第二話 ~喧嘩は大好きだ~
リタは自分でも頬が緩むのがわかった。
「あたしを殴るならどうなっても文句はないね?」
男は何も答えなかった。ただじっとこちらをねめつけている。リタはそれを返事の代わりと受け取った。
「いいよ。もともと殴りあうことに異論はないんだ。喧嘩は大好きだからね」
今度は満面の笑みでそう言った。そうして突然に表情を消す。
暫しの睨み合い。先に動いたのは男の方だった。リタの顔めがけて拳を突き出した。若干、勢いが無いのはまだ迷いがあるからだろうか。それを片手で顔の横に逸らし大きく踏み込む。
周りで見ていた男たちも一瞬何が起こったのかわからないようだった。
いつの間にか男が床に押さえつけられている。リタはうめき声をあげる男の襟元をつかんだまま、耳元に顔を寄せ、何事かささやいた。
つかんだ手を離してやると男は青い顔をしてリタから遠ざかろうとする。かすれた悲鳴を残して、男は足をもつれさせながら酒場から出て行ったのだった。
酒場中が静まり返っている中、リタの靴音だけが異様に響く。脇を通り過ぎるたびに男たちが怯えたように身をすくめるのが滑稽だった。
「あ、」と突然リタが足を止める。
「あの男から財布奪うの忘れてた!有り金全部いただくって宣言してたのに・・・」がっくりとうなだれるリタの鼻腔を温かな食べ物の匂いがくすぐる。
「おい、嬢ちゃん。食事できたぞ」店主が店の裏から皿を運んできた。
リタは無言でカウンターの席に飛ぶように戻ると早速がっつき始める。
「なるほどこの味だったら店主が無愛想でも客が入るね」
「誰が無愛想だって?」
「嫌だな。食事の味を褒めてあげてるだけなんだから、そんなににらむ事ないだろうに」2人の間には穏やかな空気が流れていたが、それは店主がさっきの出来事を見ていないおかげかもしれなかった。現に、酒場の客は未だに押し黙ったままだ。
リタはちらりと横目で男たちを見ると、店主に声をかける。
「ねえ、さっきの宝石でさ、ここにいる人に酒おごってやってよ。それやっても充分お釣りはでるはずだからさ」
「随分と太っ腹なこったな」
「さっき色々あってね」リタはそういって満足そうに笑った。
「あたしが関係ない奴まで巻き込む節操無しだと思われてなきゃいいけど」
心残りはアクションシーンが短すぎたこと。
リタにとってはおっさんは弱すぎたようです。