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MMORPG「∞・クリティカルアーマメント」  作者: 立花豊実
‐Ⅸ‐ ゴースト・オブ・レイ
55/55

55話

 思い出すと今でも身がすくむ。兄の驚異的なイマジネーションと、それを顕現させる圧倒的な「思考スピード」。仮想世界における神秘なる技術――多重再生を、誰よりも先に使いこなしていた兄は、まさにヴァーチャルの申し子だった。

 最期の時、仮想世界で兄は言った。自分は、病気であったと。

 あまりにも先に『進化しすぎた』兄はきっと、この世界に見捨てられた存在だったのだ。遅すぎる世界スロー・ワールドの住人として、過酷な人生を歩んできた。

 その速すぎる思考力を生まれ持っていた兄が、唯一の拠り所として引きこもった世界――仮想。新たなる人類への進化を促す「仕組み(システム)」が、そこには組まれていた。

 思念の強さ=最高のステータスとなる仮想世界で、己を高めようと突き詰めれば詰めるほど、兄の居た場所へと近づくことができる。そうした環境の中で、次々と覚醒していったプレイヤーたちは兄にとっては、他ならぬ同類だった。

 常人の思考をはるかに凌駕した彼らこそ、新時代を継ぐニュータイプになる。

 最後に兄はこうも言っていた。

 地球圏外から飛来した技術書――ロストメンタルに則り実験を受けた人間がいる、と。

 何かを、兄は知っていた。

 危機迫るソレを、兄は、どうにかしようとしていた。そんな気がするのだ。

 兄が仮想世界で一体何を見たのか、未だにわからないままだ。

 だが、その兄の背中を、リサは追いかけてきた。

 ネット上でウワサ立っていた、記憶が眠ると言われる「闇サーバ」に、もしかしたら兄に繋がる何かが見つかるかもしれないと、やっとの思いで潜り込んだのだ。

 だが、そこにいたのは、思いもよらぬ人物だった。かつてクリティカル・アーマメントにおける最強プレイヤーを決める大会『クリティカル・マスターズ』の大舞台で、兄が多重再生によって叩きのめした、あのハン・ゼノウだったのだ。

 あの頃とまったく変わらないその分厚い「くちびる」が、フフッと歪んだ。

「その身なり容姿は、白銀の妹だねえ。面白いウワサを聞いているよ。クリマスの決勝で、セレイエのボウヤをフッたそうじゃないか。なかなか可愛いことをするもんだねえ。あの舞台を蹴ってまで、今こうして闇サーバにいるってことはだ、あんたも大概、とりつかれた口だろう? このヴァーチャルの、理不尽きわまりない『優越感』ってやつにさ」

 なびく白銀の長髪の下で、リサは無表情を保った。

「私がここにいる理由は、兄を探すため、ただそれだけです。できれば戦闘はさけ、この闇サーバの真相を探らせて欲しい」

 聞いて、ゼノウは首を横へ横へ大振りした。

「ハハハ、だめだめ、止めようたってダメだよ。あんたがなにを望もうがあたしにゃ何の関係もないことだ。あたしだって目的は唯一つなんだよ。あの神器クリティカル・アーマメントをこの手にする、それだけさ。そのためならね、白銀だろうが黄金だろうが、力づくでも消させてもらうよ」

「……そうですか。ならとても、話は早いですね」

 バチィ!

 言葉が終わるとすぐに、リサは手のひらから爆光を放った。飛び散る光のくず、その一粒が、ひらひら舞い降りれば、わずかに触れただけで地面が盛大に弾け飛ぶ。

 続けざまに降り注ぐ爆光鱗粉に、途端にスタジアムが大規模な戦場と化す。

「なんだい、すました顔して意外とせっかちなんだねえ。兄とまるで大違いだ」

「いいえ。兄はあまりにも、速すぎたんです」

 消えたリサの体があった場所は、直後地面が吹き飛んだ。衝撃はスピードに還元されて、ふつうであれば目に留まらぬ移動を実現する。が、一瞬で背後に回っていたリサの動きを、ゼノウの大きな瞳はギョロリと捉えていた。

 当たれば莫大なダメージとなる爆光鱗粉の混じる風の塊を、リサが手のひらから押し出した。まばゆい光の連鎖が世界を真っ白に染め上げる。だが対するゼノウは巨大な「くちびる」を大きく開くと、それら光輝くエネルギーを、轟々と音を放ちながら途方もない勢いで吸引しはじめた。

 外へ外へ飛んでゆく爆発ベクトルが、まるで時間を戻されるかのように一点に吸い寄せられていく。その中心に位置する巨大な「くちびる」が、やがてすべてを飲みこむと世界が静寂に包まれた。そして直後、


 ド、パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 ここぞとばかり大きくぶっ開かれたゼノウの「くちびる」から、巨大なビームが弾けた。

 スタジアムの原型を木っ端みじんに消し散らす、圧倒的な破壊力。再び世界がまばゆい光に満たされてゆく。耳をつんざく轟音が止んでも、甲高い耳鳴りが残り続けた。

 巨大な破壊光線が、闇サーバの仮想世界、その地平彼方まで貫きとおす。辺り一帯を粉塵が埋め尽くし、視界が著しく悪くなった。

 だが互いが互いを決して見失うことなく、二人は曇る中を見つめ合っていた。


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