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青になった信号

作者: kar777
掲載日:2026/05/11

俺は運転しながら、助手席を何度もちらちらと見ていた。

初めて挑戦したナンパは大成功だった。助手席に座る凛とした女性を見ながら、そう思う。

ナンパで車デートってのは…馬鹿げているけどな。

一人心の中で突っ込む。

けれど、成功した。クリスマスには、赤い糸に切り刻まれている俺が。成功したんだ。それならいいんだ。

車は速度を上げていく。

…ただ。一つ不満を挙げるとしたら、この車内の…エアコンの音がうるさいくらいの沈黙だろう。

彼女が言葉を発したのは、俺の「車デートに行かない?」に対する「行く」だけ。

車を走らせてから、何度も話しかけるのに黙っている。

もちろん俺のコミュ力が低いからだろうが…

もう何の話をすればいいのかわからない。俺は音楽を掛けることにした。

適当に邦楽と調べて、再生する。

「この曲、いいね。良くない?」

「…」

彼女はついに顔をそむけた。

なるべく怒りが声に出ないように、口を開く。

「どうした?」

返事はない。信号が赤になる。

もう一度、彼女の方を見る。窓の反射で…彼女の顔が映る。

怒りが吹き飛ぶ。

彼女は…泣いていた。


信号が赤のまま、変わらない。俺はハンドルから片手を離し、ゆっくりと息を吸った。

「泣いてる?」

「…ごめんなさい」

やっと聞けた彼女の二言目は、俺の想像を超えてきた。

「忘れたかったんです。元カレの事」

かすれた声だった。俺の方を見ないまま、彼女は続けた。

「浮気されちゃって。でも、だから…忘れるために…ごめんなさい」

彼女の声は、途中で何度も途切れた。

言葉を選んでいるんじゃなくて、ただ、喉が追いついていないだけのように聞こえた。

エアコンの風が、さっきより冷たく感じる。

「…この曲、何か関係が?」

言った瞬間、彼女の肩が小さく震える。それが答えだった。

「忘れたかったんですけどね」

彼女はシートベルトを外した。

「…ありがとうございました。楽しかったです」

そう言って、微笑んで、ドアを開けた。

「待って!」

その言葉は、出なかった。信号は、青になっていた。


俺は運転しながら、助手席を何度もちらちらと見ていた。

さっきまで居た、彼女の事を思い出しながら。助手席の空白を何度も見ていた。

いつの間にか…俺は彼女に惚れていた。

「…彼女の何に惚れたんだ?」

そう小さくつぶやく。

考えないように集中するも、思考は進んでいく。

俺は、彼女の傷に惚れたんだ。

そう思考が行き着くと、どうしようもない自己嫌悪が渦巻く。

最低だな。俺は。

けれど、そんな気持ちとは裏腹に、プレイリストにはあの曲が保存されていた。

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