理由
「それが、俺が死ぬべき理由だって? 訳が分からない」
「わかった、わかった。今から教えてやるって」
ユウジは肌を露出したままで続けた。
「お前は、なんで天上人が地上に下りて来ず、あんな所に住んでいるのか知っているか?」
「さあ、知らない。考えたこともない」
「それもそうだろうな」と、ユウジは首を二、三度縦にふる。そして、続けた。
「この世界ーー地上のことだが、ここにはお前達に対して致命となる物が存在する」
「それは、その斑点とは関係あるのか?」
「関係大ありだ。俺は露出狂じゃあないぞ」
ユウジは苦笑する。ジンは馬鹿にされたように感じたが、表に出さないようにする。
「それは、上の世界では『瘴気』と呼ばれている」
「瘴気……。文字通りの毒というわけか」
「その通り」とでも言いたげに、ユウジは頷いた。
「瘴気とは、上の世界での呼び方だ。天上人が長く地上に居られないのは、この瘴気を長時間吸い込み取り込むと、やがて死に至るからだ。だが、俺たち地上人にとってみれば、なんてことはない。ただの空気と変わらない」
「どうしてか、わかるか?」とユウジはジンに問う。ジンは「わからない」と、首を横に振った。
「進化したんだよ。俺たち、地上人はな」
ユウジは自分の肩にある斑点を指差して続ける。
「これは、その証だ。地上人は、空気中の瘴気を血液中で分解して排斥することができる。もっとも、身体から出すためには装置が必要だがな」
「そこから取り出すってことか?」
「その通り。だから、お前には驚いているんだよ」
ここで、ユウジは服を着直した。驚いているとは言っているものの、ジンにはユウジの表情に余裕が感じられた。
「俺が上の世界の人間なのに、死なないからか?」
「そうだ、奇妙なことだ……。だが、俺はお前に一つの可能性を感じている。それをこれから、確かめさせてくれないか?」
「どうする気だ?」
ジンは尋ねる。ユウジは待ってましたと、手を叩いて言う。
「お前を、ある男に会わせたい。話はそこでしよう」
ジンは、ユウジの言うことを信じていいものか、と思い始めた。だが、この男に命を救われているのも確かであり、殺すのなら目の覚まさないうちにやるべきである、と考える。
また、ここで逃げたところで、この地上においては、ジンには行く宛がない。いや、元の世界ですら、居場所がないのだ。このままでは、のたれ死んで終わりであろう。
「今から、行くのか?」
「そうだ。善は急げって言うだろう。それに、お前には俺を殺そうとする元気があったしな」
ユウジは立ち上がり、部屋を出ようとする。
「早く支度しろよ。その前に寄る場所があるからな」
「どこに行くんだ?」
「来ればわかるさ。というより、お前に関係なかったら、アレは何だっていうんだ?」
ユウジの言葉に、ジンは首をかしげる。「アレ」というのは何なのか。
ジンはユウジが持ってきた服に着替えて、部屋を出た。