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10話

 クリティカル・マスターズとはいわばゲーム内世界における世界大会のことだ。ルールは単純、プレイヤーが自身で鍛えたキャラクターを用い1VS1で勝敗を競いあうだけ。ソロプレイで一体どのプレイヤーが最も強いのか。それを運営側が全面協賛して大規模に執り行う、年に一度の王者決定戦なのである。(上位ランカーには賞金がでるぞっ! ※広告より)

 使用される武器に制限はない。もちろん魔法、呪術、召喚、トラップアイテム、回復系でも、幻惑系でも、使えるものなら何でもアリの無差別バトルだ。その様相はときとして数時間に及ぶ激戦ともなれば、瞬くうちに決する電光石火の瞬殺試合にもなる。絶技が飛び交えば、眺めているだけでも大層楽しい。(ただし、負けた悔しさはふるえるほどだぜっ! ※広告より)

 しかし、当事者として上位を目指すのであれば、その道は決して平たんなものではない。

 本戦へ出るためには、事前に九つある各地方領域で予選を勝ち進み、さらに三つの大陸内トーナメントで決勝まで勝ち残らなければならない。億を超えるプレイヤーたちが犇めきあうこの世界で、たった六つしかないその席を取り合うのだから難度はもはや五輪レベルと言えよう。

 その本戦に顔を揃えた今年のツワモノたち六人。それぞれが死力をみせた壮絶なバトルは、末に二名の王者候補を導いた。その一人が昨年の大会で二年連続優勝を遂げたアックスソード&アックスランス使いの騎士セレイエだ。(素性は都内在住の学生らしいぞっ! ※本人プロフィールより)

 そしてもう一人が、今をときめくオンラインアイドル《白銀のリーザ》だった。

 最終決戦は間もなく行われる予定になっている。もうあと数分のうちに、仮想上の歴史に永らく語り継がれるだろう戦いが始まる。会場の空気といえば決闘の行く末にどこかそわそわしくある――の、にだ。そのバトルヒロインとなるはずのリーザは、一向として姿を現さなかった。


 リーザ! リーザ! リーザ! リーザ――……!


 会場に混じる相手方の応援コールにふんと鼻をならす。

「……来ないじゃないか、あの娘」

 ぶるぶる唇を鳴らし、呟いたのはセレイエだった。漆黒の淵に蛍光オレンジのラインをひく全身の鎧から、ぎらつく鋭気を漂わせる。兜からのぞく目は冷たく光る。

 スーツを装う司会の髭面ドアーフも、あわてて係員のエルフを蹴飛ばした。

「何してんだよ、まだ来てないのか? さっさと探してこい!」

「そそそんなこと言われましても連絡とれないんですよお。やっぱり……あの件が引いてんじゃないんですかあ。わたしが同じ立場だったら、ぜえったい出ないと思いますよお」

「関係あるか! 今はクリティカル・マスターズの最中、決勝戦なんだぞ! 超大イベント! そのラストすぱあと! 一体どんだけの人員が携っていると思ってる! 億超えのジャックポットだってんだ今更無しになんてできるかボケが!」

 青筋を立てて怒鳴り散らす司会ドアーフの言葉を、セレイエは「ふむふむ」と聴いていた。

 一度にんまり笑うと、ゆっくり会場の中央舞台へ歩み進んでゆく。

「――ああ、ちょっとセレイエちゃん、まだ早いよ相手が来てないんだから!」

 短い足でせっせと追いかけてくるドアーフに、けれど後ろ手を軽くふってみせるとそのまま歩み続けた。

 会場の視線が注がれてくるのを感じる。ここだけじゃない、ネット中を介して無料で中継配信されている映像は、現実世界でもたくさんの人たちによって観られているはずだ。心地良い高揚感の昂ぶりに、体の中がゾクゾクしてくる。

 会場からは様々な声。なんだなんだ。どうしたどうした。また何かやってくれんのか。なんか出てきたぞ。リーザちゃんはまだかよ。もう始まるっぽいぞ。いやでも来てないみたいだぜ。どうしたんだ。……次々飛びかう野次の中を、セレイエは舞台の中央まで堂々と進み出ていった。そして立ち止まり、くるりと身をひるがえしては会場全体を仰ぐ。次いで言った。

「――みなさん!」

 声が響くとそれが次第に波及するかのように、静かになってゆく。

「今日は栄えある第七回クリティカル・マスターズの決勝戦へようこそ! 応援、ギャンブル、野次おやじ、お越しいただき誠にありがとうございます!」

 ここでワザとらしく顔を曇らせ、なんだか意味ありげに間をもたらす。

「……しかしながら、ここで皆様に残念な知らせを明かさねばなりません。我が最愛なる好敵手として選ばれた超ルーキー《ミラー・ヴェール》こと白銀のリーザは……なな、なんと……!」

 ――なな、なんと?

 同時中継も含め世界中の観衆聴衆がぐぐぐと前のめりになる。そして次の瞬間には、まったく予期せぬ王者の物言いに誰もがドタドタと転倒する羽目に遭った。

「逃げちゃいました。アハハ」

 その言葉がそのまま翌日のオンラインニュース一面記事のタイトルとなったことは、クリティカルアーマメント史上最凶の出来事として、確かに永らく語り継がれることになったのである。


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