第三十話 一行、港街で
第三十話 一行、港街で
実験場跡地から歩いて1日と少し、途中何度も休憩をはさみ、森にいたモンスターの肉を焼いたりして食べながらのサバイバルな移動で森を抜け、小高い丘の向こうにそれはあった。
「お!あれが港街か?」
「ええ、あれがリゾアンです」
シャーリーが頷きながらもほっとした表情を見せる。たった一日、とは言えど何の用意も装備もない中での野宿と長距離移動で疲れないわけがない。
シャーリーが提案者である手前、道に迷ったなどと言うわけにもいかず他の三人より遥かに緊張していた。
「久々に野宿なんてしたよ……」
グリッドランドの借家にすぐにでも帰りたいと思ってしまうほどに装備なしの野宿は村正やシャーリーには堪えた。
幸いにもフィーディアとエイディアは野性的な心得があるらしく、いろいろと知識があったので、不便であることを除けば順調すぎるくらいの行軍だったのだが。
「やっと着替えとか買えるね」
エイディアは村正の服の裾を掴みながら歩く、町内会の年下の子でこんなかんじの懐き方してくれた子がいたな。と少し懐かしく思いながら村正は頷いた。
「ある程度普通にものを買うだけの金はあるはずだから、泊まるところを確保して必要な物を買おうな」
丘を下れば港街である、既に街の方から流れてくる風は潮の香りがした。
港街はグリッドランドとはまた違う活気に満ち溢れていた。
ところどころで肌が小麦色に焼けた筋肉を惜しげも無く晒す男たちがとれたての海産物を持ってきては店で売っていた。
「すごい活気のある場所だな、宿とかちゃんと開いてるといいけど」
この街を歩くとやたらと視線を感じるのはなぜだろう。そう思っていた時に突然声をかけられた。
「そこの綺麗なおねーちゃんたち!」
だみ声のおっさんである。上半身は裸で禿げた頭に鉢巻、どこか海坊主という単語がよぎる風貌だが体は海の仕事で鍛えられているように見える。
「私達のことか?」
フィーディアがそう返すとおっさんはにかっと笑って近づいてきた。
「そうとも!こんなところに綺麗なねーちゃんが集団で来ることなんてまずねえからな!声をかける以外に海の男にできる事はねぇ」
冗談なのか本気なのか、どちらにせよ気さくなおっさんである。
返事を返したフィーディアも若干苦笑いだ。エイディアに至っては村正の影に隠れてしまった。
「そんでねーちゃんたちは旅人かなんかかい?」
「ああ、そんなところだ」
「へぇ、ずいぶんと軽装っていうかなんていうか」
「まぁ事情があってね、それよりどこか宿を知らないか?」
「宿を探してるのか、そうだな……教えてやってもいいがその代わりに」
なんとなく鼻の下が伸びて来ているような……
「その代わりに?」
にこにこと笑顔のおっさんに向かってうしろから恰幅のいいおばさんが歩いて来ている。
フィーディアに鼻の下を伸ばすおっさんが気づく様子はない。
「どうよ、今晩一杯付き合っちゃくれねえか?へへ」
右手でくいくいと何かを飲む仕草をするおっさんはこちらの世界でも完全におっさんのそれである。
「飲み代は俺が出すからよ、どうだい?」
いさぎのよいアプローチと言うかなんというか、こちらの世界では一団に男が混ざっていても気になったら声をかけるのが一般的なのだろうか。
「いや、それなら自分たちで探すとするよ」
明らかすぎる下心にうんざりした表情を隠すこともせずフィーディアは断った。
実際地力で宿が探せない街が栄えることはないのだし地力で探すくらいは訳ないのだ。
「いやいや、そう言わずにさぁ」
「俺達買い物もしたいんで」
「はっ、男は黙ってろ」
村正が発言した途端のおっさんの態度の急変ぶりに驚く。
「だいたい何だお前、そんなひ弱そうなくせにこんな美人連れて歩きやがって」
どこか逆恨み的なものを感じる上に本気で言っているのすら感じる。
「そんな男よりも俺が海の男のたくましさってやつを教えてや」
と、そこまで言った所でおっさんはおばさんにぶん殴られていた。
「何をやってんだァ……?」
「ってーな!誰だ……あ」
「あ、じゃないってんだよこのタコ!またナンパか?あ?」
「うるせえなおめえには関係ねえだろ!」
「この世のどこに嫁に関係のない旦那のナンパがあるってんだこのスケベが!」
そう言いながらおばさんから繰り出される拳は適格にタコの顔を捉えている。
どうやらこのおっさんの嫁さんらしい、海の男に相応しい荒波のようなおばさんだな、と村正は思った。
フィーディアもおばさんの鋭い拳に感心した目を向けている。
ひとしきり痴話喧嘩を披露した後、おっさんは結局敗北してすごすごと店に戻っていった。
おばさんからの謝罪の言葉と宿の情報を得た一行はこれまた快活な笑顔を見せるおばさんに見送られて宿へと向かった。
「とりあえずこんなものか」
宿を確保し、そのあと全員の旅支度を整えに街の商店広場へと繰り出し、ひと通りの装備を揃えた。
流石に4人分の衣服や装備、その他の必需品をまとめて買うと金は一気に飛ぶ。
グリッターから頂戴した収入はここで殆ど使い切ったと言える。
「本当に良かったのか?こんなに買って貰って……」
流石に使った額が結構なもので、買っている時は女子的な盛り上がりを見せた三人だったが、いざ買い物が終わって一式を振り返ると冷静になっていた。
「必要のないものは買ってないからいいんじゃないか?」
村正も村正で案外気軽に買って見せるものだから甲斐性を見せたとも言える。
事実フィーディアに至っては脱出時に靴も履いていなかったのだから申し訳なくも思っていたところがある。
エイディアとシャーリーは拾った布を厚めに足に巻いて靴代わりにしていたもののそれも相当なものだった。
おっさんが旅人か?と聞いたのも相当下心を含めての一言だったに違いない。
荷物を持って宿に一度戻り、荷物を部屋に置いて女性陣は旅の汚れを落としに風呂へと入りに行っていた。
先に宿を確保して置いてよかったと村正はベッドに腰掛けながら思った。
少なくとも風呂の無いところには泊まれない、とこの街のランクで言えば中ぐらいの宿に迷いなく決めたのだった。
先に買い物をしていたらあの勢いだと宿代も怪しかったな、と振り返る。
しかし逆を言えば風呂は確保したし、フィーディア達の知識と合わせてわりと十分に旅ができる支度が整えられた。
とは言え今のところ次の目的地というのも無いのだが。
『使命が出たりはしてない……のか?』
『そうだね、今のところは』
『あんまりグリッドランド離れない方がいい……んだよな多分』
『そうとも限らないね、前もその前も世界中で色々やらなきゃいけなかったし』
『世界中か……脅威はともかく世界旅行は楽しみだな』
『ま、そのくらいの方がいいよね』
ベッドの向こうにある窓からは潮風がそよそよと流れてくる。
村正は実はあまり海や海産物の生臭い匂いが得意ではなかったのだが、全く不快感を感じない爽やかな海の香に心を落ち着けた。
GWいかがお過ごしでしたか。
私は基本的に死んでました(涙)




