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25話

「うーん……」

「待たせたね、フツル」

 閃きそうで思い出せない悶々とした思考をめぐらせていると、周囲の検分を終えたリョージがやっと戻ってきた。その容姿はけれど、フツルと違って現実と大差ない。淀みなく流れる長髪に、大きな瞳がのぞく。こっちでも相変わらず男の娘っぽさは抜群だ。……別にイイけれど、自分だけ造ったキャラというのはずるくあるまいか。とか、思わなくもなかった。

 素人まるだしに突っかかりながら剣を鞘に収める。すると、リョージがあまり良くない「顔」をしてみせた。

「むやみに武器は取らないほうがいいよ、自分で当ててもダメージあるから。左上を視てみて」

「おいおい、まさか。僕はゲームの話が聞きたくて待ってたワケじゃないんだぞ」

「いいから左上」

 意外と真剣にリョージが言うので、仕方なく目線を視界の隅っこに寄せる。すると何もない空間からボンヤリと細長い影が浮かび出した。それは徐々に彩度を増してゆき、やがて青、緑、黄の三つの棒――《バー》として姿を現す。それぞれのバーの左端に、上から硬そうな装飾文字で《HP》《MP》《CP》と記してある。

「尽きたら死ぬヤツだろ、仮想的に」

「そう。一番上にある青いゲージ、つまりHPがゼロになるとアヴァターが瀕死状態になる。って普通に説明したいところなんだけど……それは正規サーバでの話。《ここ》ではもしかしたらヤバイかもしれない」

「ヤバイって、何が?」

「わかんない」

 キッパリ言ってしまうと、リョージは「それが知りたくてここへ来たんだよ」と続けた。

「君と再会する以前に、仮想世界ではちょっとした問題が起こっていてね。VRゲーム『クリティカルアーマメント』専用サイトの掲示板で、立て続けに同一のスレがたてられたんだ。曰く、裏の世界『闇サーバ』という謎のステージの存在、とかってね。ネット界隈で出たホラ話だとか、ちょっとした都市伝説だとか言われていたんだけど……」

 深い闇の天蓋とその周囲の広大な空間を、リョージはゆっくりと見回した。《闇の世界》――名づくるには確かにおあつらえ向きの感じだ。つまり、二人の居るまさにこの場所こそが《闇サーバ》ということなのだろうか。

「事実なのか?」

「多分ね。前から妙ではあった。各地ウワサの出所は別々なのに、供述される内容はどれも《似通っていた》から。ネットの大海を探り回っていたからわかるんだ。デマなら荒唐無稽で、情報に整合性なんか取れないはずでしょ? それが今件だけは様相が違った。だから一時サーバの停止を提言したのに、世府は認めるわけにいかない、って」

「なるほど。絶対的第三機関の名に泥を塗られたくない、と」

「その通り。だから内密に探っていたワケなのだす。そーんな時かな、ユイミちゃんから連絡がきたのは。懐かしい、なんて思っていたら……何の因果なんだか。世府が血眼になって探している登録外の《サーバ》に、君が囚われていたんだ。超ウケる!」

「イヤ全然ウケないし。つうか囚われていたって、どういうことなんだ? あの時、僕は普通にログインしただけなんだぞ」

 ユイミに促されて突発的に始めたVRだったけれど、手順は正しく踏んだはずだ。闇サーバなどという怪しいものにアクセスした憶えは毛頭ない。

「何者かがアットランダムにプレイヤーを捕らえている、としか今は考えられない。何にしても、世府の監視網をすりぬけるほどのおバカさんが、このサーバの運営者ってことになるよ。ボクの役目はソイツの存在を暴くこと。……初めにも聞いたけれど、このサーバに入ったとき、何か見たり聞いたりしなかった?」

「だから知らないって。ちょっとだけ印象にあるだけ……銀の川が」

 ぶつ切りに現れる煌びやかなシルヴァーラインが、脳裏に幾度もフラッシュする。なのに全体像は一向として晴れ渡らないままだった。ハッキリしそうでしない、絶妙なチラリズムが情欲的に閃いて、

「……女の子?」

 不意に漏れだした言葉に、リョージが「え?」と聞き返してきた。

「あ、いや、何でもない」

 慌てて手を振りまくり、訂正する。自分の勘違いがフシダラな想像の産物だったらと思うと、コワくて言えなかった。

「と、とにかく。状況は解ってきたよ。雇われハッカーも大変なんだな。一応訊いておくけど、僕はどうやって帰ったらいい?」

 リョージの説明に納得しつつも、とりあえず帰路だけは確認しておきたかった。聞くかぎり、素人がいてどうこうできる問題ではない。フツルの仕事はあくまでリョージを闇サーバへと導くことぐらいだったはずだ。つまり、役目はもう終わっている。

「ボクがサーバを支配するまでは出られない、って言ったら怒る?」

「怒るさ」

「あははそうだよねー。やっぱり言わないでおこう」

 とかのたまうリョージの顔は、かなり涼しげだった。

 ……いやいや言っちゃってるし! というつっこみはせず「はいはい」と潔くあきらめてその場にあぐらをかく。どうせVR初心者には手も足も出せないのだから、煩くしたってしょうがないのだ。後のことはプロのハッカーにお任せして、気長に待つとする。旧友と会う事ができ、こうして言葉を交わせただけで殊のほか気分はイイ感じだ。


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