第二十一話 村正、盗み聞く
第二十一話 村正、盗み聞く
しばらく人混みに紛れ、グリッター達をやり過ごし、村正は夜の街へと向かう。
とりあえず夕飯を食べ、今後どう活動するかを決めなければ。
「いらっしゃいませー、ご注文は?」
入ったのは広い大衆食堂である、入ってすぐに注文を聞かれたので視界に入ったメニューにある日替わりの定食を注文し、なるべく奥の人目につかないところへと座った。
『ふぅ……』
『私も食べたかったなぁ……』
『あ、ごめん。もう一個頼もうか?』
『ううん、流石にこのくらい人がいたら無理』
食堂の中はかなり人で賑わっている。酒も出しているようであちこちから陽気な笑い声も聞こえてくる。
こうして生活の一部を切り取ってみればやはり平和な国だ。
「さて……どうしたもんかなぁ……」
王から貰った剣の仕掛けを破壊しすぐに逃げたとあっては印象最悪なのは間違いない。
ナタリーに見られたのもまずかった、少し配慮が足りなかったと反省している。
今となっては後の祭りでしか無いが。
「はいお待ち遠様、お兄さん」
「ああ、どうも」
「40Gね」
料理が出来上がり、それと引き換えに料金を支払うシステムのようだ。
袋から40G出して渡すとおばちゃんはエプロンのポケットにしまって戻り、ふと振り返ってこういった。
「なんだか知らないけど、ウチのご飯をあんまり湿気た顔しながら食べるんじゃないよ」
「すみません、いただきます」
「あいよ」
確かに気が落ち込んでいた。そんな顔で食事をしていたらせっかくの料理が台無しである。
ひとまずは気持ちを切り替えて、目の前のご飯をいただくことにしよう。
「ああ、美味かった……」
あの後照り焼きにされた鳥の肉を頬張っているとおばちゃんがサービスだと言って2品も料理を追加で食べさせてくれた。
「見たところ若いのに苦労が多そうだね、たくさん食べて気合入れなさいな」
代金を払おうとしたら頑なに拒まれたのでありがたく美味しくいただくと満足そうに厨房へと戻っていった。
世話焼き姉御肌って奴なんだろうか。
先ほどまでの後ろめたい気持ちが少し晴れるような、そんな気持ちになれた。
食べ終わり、水を飲んでいると突然シルフィエが言う。
『ムラマサ、ちょっとこれ聞いて』
『ん?』
風の魔法なのか耳に何かイヤホンのような感触があり、突然男が二人耳元で喋るように声が聞こえてきて少し驚く。まるでラジオみたいだ。
「結局さ、俺らってどうなるんだ?」
「さぁなぁ……一応前払いで報酬は貰ってるからまだいいけど、結局何をさせられたのかイマイチわからん」
「それなんだよな、噂だと王城に攻め入ったとか何とか聞いたけど」
「ああ、それは俺も聞いたわ。もしかして戦争の引き金になってたりしてな」
「やめろよ、流石にそうまでして食ってくつもりは無かったんだからよ」
「俺だってそうだけど」
なんだろう、男たちの会話から推測するに黒いコートの強行軍の一員だろうか。
「単純に仕事としちゃボロい仕事だけどな」
「まぁな……ま、俺達みたいなのが気にしてもしょうがねえ」
「そうだな、ん?そういや最初に集められた時になんか言ってなかったっけ」
「なんかって何だ?」
「いやほら、確か……なんだっけ、終わってから何日かしたらどっかに一度集まるとかどうとか言ってなかったか」
「あー、確かに言ってたな。どこだっけ」
そう言って二人で少し考えこんでいるようだった。
もしかしたら襲撃犯の事が少しわかるかもしれない。
「ああ、思い出した。ビルーカ実験場跡地だわ」
「なんで最初の広場じゃねえんだ?」
「さぁ……後ろ暗い事してるからじゃねえかね」
「どうする?行くか?」
「いやー、もういいんじゃね」
「そうか、とりあえずもう一杯いくか?」
『ビルーカ実験場跡地……?』
『怪しい会話だったねー』
『何で気づいたんだ?』
『うーん、雰囲気?たまに雰囲気の悪い人間の会話聞いてると変なこと言ってたりするってミディが言ってたから』
『ミディって……前の?』
『うん、前もそうやって人の声を聞いて何回か使命を果たす手がかりにしてた』
『なるほどな、ありがとうシルフィエ』
『ううん、それよりどうする?』
『とりあえず行ってみるかな、少なくともずっとココにいても今は何もすることがない』
無くなったという方が正しいのだろうが、グリッターに従わなかった時点でおめおめと手伝いにはいけない。
何より第一にしなくてはいけないのは国家転覆を狙う組織を何とかすることだ。
あの黒コート集団のアジトが実験場跡地ならば使命の達成に一歩近づける。
『そういえば、今のところ使命って果たせたのか?失敗したのか?』
『どうだろう……今のところは国は保ってるから一応成功……なのかな?』
『国家転覆が失敗ってことは一応大丈夫だったのかな』
『何ともいえないケド』
その後おばちゃんを捕まえて先ほどのお礼をいい、格安で泊まれる場所を聞いた。
どうやら商業人向けの寝るだけの個室宿があるらしい。
個室宿は一泊で20Gというリーズナブルな値段だった。
個室の中は……というと本当に寝床しかないような部屋だ。
部屋の中にはベッドと窓しかない、というかベッドの両サイドが既に壁である。
「うーん……押し込み宿って感じなのか」
それでも雨風をしのげるのは大きい、まずは疲れを取ろう。
荷物を置いて部屋の鍵をかけ、ベッドに横になる。いつの間にか隣にシルフィエがいて寝る態勢に入っていた。
風呂を手放してしまったことが今日一番の後悔だったのはここだけの話である。




