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27話

 ――鼻。


「どうもさーせんした!」

 開口一番にそう言った生物は、鼻がピノキオだった。しかして目はぐるぐるメガネ。全体が手乗りサイズなのに、その大半が《顔》。もはや顔から肢体が生えていると言っても差し支えない頭身バランスを持ち誇ったソイツは、口元をゆらゆらと揺らめかせ「ぐわっ」と開いた。

「どうもさーせんした!」

 フツルが固まっていると、ソイツはさらに大きく口を開いて続けざまに、

「どうもさー」

「しつこいやめろッ!」

 頭をぼりぼり掻きながら「いやあ、さーせんっす」と言い続ける謎の生物を、フツルはただただ唖然として見つめることしかできなった。

「ほんとさーせんすねー。名をガラピオってんでさ。よろしくたのんまっせ、だんな!」



 ☆★☆★☆



 ――名をベルジュ。

 かつてクリティカル・マスターズのファイナルステージまで上り詰めた召喚士は、アヴァターの種族を『サラマンテス』としていた。炎の精として魔力に特化したその姿は、こんがりとした浅黒い肌を一部、赤いウロコが覆っている。もし攻撃された箇所がそのウロコ上であるならば、受けるダメージは少なくとも皮膚よりは軽減されるのだという。かような種族固有の能力を、この世界では《種族特性》と呼ぶのだそうだ。もちろんメリットがあれば「体重がちょっとかさむ」(=動きが遅くなる)というデメリットもあるのだから、初期から備えられた特性は長所も短所も一緒くたということになる。

 問題なのは、ベルジュの装着する見た目『海賊』っぽい全身装備の方だった。これは☆七つほどの価値があるらしく(☆が十個ついて『クリティカル・アーマメント』と呼ばれる)、その付加スキル《MP強奪》が召喚士というスタイルと相伴って素敵な効果を発揮するのだ。

 手乗りサイズのピノキオ的生物、自称「ガラピオ」は説明してくれた。

「ダンナ、あんたの評価は☆一個だぜ」

「うるさい!」

 すでにMPを持っていかれまくったフツルは、闇のステージ外枠を全力で駆けぬけながら、肩に乗るガラピオに喚いた。「やれやれ」と言いつつ、その長い鼻をぶんぶん左右に振りながらガラピオは言った。

「これだから素人はいやなんですぜ。これでもめっちゃホメてんのに」

 たとえそれがちゃんとした褒め台詞だったのだとしても、フツルにとっては決して甘受できる状況でなかった。リョージから告げられた任務「時間稼ぎ」すらろくに果たせそうにないからだ。

 青白い光柱より闇サーバに乱入してきた美しき海賊風オンナ召喚士「ベルジュ」は、現れて早々名乗り出るとリョージ、フツル両二名に対し「邪魔をするなら消す。しなくても消えろ」と一方的に攻めてきたのだ。仮想へ赴いてから過ぎっていた嫌な予感がコワいほど的中してくる現シチュに、けれどフツルは必死に説得を試みていた。

「人の話を聞けよ! ここは世府の監視下にはないイレギュラーな世界なんだ。原因を突き止めないと、あんただってヤバイかもしれないんだぞ!」

「そんなこと言っちゃって、あなたもウワサを聞いてきたんでしょう? 闇サーバの地底、第五十層に眠る完星神器――No'7(セブンス)・クリティカル・アーマメント! あたいを差し置いてひとり占めしようたって、そうはいかないもんネ!」

 言いながら召喚幻獣ユニコーンに跨ったベルジュが、しなやかな曲線刃を持つ『カットラス』を振りかぶってきた。これに当てられると強烈な痛みもさることながら、装備特性でフツルの《MP》がぶん取られてしまう。タチの悪いオマケだ。限りあるはずの召喚時間は奪われたMPによって延長され、あの《ツノ馬》をますます猛々しくさせる。普通にやり合ってもヒイヒイなのにこれでは話にならない。

 完璧主義者の眼力でなんとか刃の軌道を読み、剣をかち合わせるのだが、


 ――ガッキイイイイイン!


「うぐっ!」

「きゃはははは!」

 後方へ吹っ飛ばされるのはこれで何度目か、フツルの仮想肉体が宙を一回転して地に叩きつけられる。際して《HP》がガリッ、《MP》までもが「ズウィーン」と消し取られる。ベルジュがバケモノじみた馬の支援効果をもってして突撃するのに対し、こっちはただソレを受けるだけの防戦一方だ。歯が立たないどころか、歯肉炎の末期症状ぐらいやばい。

「だから言ってんでしょうよダンナ。召喚幻獣とやりあうにはパワーが圧倒的に足りねえ。かと言ってお馬さん追いかけんにもスピードが雑魚すぎる。魔法は呪文を教えてやってもいいがダンナ、あんたもうMPが空っぽだぜ。技もろくに使えねえし。ほんと……よえっ!」

「うっさいだまってろ鼻! おまえだってろくに役立ってないだろーが!」


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