第4話 「はい!その一番大きな惑星に飛ばしてください!!」
私は桃華。
17歳の高校2年生。
映画と音楽が大好きで、特にSFやファンタジーの世界に憧れていた。
彼女は幼い頃に父親を亡くし、母親と二人で暮らしていた。
父親の書斎に残された本が、彼女の心の支えとなっていた。
「お父さんの本、また読んでみようかな…」
そう呟きながら、桃華はベッドの上で父親の書斎から持ち出した一冊の本を手に取った。
それは、古びたSF小説で、ページをめくるたびに、物語の中に引き込まれていく。
現実の世界では味わえない冒険や驚きが、彼女の心を満たしてくれた。
その日、桃華は友達の琴音と映画を観に行く約束をしていた。
朝からウキウキした気持ちで、好きな音楽を聴きながら支度をすまし家を飛び出した。
2025年 初夏
「今日は何の映画を観ようかな…」
「桃華〜〜 待った〜?」
琴音が渋谷の交差点で小走りにやってきた。
「全然〜、私も今来たところだから!」
「やっぱ渋谷は人が多いよねー。電車一本乗り遅れちゃった。」
「乗り遅れても5分程度だし、ぜんぜ〜ん問題ないよ!」
桃華は琴音に笑顔で答えた。
今日の映画が楽しみで、彼女の胸は期待でいっぱいだった。
「それより早く映画行こー!」
二人は、きゃっきゃと笑いながら交差点を歩いた。
二人が共有するのは、普通の高校生が話すような恋バナやファッションの話題ではなく、
清洲会議の出席者の中で誰が一番好きか、という少しマニアックな話題だ。
「私は柴田好き!!」と桃華が言えば、
「わかるー!でも、私は丹羽かな〜」と琴音が返す。
二人は、「わかる〜〜〜〜〜〜」と声を揃え、またもや笑い合う。
二人にとって、こういった少し変わった趣味を共有する時間が、
とても楽しく、貴重なものであった。
しかし、その平和な日常は突如として終わりを迎える。
二人が映画館へと向かう途中、突然、大きな悲鳴が周囲に響き渡った。
「きゃーーーーー」
「ぎゃーーーー!」
桃華と琴音は驚いて立ち止まり、周りを見渡した。
次の瞬間、周囲の景色が漆黒の闇に包まれ、轟音とともに稲妻が走った。
まるで世界が崩壊するかのように、あたりは激しい衝撃と混乱に包まれた。
桃華の体は強い力によって宙に浮き、そのまま空中へと放り投げられた。
周りでは人々が叫び声を上げ、混乱の渦の中で彼女も同様に呑み込まれていった。
その瞬間、桃華の脳裏に次々と映像が浮かび上がった。
まるで走馬灯のように、彼女の記憶が流れ出していく。
お父さんとお母さんが笑顔で話していた昨日の風景…
学校の教室で友達と盛り上がって話している景色…
運動会の思い出…
誕生日ケーキのローソクを消す私…
幼稚園で泣いている私…
あれ、これって死ぬ前にみる、アレ、なんだっけ、、、
え〜っと、
「あっ!」そうそう、走馬灯ってやつ?
と思っていたら、
エキスポ70で太陽の塔を背に歓声が沸いている風景の中、
すごい紙吹雪が舞っているが、それは人が屋根裏から撒き散らしていた。
「へぇー、これ、人力だったの…?」と思いながらも、
彼女の意識は次々と歴史の断片へと飛んでいく。
戦艦大和が呉港から出航し、私は甲板で手を振っている。
そして魚雷と砲弾で沈んでいく・・・その光景と重なるように、
夏目漱石が頭に猫を乗せながら執筆してる部屋が現れたと思ったら、
折り重なるように坂本竜馬や中岡慎太郎が笑っている。
その横で西郷隆盛と長州藩の木戸孝允が何やら握手をしている・・・これって薩長同盟?
イギリス兵を薩摩藩士が殺しちゃって、アーネストサトウとか出てきて、
黒船が通り過ぎながら、秀頼が震えてる・・・、
そして大坂城が燃えている・・・これは夏の陣か!
次々現れる歴史の出来事の数々に私は少し戸惑った。
走馬灯にしては、遡りすぎじゃ無い??
私の知らない裏事情までちらほら見えてる・・・
目の前の景色は、
プラネタリウムの真ん中で映画を見ているかのようで、
私は内心少しワクワクした。
東軍と西軍で弓矢が宙を飛び回っている風景が現れ、
私はそのど真ん中に佇んていた。
これって、運動会の玉入れみたい・・・
私の頭のすぐ横を矢が通り過ぎる、
「ちょっと、危ない! 私死んじゃうじゃん!」とか思いながら、
厳島神社やら、幻の都、「福原京」などが通り過ぎていく。
そして、私の胸を矢が突き抜けた!!
痛っ!!!
ん、あれ?全然痛くない…!
