてはならない。
「シルフィエの力でなにか分かったりしないのか?」
そう言ったのはフィーディアである。言われてみれば空気の流れを読めるシルフィエなら何か分かるかも知れない。
「やってもいいけど……いいの?」
「いいの?って何か問題でもあるのか?」
「前に案内みたいなことしたらロマンが分かってないねとか言われちゃってね、頼まれなきゃやらないことにしたの」
なるほど、道楽でダンジョンを踏破する目的だとしたら聞いてもいないゴールを教えられるのは困りそうだ。
しかし今は初心者の集まりであるし、帰るための時限もある。
「疲れるだろうけど、お願いできるか?シルフィエ」
頼むよ、と村正が言うとシルフィエはくすりと微笑んで村正の中へと戻った。
「えっと、つまりどうなるんですか?」
シャーリーは今ひとつ理解できなかったと正直に言う。実際村正だけがシルフィエと意識を共有しているから伝わっているようなものだ。
「助けてくれるってさ、少し時間をくれって言うからここで休憩にしよう、ちょうど開けてる場所だし」
そう言うと全員荷物を下ろして休憩の体制に入った。
「なんか、いいですね」
「ん?何が?」
シャーリーがつぶやいた言葉に村正が聞き返す。
「ムラマサさんとシルフィエさんがこう……通じあってる感じがいいなぁって。以心伝心というか、分かり合ってるというか」
事実半分くらい同化しているようなものだからまさにその通り、ではあるのだがきっとそんな事を言いたいのではないのだろう。
「すごく助かってるよ、そういう相棒……っていうのかな、いいよな」
「私にもいつかそんな相手が現れるでしょうか……」
そうどこかため息をつくように言ったシャーリーは歳相応の女の子、という感じがした。
「そういえばみんないくつなんだ?」
「いくつって年齢の話か?」
「ああ、そういえば聞いてなかったなと思って」
ふと浮かんだ疑問をぽろりとこぼす、言ってから女性に聴くのは良くなかったかと思っても口から出た言葉は引っ込まない。
「私は19、エイディアは17だ」
「えっ」
あまりに意外な返答に驚く。フィーディアは19と言われれば納得の行く顔立ちや体つきなのだが、エイディアはどう見ても15かそこらに見える。
「意外か?まぁ獣人族は成長にばらつきがあるからな、見た目も成熟の早いものと遅いものでは軽く5〜6年は差がある」
「ちなみに私も17ですよ」
シャーリーも17だった。こういったら失礼なのかもしれないが、単純な見た目の話では日本にいた頃の周囲の女子と比較すればエイディアが15くらい、シャーリーは18くらい、エイディアは21くらいに見える。
基本的に若く見えるのは良いことだとは思うが、エイディアとしては幼く見られるのは不本意らしい。
「それで?ムラマサはいくつなんだ?」
「俺は22になるな、みんなより年上だ」
「そ、そうなんだ……ですか」
突然フィーディアの口調がおかしくなる。
「あ、年上だからって気を使う必要はないよ、第一今さらだろ」
「そ……うだな、そうさせてもらおう」
「ムラマサはお兄って感じ」
「ああ、確かにな」
年齢の話かと思っていたがどうやら違うようだ。
「二人にお兄さんがいるのか?」
「いや、直接の兄ではないんだがな、村では年齢の近いものを兄姉、もしくは妹弟のように接して面倒を見るのが当たり前だったんだ」
「なるほどな、それで兄って事か」
近所の年上の子供をお兄ちゃんお姉ちゃんと呼ぶのは日本にもよくある事だから特に違和感はない、村正にも幼少時代は兄と慕った年上の子がいたもんだ。
「シャーリーは?兄弟いる?」
「えっと、いない……ですね」
「そっか、じゃあ私と兄弟!」
そう言ってエイディアがシャーリーに後ろから抱きつく、その光景を実の姉は微笑ましげに眺めていた。
「ふふ、ありがとうエイディア、でも私達は女だから姉妹よ」
そう言ってエイディアの手に手を重ねる姿はやはりシャーリーの方が姉のように見えた。
休憩を終えて再び進む、するとある方向に大きめのモヤがかかった場所を見つけた。
これは確実に何かある、そう判断した村正達は注意を払いながらそこへ向かうことにした。
「間違いなく何かいるな……」
モヤが掛かった場所は遠くから見ると中が全く見えなかったが、いざ近づいてみればところどころから光が入り、中に入ると暗くて見えない、ということにはならなさそうだ。
だが視界良好とまではお世辞にも言えそうにない、そしてモヤの中には何かがいる、何かの生き物の呼吸が聞こえていた。
「ここでボス戦、って感じか……」
「どうする?こちらにおびき出すか?」
モヤのかかっている場所の手前がちょうど開けた空間になっていたため、戦うのであればこちらに誘いだしたほうが楽ではある。
「というか……時間的には引き返すなら今しか無いんじゃなかろうかって思うんだ」
このタイミングで言うとどうにも及び腰な印象が無いでもないが、村正の言うことは事実正しい。
時刻にして既に18の日の夕刻、今まで来た道を順当に引き返せても19の日の昼に着くかどうかという感じだ。
「確かに……、少なくとも先に進めばすぐに戻る、というわけにも行かないか……」
一応ではあるが道中シャーリーの魔法で通ってきた道の痕跡は残している。
それをたどることで探索時よりは早く戻れるだろうが、敵が出ないとも限らないと考えるとこのまま進むのは得策ではない。という結論に至った。
村正達は引き返すことに決め、モヤのかかった場所の近くに指標となる氷塊を浮かべるときた道を引き返し始めた。
ふと振り向くと、エイディアが足を止めているのに気づく。
「どうしたエイディア?」
「何がいるのか気になる……」
エイディアとしては戦わないまでも姿だけ見ておけば次来るときの参考になるという。
それも一理ある、しかし逃げ切れるかというと不安でもあった。
「私の考えが当たってれば多分大丈夫だよ」
何が?と聞く前に言うが早いかエイディアは杖を構えだした。
「えっ、ちょっとエイディア」
「大丈夫だムラマサ、エイディアの勘はだいたい当たる」
そう胸を張って言うフィーディアの言葉に反論の芽を潰されてしまった。
「アースクラッカー」
地面から数個の玉が飛び出し、モヤのかかった空間へと吸い込まれていく。
いそいそと杖を腰に据え付け、エイディアは振り返り走りだした。
「いこ!」
姿を確認するんじゃなかったのか?と思いつつもフィーディア達がきた道を走って戻るので村正もそれに続く。
数秒後、モヤの方から何度か爆発するような音が聞こえた。
その音に振り返ると、モヤの中からグロテスクな触手を伴ったイソギンチャクの化け物のような何かが這い出てきた。




