ロボットみたいにぎこちない男
【香山 りか 視点】
コウキくんはかたくなに自分から話そうとしなかった。
私と話したくて会っているはずなのに。
仕方なくこちらから話題を振ってみた。
りか「機械学習の研究ってどんなことをするの?」
コウキ「私が今研究しているのは量子アニーリングの動きを模倣した強化学習です。最近流行りのニューラルネットってやつですね、それのニューラルの部分をアニーリングみたいにしたやつで、あ、ほらわかりやすいとこで言うとシュレディンガーの猫って」
お、喋るタイプだ。
典型的な理系男子で、好きなことを話し始めると止まらないらしい。
シャイで自己開示できないタイプでなくてよかった。
何らかの感情を吐き出せれば小説のネタにできる。
コウキ「生きているか死んでいるかわからないじゃないですか、あっ。会話を停止」
会話を停止!?AIみたいな発言したよこの子。
それから、何の話題を振ってもオウム返しのような答えしか返ってこなかった。
例えば、
えり「カフェのコーヒーにハマってるのよね、私酸味が強いコーヒーが好きなの」
コウキ「僕も酸味が強いのが好きです、pHが小さい感じがしていいですよね」
えり「そう、そういえばここのケーキが美味しくて」
コウキ「ケーキって美味しいですよね、私も好きです。クリームがあるところが」
こんな調子。
えり「あーー、そうなんだ。ここのケーキ屋ね、うちの近所にあって」
コウキ「わかります!ケーキ屋って近所にありますよね」
突然手を握ってくる。流石に気持ち悪い。
これ、共感の表れ??なの?
でも顔は真顔。性欲から手に触れてるって感じでもない。
だって、目がギラギラしていない。
死んだ魚のように焦点があってない。
えり「あーっ、じゃあ別の話しよっか。そうだ、機械学習ってなんなの?」
コウキ「機械学習の定義?定義は難しくて、あ、だめだ自分の話ばかりになっている、修正」
もしかして彼、自分の話ばかりし続けて面白くないと詰られてきたのだろうか。
だから、下手くそな共感をしようとしてオウム返ししたりしているのだろうか。
これじゃあ、彼の本心を、彼をこんなロボットにした彼自身の感情を聞き出せない。
小説のネタがない!
えり「どうして?あなたの話楽しいよ?」
コウキ「楽しい?ならば問題ないや」
えり「あなた、本心で話してる?」
単刀直入に聞いてみる。
これで感情を露わにしないならこの子をネタにするのは大変すぎる。
えり「あなた、すごく頭がいいけど恋愛を感情でたのしんでないでしょう」
言葉を選んで選んで、おだてて聞き出す。
私「恋愛の目的はセックスなのでは?」
衝撃の回答が返ってきた!
この子、面白いかも。