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イベリスの鎖  作者: Amit Tsu
第3部 暴かれる愛
22/33

幸せな日々、報われない恋


夢のような日々。


その日々を、私は夢のようだと思っていた。


いつか終わると知っていても。

それでも、確かにあの時間は、私にとって「生きている」と感じられる瞬間だった。


あの頃、私は“塩見りえ”として――勝の隣に立っていた。



高校一年の冬。

イルミネーションが街を染め始めた頃、私は初めて「女の子らしさ」に希望を見出した。


「選ぶの? 私が?」


クリスマスプレゼントを選んでほしいと言われて、私は戸惑いながらも心が跳ねた。

それが“あの子”――星見えりへの贈り物であっても。


「任せて。絶対、喜んでくれるの選ぶから」


本気で選んだ。

勝の隣で、何度も鏡の前で手に取っては、悩んで、考えて。

――この色が、あの子に似合うだろうか。

――これは高すぎない? でも喜ぶかな?


「“大切な人のことを想って、何かを選ぶ”って、すごく幸せなことだから」


そう言った私の声は、震えていたかもしれない。

でも、あの瞬間、私は本当に幸せだった。



次に覚えているのは、春先の休日。

ショッピングモールで見かけたピンクのシュシュ。


「似合ってる?」


「うん、いいと思うよ」


鏡越しに映る私に、勝は照れたように微笑んだ。

それだけで、一日が輝く気がした。


「プレゼント選び、上手だよね。優しいし」


そんな言葉しか、言えなかった。

彼が見ている“彼女”が、誰かなんて言わなくても分かっていた。

それでも、嬉しかった。隣にいられることが、嬉しかった。




ある日、学校帰りの電車で、あの子を見かけた。

星見えり。勝の心に今も生き続けている“幻”。


他校の制服を着て、男の子と笑い合っていた。


それを見て思った。

ああ、やっぱり私は……ただの影なんだって。


鏡に映る自分は、地味で、冴えなくて、息をひそめるように生きていた。

だから私は、変わろうと思った。

誰よりも可愛くなろうと。努力しようと。

あの子の“幻”に、勝てるように。




夏。

制服の袖から出た勝の手を見て、私は思わず口にしていた。


「勝って、手……綺麗だね」


本当に、そう思った。

あの手が好きだった。

それは“守ってくれた手”だったから。


「努力してきたって感じする」


そう言いながら、私はその手に触れた。

ほんの少しのぬくもりが、胸の奥に残った。




放課後、彼とショッピングモールを歩いた日。


「今日は“私の買い物につきあってる彼氏役”って設定なんだから」


ふざけて言った言葉に、勝が笑ってくれた。

それだけでよかった。

それで、今日が終わってもいいと思った。


「私の努力、報われてるんだね」


そう言ったとき、彼は「感謝してる」って言ってくれた。

その言葉だけを、お守りみたいに抱いて私は泣いた。

部屋でひとり、静かに、声も立てずに。




秋。文化祭の日。

二人で作ったクレープ屋の看板の前で撮った写真。

勝の腕には小麦粉の跡。私は制服の袖をちょっとまくって、彼に寄り添っていた。


「今の勝、えりちゃんが見たらびっくりすると思うな」


私が選んだ服を、彼は着てくれていた。

私が教えた仕草を、褒めた言葉を、彼は吸収していった。


その全てが、“星見えりのため”だったとしても。

その過程に、私が存在していたことが、幸せだった。


「勝のためだもん」


そう言って笑ったときの私の顔を、写真は覚えているだろうか。

心から、愛していた。

心から、幸せだった。

心から、――報われたかった。




でも、その願いは届かなかった。


あの日々のどこにも、私は“恋人”として存在していなかった。

どんなに隣にいても、どんなに想っても。

私の恋は、“報われない”ままだった。


それでも、私は笑った。

勝の隣で。

星見えりの“幻”と戦いながら。

塩見りえとしての私を、全力で演じて。


……あの時間こそが、私の人生で一番幸せだった。


だからこそ、私は今も胸に抱いている。


金色のペンダントを――“本当の私”を、忘れないように。

夢のようなあの時間を、失わないように。




夢が終わったあとの世界。

でも、私だけは知っている。

あの夢が、確かに現実だったことを。


たとえ、彼にとっては違っていたとしても――。


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