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第二話 村正、交渉成立

第二話 村正、交渉成立


 次に意識を取り戻したのは、薄い桃色の雲に覆われた場所だった。

ところどころに苔むした地面が見え、たまに木が生えている。空想上の桃源郷のような場所だろうか……と考えていると名前を呼ばれた。

「村正よ、お前にはいくつかの餞をくれてやる」

振り向くとそこには直視してもよく見えない何か・・がいた。なんとなく龍のような雰囲気を感じる。

とはいっても全くわからないのだからなんとなくでしかないのだが。

「餞……といいますと」

「お前が行く世界はただの人間が生きるには険しすぎる世界だ、事を成す事もままならん」

「つまり、何らかの力を頂いて、その世界で与えられた仕事をこなして来い、というわけですか?」

「うむ、察しが良い男は好ましいぞ」

「ありがとうございます。失礼とは存じますが幾つか質問をさせて下さい」

「許す」

(なんか時代劇みたいだな……)

「まずはなぜ私だったのですか」

「なんだ、貴様知らずに箱を開けたのか。説明は省くがあの箱を開けたものの宿命だ、覚悟せい」

半ば分かっていたことではあったが拒否権は無いようだ。生きるのに辛いような世界でどうにか仕事をこなしてこなければ帰れもしないだろう。

趣味のお陰でこういう妄想は時々してきた、いつもそう言う妄想でも、空想の物語でも主人公はやるべきことを成さなければ帰れないのは常だ。

「で、では私がやるべきことを教えて下さい」

「向こうの世界にいる我の使いが指示する、それに従うがいい」

「……ちなみにどの程度で完了する予定とお考えですか?」

「わからぬ、脅威が去るまでだ。先に言っておくがお前の生きる道は向こうだ、元いた世界へと帰ることは出来ぬ」

それにはさすがに絶句せざるを得なかった。勝手に連れて来られて仕事を押し付けられ、帰すこともないとはどんなブラックな仕事か。

とはいえ、こんな超常現象を起こすような相手に歯向かってすぐに死ぬのは嫌だ、諦めて従う以外に道はないな。と思考を完結させた。

「私はどんな力を与えていただけるのでしょうか」

「諦めの早い男だな、手間がかからなくて良い。まずお前の臨む力を一つくれてやる」

まず、ということはたった一つというわけでも無いのだろうか。失敗されても困るのだろうし慎重に力を貰うしか無い。

「ただの人間には厳しい、ということは戦いは避けられない世界ということでしょうか」

「うむ、お前は幾つもの戦いに巻き込まれることになるだろう、その中で使命を果たせ、必要な力はくれてやる」

「わかりました……」

神……かどうかは分からないがなぜこうも全てが一方的な感じなんだろうか。拒否権なんて与えても面倒だからだろうか……

「欲しい力が決まったら強く念じるがいい」

欲しい力は既に決まっている。絶対的な力だ、この力があれば多少の困難も怖く無い。

目を閉じて強く念じる、すると体の内側から光が溢れだすような不思議な感覚に包まれた。

「……む?待て、何を念じた?」

光が収まった頃に不思議そうな声で問われる。何って欲しい力を念じただけだ。

「全てを癒す力、外敵から身を守るような力を念じました」

「は?」

は? 今 は? って言ったかこの神(仮)

「何か問題でも……?」

「貴様、男ならば究極の剣技や圧倒的な戦闘力ではないのか?」

「そんなものがあっても搦め手などでいくらでも命を奪う手段は存在するかと、まずはそう言った邪魔するものを無効化することが確実に目的を果たすのに必要では無いですか?」

「うぬ……」

「まさかとは思いますが、戦闘力みたいなものを勝手に付けたわけではありませんよね?」

「そのまさかだ、村正などといういかにもな名前をしておきながら実は癒し系だなどと誰が思う」

癒し系?なんかだいぶ言葉遣いが俗っぽくなってきたぞ。本当にコイツ神なんだろうか……?

「依頼は確実に達成する事が何よりも重要視されるべきです、そのために私の臨んだ力は必須です。取り替えて下さい」

「取り替えることは出来ぬ、力もタダではないのだ」

「なるほど、この力はあなたの力ではないんですね?」

「いや、私の力だぞ」

一人称までブレだした。カマをかけたつもりがど真ん中に的中したらしい。

「力を無駄遣いすると偉いお方のお怒りを買うのでは?」

「……無意味に聡い男は嫌いだ」

「話が早くて好ましいでしょう?」

いつの間にか感じていた威厳のような何かはそこらに漂う雲よりも軽くなっていた。


 結局のところあれやこれやと言いくるめ、事の真相から力の付与から何からを根こそぎ頂戴した。

つまるところの話はこうだ、主神(仮)らしき存在の二つほど下の階級の神で、荒れた世界を修正する尖兵を集め、修復させるのが神(仮)の仕事らしい。

主神には世界の修復を依頼されるにつきいくつかの力の元を貰うらしい。

それを尖兵として連れ去って来た人間に与えることで、超人的な力を何かしらもらって世界の修復に当てる。

優秀な人間を尖兵として世界を修復させれば力の元の消費は一つで済む。余った力の元の総数がそのまま神格として級位付けされるのだそうだ。

力の付与を出し渋ったのにはそう言う理由があったわけだ。

ちなみに帰れないというのは本当らしい、せめてもの補助として元いた世界の村正に関する記憶や感情は遺恨なく薄れていくようにしてくれるらしい。

忘れ去られるのは悲しいが、もう二度と会えない人たちになってしまったと諦めた。

自分が事故死したらこんな感じで霊になるのかと思うとなんとも言えない気分だった。


 結局のところ付与された力は望んだ癒やしの力と攻撃全般の力の二つになった。

二人失敗して三人目を呼ぶのと、二倍使える男一人で済むのとではどちらが得かということをみっちりと説得したのが効いた。

今までは面倒だとあらゆるサポートをぶっちぎって力を押し付けて送り出していたようだが、それじゃ成功率が低いのは当然だろう。

今までの尖兵の皆さんには同情せざるを得ない。

また、力の元を用いなくてもある程度は神(仮)の力で補助出来るところがあるらしく、行き先の世界に馴染めるような加護を付けてもらった。

厳密には言語を日本語のように自動でシフトしてくれることや、文字などが理解出来るようになること。常識的なものにあまり戸惑わないようになじみやすくなる加護などだそうだ。

どうにもふわっとした加護だが、それだけ守備範囲が広いと思えばありがたいくらいだ。

一つ一つ不安要素を消していくと、徐々に手に入れた力にワクワクしている自分に気づく。

あんなに好きだったファンタジーの世界に、しかも力を持って入ることが出来るなんて。

使命というのがよほど特別なものであるというのは未だ漠然とした理解しかしていないが、どんなに描いても不可能だった夢を叶える代償としては安いのかもしれない。


「さて、準備はいいな?」

「ああ、無事に世界の修復が出来るよう応援してくれ」

「面倒だ」

「……」

「冗談だ、よろしく頼むぞ村正」

「ああ、それじゃあ」

この短時間でだいぶ打ち解けてしまった。そこいらの奴よりはよっぽど神に対して慣れ慣れしい男になってしまったな……

目の前に開けた光に向かって進んでいく。次に目覚める先は突然手に入った第二の人生だ、悔いの残らないように全力を尽くそう。

導入のため二話同時です

定期更新をなるべく目指していきます、どうぞよしなに

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