不穏な雰囲気
足を踏みだす度に砂利が擦れる音がする。陽の光を浴びた緑がまぶしい。
小道に引かれていた砂利は、しばらく歩くと山道に変わった。
通学に使う革靴は歩きにくい。
人ひとりがやっと通れる程度の山道の、両側から生い茂る膝丈の緑が足に触れる。
上を見上げると、左右から木々の枝が交錯し、真夏の青空を暗い陰で隠している。
遠くから、近くから、蝉の声や野鳥の声が聞こえてくる。
「住宅街から少し入っただけなのに、もう山の中みたいだね」
私は前を歩く、白いブラウスに話しかける。
「登山みたいだよね。みんなが入っちゃいけないって言う意味がわかったよ」
「え、やっぱり部活のみんな、反対したの?」
陽菜は笑顔で振り返り、元気にうなずいた。
「だと思ったよ。繰り返すけどこの林、誰かが入ったって聞いたことないもん」
私はできる限りあきれた様な声で答えた。
「帰る? 私には冒険より友情の方が大切だよ?」
慌てた様子の陽菜。かわいいじゃないか、こいつ。
「平気だよ。ここまでつきあったんだから沼までつきあうよ。そのかわり、明日からも私にその気持ちいいほっぺを提供するように」
「もう」
陽菜はそのやわらかいほっぺを膨らました。
私たちの歩く道のその先に、雑草に下半分を隠されて、風化された石像が二つ山道を挟む様に並んでいるのが見えた。
何か宗教めいた、けれども不穏な感じがする。
これは何のためのものだろう。