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盗賊の娘  作者: 烏山 満
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第四話 ~決別と出発~

 酒場で飲んでいた男たちもだんだんと帰りはじめ、リタも部屋に行くことにした。

 これから行くところも決まったしさっさと次の場所へ移らないと追っ手が来るかもしれない。


 案内された部屋はベットと小さな机と椅子しかない簡素な部屋だったが、廃墟暮らしのリタには随分と豪勢な宿に見えた。

 

ベットの上に2つの袋を置くと、金属がぶつかる甲高い音が響いた。持ち出してきた宝の袋の方は脇に寄せておいて、もうひとつの袋を開ける。


 中に入っていたのはリタの数少ない日用品である。

 服の替えが何枚か。コート一枚。どれも相変らず色は真っ黒であった。それからナイフが何本か。大きさはまちまちで形もいろいろである。それから鉤付ロープ。

 

 一般常識とはかけ離れた日用品ではあるが、それはともかくリタはナイフの中から一本を選び出し、そのほかのものは袋に放り込んだ。そしてそれを器用に(はり)の上へ載せると、今度は宝の袋の方を引っつかみナイフを持って窓に近づいた。

 あてがわれた部屋は2階だったが、それほど立派な建物ではない。リタは難なく地面へ飛び降りることが出来た。


 そのままあてどもなく目の前の木立の中に入っていく。リタの目は月明かりでも充分足元が見えるように訓練されていた。危なげもなく木の根を飛び越え、どんどん森の中を進んでいった。


 突然足を止める。あたりをぐるりと見回すと、おもむろにしゃがみこみナイフを地面に突き立てた。そのまま穴を掘り、ある程度の深さになると袋を穴に投げ捨てる。

 元々、金庫からこんなものを持ってきたのは嫌がらせのためだった。そして、母親への決別の意味もこめて盗んできたものだったが、これからは必要ない。

 

 何よりこんなもの大事に抱え込んでたらあたしは本当に自由になれないさ。


 

 元通りに穴を埋めなおし穴の痕跡を出来るだけ消すと、ナイフについた土を綺麗にぬぐい宿に戻った。

 一階の窓枠に足をかけ、壁の出っ張りをつかんでするりと2階まで上る。


 靴の泥を申し訳程度に払うとリタは床に寝転んだ。ベットでぐっすりと眠られるような平和な生活はしてこなかった。親元を離れたところでその暮らしをやめるつもりもない。

 

 リタはナイフを握ったまま、うとうとと眠りに入っていった。


            〇           〇          〇


 目が覚めたのはまだ()も昇らず暗い頃だった。

 

 手早く荷物をまとめ、足音をしのばせ階段を降りる。

「随分と朝が早いんだな。誰も起きていないかと思った」リタはカウンターの店主に声をかける。

「ああ、なんか朝早くに出て行っちまうような気がしたからよ。弁当作っといた」

「親切だね」受け取りながら不思議そうに言う。

「たんまり金を落としてもらったお礼だよ」

「親切ついでに質問があるんだけど。なんでおじさんはあたしを疑わないわけ?自分で言うのもなんだけどかなり怪しいと思うけど」

 店主は少し考え込んだ後に答える。

「あんたは将来大物になる」

「は?」

「なんとなく直感で思ったんだよ。だから騙されてもいいと思ってな」

 リタは一瞬呆気(あっけ)にとられた後、にやりと笑った。

「おじさんホントにいい人だ。心配しなくてもその宝石は本物だよ」

 

 もう会うことは無いかもね。リタはそういい残して戸口から出て行った。


             〇           〇           〇

 

 「あの女は悪魔の化身に違いねえよ」リタに絡んでいた男が酒場でわめき散らしていた。リタが旅立ったと知ったとたんに酒場にやってきて、こうして昼間から酒を飲んでいるのである。

「あいつがあの時俺に何をささやいたと思う?『酔っていなかったら殺していたのに』って言ったんだ」さすがに昼過ぎだからか酒場に人影は少ない。さっきからこの話を延々と聞かされている店主は戸口に誰かが立っているのを見て、やっと話から解放される、といち早く声をかけた。

「いらっしゃい」

「人を探しているんですが」このあたりでは珍しい褐色の肌の青年だった。

「俺と同じような黒髪黒目の女の子でね。見かけませんでした?」店主が口を開くより早く、男が怒鳴った。

「お前はあの悪魔の仲間か?そいつならもう此処(ここ)にはいねえよ」

「此処にきてたんですか。いつどこに出発したかわかります?」今度は店主が口をはさむ。

「あんたはあの嬢ちゃんを追ってんのかい?」

「追うなんて人聞きの悪い。彼女に会いたいだけですよ。危害を加えるつもりなんてありませんし。彼女の仲間ですから」青年は笑って言ったが、その目には何か執着心のようなものが見え隠れしているように思えてならない。

「あの子なら教会街へ行ったよ」

「此処から南へ行ったところの街ですか?」

「そうだ」

「判りました。ありがとうございます」くるりと背を向け出て行こうとする。と、突然足を止めて言った。

「お礼にいいことを教えますよ。今、東の盗賊団がね、大山脈の近くの村をしらみつぶしに訪ねてるらしいですよ。おそらく此処にももうすぐやってくるでしょう」そして今度こそ一つに縛った長い黒髪を揺らし、酒場から出て行ったのであった。


 店主は今更ながらにあの男に少女の行き先を教えてしまったことを後悔し始めた。 

怪しげな新キャラ登場!!!


 っていうのをやっと書けたので一安心です。



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