余白のない風景
人の死は、思ったよりも静かだ――
次に姿を消したのは、えりの友人の一人だった。勝がえりを観察する中で、“えりの隣にいる時間が最も長い女”と判断した人物。
目立ったニュースにはならなかった。
警察は「行方不明者」として捜索を始めてはいたが、まだ事件性は薄いと見ているようだった。
それでも、えりの周囲に少しずつ変化が生まれ始めていた。
「最近、みんななんかバタバタしてるよね」
えりがそう呟いたのは、大学の中庭でのことだった。ベンチに座り、パンをかじる彼女の横に、勝は何気ない顔で座っている。
「渡部くんのことも、佐々木さんのことも……なんか気味悪いって言ってる子もいた」
「うん、まあ……タイミング、重なったからね」
できる限り自然な声色で答える。
自分がその“タイミング”を作ったなどとは、もちろん表情には出さない。
その時、ふとえりが小さく笑った。
「でもさ、こういう時に一色くんみたいな人がいると安心するよね。なんか、いつも落ち着いてるし」
勝は一瞬だけ、心臓が跳ねたのを感じた。
それはたった一言、たった一瞬の気遣いに過ぎない。けれど、その優しさに勝はまた、火をくべられる。
「ありがとう。でも、えりのほうが落ち着いてると思うよ。こういうとき、冷静に話してくれる人って少ないし」
そう言った瞬間、えりの視線が、ふと勝の顔をまっすぐに見た。
ほんの一秒。けれど、まるで何かを見透かされたような気がした。
「……そっか。そうかもね」
それきり、えりはまた目の前のパンに視線を戻し、もう何も言わなかった。
*
帰宅後、勝はベッドの上で仰向けになり、天井を睨んでいた。
(このまま、えりの周囲をひとつずつ“空っぽ”にしていけば……)
気づけば、そんな考えが常態になっていた。えりを囲む風景から“他者”というノイズを消していく。それが、勝にとっての愛のかたちとなっていた。
誰もいない景色に、えりだけがいる。
その隣には、自分だけがいればいい。
ただ、それだけでいい。
勝は、ポケットからスマホを取り出すと、えりのSNSを開いた。
そこには先ほど撮ったらしい昼の写真がアップされていた。ベンチでの一枚、軽くパンを持つ自撮り写真。
その投稿には、同級生の男たちが何人も「いいね」を押していた。
その中に、見覚えのある名前があった。
赤井翔太
えりと同じゼミの男子。先月あたりから頻繁にえりの周囲に現れるようになった男だ。SNS上でも、彼のコメントはやけに馴れ馴れしい。
(また、“余白”が……)
えりの隣には、まだまだ人がいる。彼女を囲む風景は、まだ“静寂”には程遠い。
勝はスマホをゆっくり伏せ、まぶたを閉じた。
熱が、静かに膨らんでいく。
これは、怒りではない。悲しみでも、狂気でもない。
もっと純粋な――ただの愛だ。
えりを独り占めしたいだけ。
えりが笑うとき、その視線の先に自分以外がいない世界が見たいだけ。
そのために、必要なものはもう決まっている。
次は――赤井翔太だ。




