第十話 ~分かれ道~
はしごを降りた先には、さらに下りの階段が続いていた。用意されたランプに火をともすとあちらこちらに張り巡らされた蜘蛛の巣が嫌でも目に付く。
ランプに先には下りの階段が照らされていた。
らせん状の階段を6人の影が下っていく。石造りの階段は古いものだからか、所々崩れている。誰もが押し黙り、一行は無言のまま足を進めた。
教会の真下にあるためか、やけに香の香りが漂っている。やっと階段の終わりが見えたときには地上からは随分と降りてきているようだった。
「道が分かれてるな」二股に分かれた道がランプに照らしだされている。
「どちらを通ればいいかわかってるか?」
男の問いにクラークは首を横にふる。「この場所の構造などの情報はまったく無いんです。わかったのは入り口の開き方だけで」
「あと、ここのどこかにお宝がたんまりあることだけ、だろ?」
「あ、そうですね」リタの言葉に、クラークはびくりと肩を震わせて答えた。
「お前たちはそこの神父を連れて左の道へ行け」
「ここは固まって行動した方が安全だと思うが。何があるかわからんぞ」男の一人がリタに反論する。
「あたしは信用できる奴としか一緒に行かない。ついでにお前たちが死んでもまったく関係ないからな」そう言い捨てると、右の道へケイを引きつれてさっさと入っていく。
「ついて来るなよ」リタの声が取り残された4人の耳に届いた。
まさか仲間割れが起こると考えていなかったクラークはオロオロし、3人の顔をうかがった。
「まあいい。あんな若い奴らじゃ、どうせこちらの足を引っ張るだけだ」男は吐き捨てるように言うと左の道に足を進める。
「宝に誘われて来たんだろうが、惨めな奴らだ。ここが墓場になるんだろうよ」
「いいのか?少なくとも神父は何かの情報を握っていた可能性もあるぞ」
「別にいい。なんとかなるさ」リタは振り向かずに答え、どんどん先へ進んでいく。
やけに自信のあるような答えだが、リタは何かを知っているのか?
ケイは一瞬そう思ったが、そういえばリタはいつもためらうということを知らないかのように行動することを思い出した。悪く言えば猪突猛進で向こう見ずで後先を考えない性格なのだった。
まあ、そんなところも頭領に似ているような気はする。もっともあの人は計画性の塊のような人だった。ただ、不安や恐怖をまるで感じていないように見えるのだ。そんな姿は、従う側から見ればとても頼りがいがあるように見えた。
ケイは自分より頭一つ分ぐらい背の低い後ろ姿を、じっと見つめた。
まだ、頼れるというよりは守ってやらなければいけないような背中だ。もちろん自分はそうするつもりで追いかけてきた。
これからもそうするつもりだ。いつか、リタが彼女の母親のようになれるまで。
クラークは先ほどの男の言った言葉を頭の中で繰り返し、一歩も動けずにいた。
『ここが墓場になるんだろうよ――――』
彼らは集められた男達の中でひどく若く見えた。あんな子供が若くして死んでしまうかもしれない、それを放っておくなど許されることではない。脳裏に一瞬、あの時のことがひらめいてクラークは余計に顔色を青くした。
あの男達は今までも様々な経験を積み、恐ろしい出来事を乗り越え生きてきた大人だから、おそらく平気だろう。
だが、そう、あの子供達を二人きりにしてはいけない。
ここには恐ろしい魔物が潜んでいるのだから。
クラークは右の道へ急いで駆け込んで行った。