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部屋での考察

やはり自分の部屋は落ち着く。

ベッドの上のぬいぐるみ。

それに、昔読んだ楽しい漫画。

好きなものに囲まれているだけで、心が落ち着く。


私はひとりになってからの道のりを振り返る。


『ぽちゃ』という音は、家の前まで不定期に追いかけてきていた。

ざわざわとした人の声も、蝉の声や街の喧騒に混じって断続的に聞こえてきた。

あれは何だったのだろう。

そして……この部屋は本当に安全地帯?

周囲を見回すも部屋の中に特に変わった様子はない。


私はネットを使って沼について調べることにした。

まずは、この近辺の郷土史を調べた。


市のホームページによると、この地域は昔、田畑が広がる農村地域だったらしい。

信仰に厚く、各家には必ず祠があったこと。

付近に大きな川がなく、水不足に悩まされていたこと。

そのため、各家の祠は水神を祀っていたこと。

水不足の際は村の中心にある沼に頼っていたこと。

様々な町の歴史がわかった。


別のサイトを調べてみる。

村の中心にある沼は、たびたび干上がる事があったこと。

そのため、水神を祀り、年に一度祭りを行っていたこと。

祭りの際には生贄をささげていたこと。

……不穏な事が書かれていた。


オカルトサイトを検索すると、沼は心霊スポットとして挙げられていた。

どうやら、あの沼のほとりは江戸時代には処刑場となっていたらしい。

私は、沼のほとりの石碑を思い浮かべた。あれはもしかしたら。

そのサイトには、沼の周辺には絶対に入ってはいけないが、そもそも入り口自体が発見されていないと書かれていた。


水神を祀っていた神聖な場所が処刑場となった事に違和感を覚えた。

けれど、自治体の意向と住民の気持ちが乖離することは、今も昔もよくある事だ。


市のホームページには各家には必ず祠があったと書かれていた。

今はこの周辺は住宅街だ。

昔の家は全て取り壊されているのだろう。

そうか、あの祠の山はその時出てきたもの? 水神の祠?


今度は『荒縄』について検索する。


『結界としての荒縄の役割:

神聖な場所と俗世の境界:荒縄は、神社の境内や祭壇など、神聖な場所と俗世を隔てる境界線として機能します。

不浄なものの侵入防止:結界は、不浄なものや災いが聖域に侵入するのを防ぐ役割があります。

神聖な空間の象徴:荒縄は、その場所が神聖な場所であることを示す象徴としても用いられます。

神様を迎える準備:地鎮祭などでは、祭壇の周囲に荒縄を張り、神様を迎えるための清浄な空間を整える意味もあります。』


あの、道を挟んで結ばれた荒縄は、神域と現世を分つ結界の様なものだったのだろうか。

私たちが神域に入らない様に。

いや、私たちは難なく縄の下を抜けることができた。

それでは、なぜ? 祀られていた神が外に出ない様に?


自分の領域を刑場として使われた神はどう思うのだろう。

そして、村の家に祀られていた水神の祠は一ヶ所に集められている。


『お水さま』は、侵入した者についてくるという。

人が侵入すると荒縄の結界は機能しないという事だろう。


……ついてくる。


新聞記事を検索する。

とくに町内での死亡記事。


昭和の時代、釣り人が一人おぼれて亡くなっていた。

この周辺で釣りができる所は無い。

あるとしたら、あの沼。


小学生が二人、溺れて亡くなっていた。

記事には湖と書いてあった。

この周辺に湖はない。


女性が入水自殺をしていた。

たぶん、あの沼。


ここで私はパソコンを閉じた。


背筋に、冷たい何かが走った。


『ぽちゃ』

背後で水の音がした。


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