脱出③
先程、旧市街の建物はブロック毎に異なっているといった。
一階建ての建物が集合するブロック、高層の建物が集合するブロック、廃墟が集合するブロックなど同じ形状のものが集まることが多い。しかし、そうでないブロックも存在する。
ジン達がシュウ達と合流する予定の場所は、様々な形状の建物が集合するブロックにある高層の建物の一階であった。
現在、ジン達はその建物へ残り五百メートル程の地点に来ていた。
「なんだ、あの数は」
ジンは呟いた。視線の先には、武装した敵の集団がいる。ジン達はその集団に見つからないように、建物の中に身を潜めていた。
「どうしたんだよ、ジン。倒して進めばいいじゃんか」
数分前に目を覚ましたユウキが目を擦りながら声をかける。カイの投与した睡眠薬は、短期的なものであったようだ。しかし、まだ薬の作用が残っているようで、目を覚ました後、暴れるようなことはなく、まだまだ眠気があるようであった。
「そういうわけにはいかない。敵は多いし、奴ら、おそらく手練れだ。レンを撃った奴と同じような奴だろう」
早急に撃破しなければ、混戦となった場合、それは最悪の事態になるだろう、とジンは予想していた。
「ここは迂回した方がいい」と、ジンはユウキに説明する。
ユウキに反論する気力はないのだろう。「……わかった」と、一言だけ告げると、あくびをして一歩下がった。
説明通り、敵がいるところを避けて、今いる建物を突っ切ってジン達は進む。この建物が通り抜けできることを、ジンは計画実行前から知っていた。以前、研究所の雑用を命じられたために、このブロックに来たことがあったからである。その仕事では、シュウも一緒に来ており、今向かっている集合場所の建物は、その時にもしも脱出をする際の拠点として使うことを決めていた。ジンは確実に成功させるために、この計画実行の直前、このブロック周辺の分析も怠らなかった。
建物を通り抜けて、ジン達は道へと出た。周囲に視認できる敵はいない。
「先輩、あれですか? シュウ先輩達との集合場所っていうのは」
カイが指を差して言う。集合場所である建物は目に見えていた。建物は地上七階まであり、地上からは見えないが地下一層という構造をしている。
「あそこまで行く。全員敵の警戒を怠るなよ」
全員が頷く。声に出さないのは、見つからないように、と全員が考えていたからだろう。
これまでと同じく、ジンを先頭に集団は進む。各々が、横道の確認を忘れず慎重に進んだおかげか、敵に見つかることなく、目的の建物に着いた。
「みんな無事か?」
建物の一階で、ジンは言う。ジンを除いた全員が返事をするが、息を切らしている者もいれば、着いた途端緊張が切れたのか、倒れこみ寝てしまう者もいた。
「ジン先輩、約束の時間まではどれくらいですか?」
カイが息一つ上がってない様子で、ジンに尋ねる。
「二十分くらいだな。予定通りに着けたと思っている」
「そうですか。ここからはどうするんすか?」
ジンは皆を一度眺めた。
「俺とカイで武器を調達しよう。シュウ達が来るまでは暇だし、すぐ出発できるようにもな」
「どこにあるんですか?」
「あの階段の下だ」
ジンは下の階層へと続く階段を指差した。
「成る程。ジン先輩とシュウ先輩の仕事でしたね、確か。まだ、研究中でしたっけ?」
「うん。でも、今日でそのクソみたいな研究も終わりだ。俺達で潰してやったんだ」
ジンの言葉を受け、カイはヘラヘラとした笑みを一層強くした。
「やっぱり先輩達は面白いです。俺は一生着いていきますよ」
ジンは無言でいる。「さあ、行きましょう」と、カイが先に階段へと降りて行った。
「おーい、ジン」
ジンがカイに続いて降りようとした時、ユウキが声をかける。カイの注射による眠気はもう既に覚めたようである。
「俺にも手伝わせてくれよ。武器を運ぶくらいならいいだろ? なあ」
「いいけど、カイと一緒でも大丈夫か?」
「だ、大丈夫だって」と、歯切れ悪く返事をする。先程の注射もそうだが、普段の生活で、ユウキはカイに少々虐げられる傾向にあったため、苦手意識があったのだろう。
「カイと頑張るよ」
「それなら、まずヤヨイに伝令してもらってもいいか? 上の階から見張りをお願いしてきてくれ。その後下に来てくれ」
「うん、わかった」と、言ってユウキはあと一人いる年長組であるヤヨイの所へ向かって行った。それを確認したジンは、階段を下っていく。
階段を下った先では、カイが待っていた。部屋の入り口の前である。
「どうして待っていたんだ?」
「ユウキがジン先輩に近づいていたのが見えていたので、もしかしたら一緒に降りてくるんじゃないか、って思ったんですけど、検討違いでしたね」
「来たらどうするつもりだったんだ?」
「来たら……、言わなくても分かりますよね?」
カイは黒い笑みを浮かべていた。ジンは一度頷くと、カイの横を抜けて、部屋のドアを開けた。
「こりゃあ、すごい」
ジンの後に続いたカイは、拍手をしながら部屋へと入る。
その部屋は元々は広かったのだろうが、床の上には武器という武器が所狭しと置かれていた。
「もっと整理整頓とかしなかったのですか?」
「俺達が最後来た時には、こんな風になっていなかったんだけどな」
「へー。じゃあ、ヤツらの仕業ってわけですね」
カイは辺りを物色し始めた。