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16話

 ひ、引きこもした恨み!? 

 マチノさんが発してきた怨念まじりの言葉に、改めて自分の悔恨を胸中からえぐり出される。こんな場に不釣合いな格好をした彼女に言われるまでもない。リョージを傷つけてしまった罪はフツル自身、大きな過ちだったと深く後悔している。例えリョージと主従の関係であるメイドさんとはいえ、今更そんなデリケートな傷をつつかれる筋合いはない。これはフツルとリョージの問題であり、その解決もまた二人でじっくりと見出していくべきものだ。

「マチノさんには関係ないだろう!」

「あります! 大いにあります! 私はご主人様を愛しているんです――!」

 複雑な思念に声を荒げれば、恥じらいもなく大声で返される。そのまま駆けだしてきたマチノさんは直前で急制をかけ、身をしずめ、そこから初撃足裏を叩きつけるケリを放ってきた。同時的に芝生の葉が、すぱすぱっと二三枚ふき飛ぶ。

「ご主人様の、メイドなんですからっ!」

「ちょ、うおい!」

 眼前へ猛スピードでくりだされる黒靴を、半身を折って何とかかわす。どうにか説得できないものかと、次なる攻勢が始まるまでの間隙に脳内を回転、ぎゅんぎゅんと考える。

「……確かに、一因は認める! けど、故意にアイツを傷つけようとしたわけじゃないんだっ! 謝罪する気持ちも大いにある! 何よりアイツは、僕の中でただ唯一のラ――!」

「お口ちゃああっくです! それ以上の弁解は不要! 犯した罪はもう動かない断じて赦されない! ご主人様の癒えぬ心がため、あなたもガッチリギッチリと引きこもしてやりますよ!」

「そ、そんな動詞ないしっ!」

 顔をひきつりつつ抗議するも、メイドさんにはまったく聞く耳がない。

 ギラッと目を光らせ、続けられる連撃がぶんぶん! マチノさんの細足がフツルの顔、身体めがけて美しく弧をえがいた。メリケンサック装着の右手がキラリと光るが、そう思わせておいて使われるのはエプロン下の美しき細足ばかりだった。別に使用しないのは構わない。だが、どうにもその金属質に意識が吸い寄せられてしまう。加えてお股のひらき具合が絶妙にあぶない。

 断続的に攻めくるメイドさんの動作は止まず、フツルは辛うじてそれを見切り続けた。

 ブンッブンッ! ブブンッブンッ! 蹴り。蹴り。蹴り。蹴り……、全部ケリ!

 華麗に繰り出される見事な足技の全てを、完ぺき主義なる眼力で何とか避け続ける。眼前すれすれに猛風巻いて振りきられる足先を見て、先ほどの本人証言がうなずけて納得できた。マチノさんの運動能力は、確かにフツルが見てきた中でもかなり優れている方だ。

 いつしか後方に押しやられ、SPたちのサークル際まで追い詰められてしまう。これが格闘技のリング上であれば、ネット際ということになるのだろうか。猛然と攻めてくるメイド服姿を前に、一筋フツルの顔に汗がつたう。

「抵抗しないのですか? さっきから逃げてばかりでまるで弱虫さんですね。あまり場外に近づくと危険ですよ?」

 ――き、きけん?

 言われて、後方をちらりと見やる。そこで視界に非日常の異物がドドンと飛びこみ、背が凍るように悪寒がほとばしった。

「ちょっ! そんなのアリっ!?」

 ちゃき、と金属質の音を立ててSPたちが懐から出したそれは、黒光る、ハリウッド映画ご用達の《ハンドガン》だった。ためらうこともなく、彼らがその銃口をこちらへ向けて、

「えっ! ちちょ、すす、すとっぷ! すとっぷ!」


 ――パアンッ!


 咄嗟にぎゅううう、とつぶった目をおそるおそる開く。耳の奥がギンギンと鳴り響くが、想像していたような穿たれる痛みはなかった。一応、胸元や肢体のすみずみまで確認してみるが、穴ボコ一つ見当たらない。

「……う、撃たれて、ない?」

 よく見やれば足下の芝生にえぐれた弾痕と、硝煙が上がっている。鼻腔に流れ込んできた空気に火薬独特の臭みを感じた。

「い、威嚇射撃か……」

「当たり前じゃないですか。その気ならとっくにヤッてます」

 言いながら彼女が放ったケリに対し、しかし今度は回避困難だ。ここはまさにコーナー際、下がればあのSP野郎どもが構えている銃の餌食にされてしまう。

 被弾を覚悟して咄嗟に防御姿勢を取ったが、

「きあゃっ」

 素っ頓狂でいて可愛らしい声が飛び出すと、猛スピードで迫りきたマチノさんの足が不自然に揺らいだ。直後、哀れにバランスを失ったメイド服の少女は盛大に身をひっくり返してしまう。拍子にエプロンの裾が見事に裏返えり、見えちゃよろしくないモノまでもがあらわとなる。笑わずに済ましたSPたちに思わず感心したくなるほど滑稽なシーンだが、なんだか気まずく、フツルは視線をあっちの方へとそらした。

「イタタ……」

 メイドさんは「はっ」と自分の姿がハレンチ極まりない状態になっていることに気付くと、見る見る顔を染め上げて、次いでぷるぷるくちびるを奮わせた。

「く、く、くやしいいぃぃぃぃ! よくもこんなヒドイことを!」

「うおい! そっちが勝手にこけたんだろうが!」

「言い訳無用うるさいです! あなたがその気であるならばもう容赦はしない覚悟するのです! こっちも奥の手超合金製3M《メイドメイドメリケン》の力を思う存分遠慮も掃きすて思いっきり使わせていただきますよ!」


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