第一話
三島十色が目を醒ますと、そこは空の中だった。
「ん…?」
自分は、小さい子が夢見るみたいな雲のベットで眠っていた。
「マスターマスター!目が覚めたー!!」
可愛らしい声がした。
十色はゆっくりと体を起こす。
目をこすってみたが、周りは相変わらずの空の中。もとい雲の上だった。
「目を醒ましたか」
十色の前に、一人の少女が立っていた。
ツインテールに巫女服を着ている。
「大丈夫…と、聞くのはおかしいか。まぁ、気分はどうじゃ?」
「普通…ですけど…。ここは、どこですか?」
きょろきょろと辺りを見回す。
「ここは、天国じゃ」
ニヤリと少女が笑った。
「て、天国っ!?」
「そしてわしは神様。こいつはアシスタントみたいなもんだ」
そう言って、神はケラケラと笑う。
「アシスタントの名前は姫子。三島十色…。ぬしは死んだ。覚えておるか?」
「何をですか?」
「何故死んだかじゃ」
十色は首を傾げた。
+地上。数十分前+
三島十色はどこにでもいる少年である。
むしろ、どこにでもいる少年より辛い境遇を背負い、自分に出来ることを必死に探しているくらい。
彼は一昨年に両親をなくし、両親の親、つまり彼にとっての祖父母も早くに他界していたため、天涯孤独の身となっていた。親戚さえもいないというこの不遇。
さらに、彼は常に最低限の生活を保つためにバイトをし、そのバイトのせいで勉強をする暇もなく、テストでは赤点三昧。
寝不足のためにスポーツもまともに出来ず保健室送りも数知れず。
そんな彼を支えるのは、幼なじみの水面穂波だけである。
そして今日、彼はボールを追い掛けて車道に飛び出した少年の身代わりとなり、死んでしまったのだった……。
「どうじゃ?思い出せたか?」
「はぁ…ま、あらかたは…」
「生きたいと思わないか?」
神は聞く。
十色は少しだけ悩んだ。
「まぁ…人が死ぬのは自然の摂理だと思いますし……」
「自然の摂理であるだけで死んでも良いというのか?」
神が怪訝そうな顔をする。
「はい…」
「わしは、お前の経歴を見て思ったのじゃ!お前は、もっと幸せになるべき人間だと!」
大声で叫ぶ。
「いや…ぼくなんかより不幸な人はたくさんいますし…」
十色が、すぅっと視線をそらす。
「わしはお前に力を授け、お前をもう一度生かそうと思う」
自分で言って、自分でウンウンと神は納得する。
「そしてわしがお前に付き添ってやろう」
「…はぁ」
「嬉しくないのか?」
「…あんまり現実味がなくて…。正直、微妙です」
「気にするな。現実を現実と認めるのも大事だぞ?」
神は手をぶんと振り上げた。
「あの…その前に一つ聞いて良いですか?」
「なんじゃ?」
「お名前は?」
「わしの名は…リレイル!神だ!!」
そして手を振り下ろす。
同時に、十色の意識もどこかへとんだ…。