表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/110

黙っていられない

ポップコーンの味が、やけに薄かった。


 映画を見ながら、笑ったり泣いたりするべきなのに、

 私の意識は、スクリーンじゃなく、隣に座るブタオと、反対側の紗英に向いていた。


 今日のあの子――明らかに様子がおかしい。

 玄関でブタオと二人で戻ってきたときの笑い方。

 あれは“誰かに見せるための顔”だった。


 私は、そういうのを見逃さない。



 映画が終わったあと、紗英がトイレに立った。

 私はそのタイミングを逃さなかった。


 「……ちょっといい?」


 洗面所。

 紗英は鏡を見ながら前髪を整えていた。

 いつも通りの、ふわっとした仕草。だけど――目は笑っていない。


 「なに?」



 「今日、舞太夫と、なんかあった?」


 「……なにそれ。嫉妬?」

 「は?」


 返された言葉に、一瞬で血が熱くなった。


 「陽菜ちゃんも、舞太夫のこと好きなの?」

 「ちょっと待って。“も”って何?」


 私は、ひとつ深呼吸して、それでも止まらずに続けた。


 「……あんた、ブタオのこと、好きなの?」


 紗英の手が、髪から離れる。



 「さあ、どうだろ。どう思う?」


 とぼけた声。でも、顔が笑ってない。


 「答えになってないじゃん。はっきりしなよ」


 「陽菜ちゃんこそ」


 その返しに、私の胸が一瞬つかえた。

 でも、ちゃんと返した。


 「私は……舞太夫のことが“心配”なだけ」


 言いながら、自分の声が少し震えてるのを感じた。


 「変わろうとしてるのに、誰かに茶化されて、またあいつが傷つくの、見たくないだけ」



 沈黙。

 水の音も止まった洗面所で、紗英はしばらく鏡を見つめていた。


 「……陽菜ちゃんって、優しいんだね」


 「優しいとかじゃないよ。

 誰かの軽い気持ちでまた心が壊されるのを見たくないんだよ」


 強く言いすぎたかもしれない。

 でも、言わなきゃダメだった。


 私は分かってる。

 あいつは、自分を許すことすらできてない。

 そんな時に、紗英みたいな“よく分かんないままの好意”で近づかれたら――また塞ぎ込むに決まってる。



 リビングに戻ると、ブタオはスマホを見ていた。

 何を見てるのかは分からないけど、背中がほんの少しだけ丸まってた。


 私は、その隣に静かに座った。

 何も言わない。言えない。


 でも、黙って見てるだけなんて、もう嫌だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