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WORLD ARMS  作者: 河海豚
第一章 はじまり
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脱出⑦

 ビル内部

 そこは、数分前とは全く違った様相であった。至る所から火の手が上がり、壁や天井の崩れが見られる。

「誰かー! いるかー!?」

 ジンは、煙を吸わないように、身を屈めて迅速に進む。仲間を探しながら。

 しばらく進むと、血溜まりの中を誰かがうつ伏せで倒れているのを見つけた。

「サラか……?」

「どうした!?」と、ジンは駆け寄り、倒れていたサラを抱えようとする。見ると、口から血を流していた。そして、

「なんだよ、これは……」

 身体には穴が空いていた。左胸に拳大の穴が。サラの下の血溜まりは、ここから出たものである。そのように確信してしまう自分に、ジンは苦しんだ。

「……死んでるって、そんなこと考えるんじゃねえよ、バカ! 見間違え、考え違えかもしれないだろ!」

 自分を叱咤して、ジンは顔を上げた。上げてしまった。

「ッ!?」

 ジンは自分の見ている光景が、嘘であると信じたかった。悪い夢であると信じたかった。ジンの前で、何人もの子供達が倒れていた。サラと同様に、血溜まりの中倒れている者、身体の一部が焼け焦げている者、背中を氷の礫で貫かれている者もいる。その誰もが微動だにしていなかった。

「何が……起きたんだ?」

 子供とは言っても、施設で訓練や実験を受けていたはずであり、爆発や瓦礫が落ちてきたくらいのことは避けることができる、とジンは考えていた。全員が倒れることはないだろうと。だが現実は、目の前に広がっている。

「ジ……、ジン……」

 途方に暮れていたジンは、どこからか、自分を読んでいるのを聞いた。

「この声は……、ユウキか!?」

「どこにいる!?」と叫び、辺りを探す。そして、ユウキの姿を見つけた。ユウキは、階段付近にうつ伏せで倒れており、顔だけをジンの方向へ向けていた。

「大丈夫か?」

 ジンは動かないサラを床へと静かに下ろしてから、ユウキに近づいた。

「ジン……」

 ユウキを見たジンは、これまで以上に衝撃を受けることとなった。

 両手両脚は、肘や膝など関節ではないところが折り曲がっており、肘や膝自体もおよそ曲がってはいけない方向へ曲がっていた。そのせいで、動こうにも動けない状況であり、苦痛で涙が流れていたような跡が、顔に残っていた。

 ジンは慎重にユウキを抱き起こそうとするが、また、奇妙な点に気づく。

「そ、そんな……」

 ユウキの背骨の一部が潰れており、連続性が絶たれていた。また、肋骨も折れており、死んでいてもおかしくない状態だった。既に気力だけで意識を保っている状態であろう。

「ジン、上に向かせてくれない?」

 困惑するジンに、ユウキは告げる。ジンはしきりに頷くと、ユウキを仰向けにした。

「ジン、ごめん……」

 呟くような声で、ユウキは言う。その顔には、殴られたような痣が多くあった。

「もう喋るな。これ以上は苦しいだけだろ」

「いいんだよ。自分が死んじゃうことくらいわかるから……。ジンに伝えなきゃいけないことがたくさんあるんだ」

 ユウキは強く言う。ジンは止めてはいけないと悟った。

「最初に死んだのはヤヨイ姉だった。氷を避けて油断していた俺たちを、爆発から庇って……」

 爆発後に聞いた悲鳴は、その時のものだろう。ジンはそう考えた。

「その後、俺はジン達のところへ行こうと思ったんだ。このことを知らせようって……。でも、階段を降りたらあの男が……」

 ユウキは咳き込む。深い呼吸を一度して続ける。

「あの男がいきなり現れたんだ。何もない所から。俺たちの目の前に」

「あの男って誰のことだ? ビルの中に、誰か隠れていたっていうのか?」

 そんなはずはない、とジンは考えていた。数十分前、このビルに入った時に、人の気配は感じられなかったからだ。

「隠れてたんじゃない。気づいたらそこにいた、って感じだった……。名前はハイドって言ってたと思う」

 ユウキはまた、咳き込む。今度は血を吐き出していた。

「俺たち、武器を構えたんだ。すぐに敵だってわかったから。でも、遅かった……。銃を構えて撃とうとした瞬間、俺が捕まった。その時、この両方の腕を折られたんだ」

 ジンはユウキの腕を見た。だらりと力無く垂れており、折れた部分が痛々しく感じた。

 続いてユウキが告げた内容は、次のことであった。サラがハイドという男の隙を見て攻撃したが、返り討ちに遭い金属を纏ったような腕で胸を貫かれたこと。それを見た子供達が、全員で飛び掛ったが、ある者はサラと同じように殺され、ある者は投げ捨てられ、瞬く間に戦闘不能に追い込まれたことであった。

「俺が残されたのは、このことをジンに伝えるためだって。そう言って、奴は消えた。……俺がもっと強かったら、サラも、……レンだって助けられたのに。俺が弱かったから……」

「ごめん」と、小さくユウキは言う。

「謝らなくていい。謝らないといけないのは、俺の方だ。異変に気づいた時、すぐに駆けつければ良かった。ユウキ、許してほしい」

 ジンは頭を下げて言った。

「そんなことは……。シュウだって言ってた。逃げるのは危険だって。それをみんなわかってシュウやジンについて行ったんだ。みんな、覚悟はできていたと思う。だから……」

 ユウキは一度止め、考えるような素振りを見せてから続けた。

「ジンは俺たちの分まで、生きてくれ。シュウやみんな、『先生』と一緒に逃げて」

「あと、カイも一緒に……」と、最後は戸惑いながらも笑っているような顔で、呟くように言った。

「うん」と、ジンは強く頷く。それを見たユウキは満足そうな笑みを見せて、静かに目を閉じた。

 再びユウキが目を開くことは無かった。

 ジンはゆっくりと、床にユウキを下ろす。そこはサラの隣であった。

 ジンは残る子供達も二人の近くに置いた。誰も、一人で寂しくならないように。そう願いながら。

 そして出口を見据える。戦っている仲間の所へと駆け出した。

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