次の瞬間。平安京の美しい街並みが現れ、平城京に移り変わり、
奈良の大仏が笑顔で微笑み、
一遍上人が念仏を唱え踊っている。
かと、思えば、前方後円墳が空を飛び、
あたり一面には刺青をした人たちで溢れていた。
黥面文身す・・・これって何?? 横ではシャーマンが銅鐸の前で飛び跳ねていた。
と、次の瞬間、私の前を卜骨が通り過ぎ、
大きな影が私を踏み潰そうとした。
私は間一髪で避け、何??と辺りを見渡したら、
ほぼ全裸の人たちが、マンモスを罠にかけて、倒しているところだった。
その風景の遥か向こうには何やら先が尖った三角形の光が見えた。
それは、どんどん私に近づき、突如私の目の前に大きな石が現れた。
なんとそれは、ピラミッドの大きな石だった!!なんでピラミッド!?
ピラミッドがどんどん解体していく様がタイムラプスのさらに高速バージョンの速さで、映し出されて、「ほー、ピラミッドってこうやって作られたの・・・・と思っていたら、私はそらを飛んでいた、どうやら翼竜になって空を飛ぶというか、滑走しているような感じだった。
そのまま当たりは真っ白になり、雪と氷に覆われ、次には真っ赤になり、灼熱の溶岩と大地が現れた・・・
その混乱の中で、どこからともなく子供のような声が聞こえてきた。
「お姉さーん、そろそろ良いですかー?」
振り向くと、そこには小さな白い体に大きな半透明の羽、そして頭に輪っかをつけた天使が立っていた。
その姿はどこか愛らしくもあり、不気味さを感じさせるものだった。
「アーカイブは終わりましたので、こちらにお越しください〜」
桃華は状況を把握しきれないまま、天使に導かれるままに進んだ。
「こちらへどうぞ。そこの椅子に座ってください。」
天使が指差した先には透明な椅子があった。桃華は言われるままに椅子に座る。
「では、今後の流れを説明しますね。」
天使はにこやかに、しかし淡々と説明を始めた。その内容はあまりにも現実離れしていて、桃華の頭はついていけなかった。
内容聞いてもチンプンカンプンだらけだ….
「ちょ、ちょっと待って..!」
「えっと、あの〜、説明していただいてるところすみませんが、
ここは何処ですか?死後の世界?」
疑問が次々と湧き上がり、桃華は天使に質問した。
天使は微笑みながら、
「あー、やっぱりお忘れですね。
では、もう少し説明しますね。
「ここはあなたの世界と我々が存在する世界の境目ですー♪」と、
天使みたいな子が楽しそうに答えました。
そしてテンション高め&嬉しそうに続けた。
「あなたの肉体は先ほどリセットされました〜」
「それは、あなたの世界の言葉でいうなら「死」と表現されています。」
「あなたの意識が肉体から離れ、今は精神(意識)だけの状態です〜」
やっぱりさっきのは走馬灯だったんだ。
「少し思い出しましたか?
あなたは今、あなたにアーカイブされている情報にアクセスしていたのです。」
「アーカイブって…そんなに記憶があるわけじゃないけど…」
天使はさらに説明を続け、
「では、もう少し簡単に説明しますね。
あなたが今ここに存在する事実。
肉体は存在しないんだけど、意識はここにある状態ね。
今、あなたは、何に輪廻転生するかを選ぶ状況にいます。」
「そして、あなたはアーカイブを確認し、どの世界に誰・何?として転生するかを決めることができます。」
へぇ〜、先ほど見た走馬灯の中から生き返る時代と場所と人を選ぶのか。
「違います。時代は選ぶことはできません。
あなたは既に1万回輪廻転生しているのですが、その記憶を忘れているようでしたので、先ほどもう一度見てもらいました。」
「もう1万回も生まれ変わってたの!!?私・・・」
「では、もう少し」
「あなたは1万回転生しましたので、次の領域を選択することが可能になりました。」
「ここに、3つの惑星があります。」青い惑星が3つ宙に浮いていた。
「どれかお一つお選びください〜」
「それか、今まで通り地球上にも転生は可能です〜」
ほんとに地球以外にも生命はいるんだ!
と言うか、新しい惑星の件は全く理解できてないし、
死んだこともまだ受け入れられない・・・
お母さん心配してるだろうなぁ・・・
でも、、地球以外にも生命がいるなんて…
桃華は驚きと戸惑いの中で、天使が示す選択肢を見つめた。
「この広い宇宙には生命が存在できる惑星が13個ありまして、その中から3つを選ぶことが可能です。あー、あと、あなたが今まで転生した世界(地球)ですが、そろそろ星の役目を終えて滅亡するんです。なので、新たな惑星に行った方が楽しいかもですよ〜」
「えっ…」
桃華は感傷に浸る時間もなく、次々と説明される現実に打ちのめされていた。
地球が滅亡する…そんなこと、信じられない。
しかし、1万回も転生しているという事実、そしてその中で新たな選択を迫られるという現実は、彼女にとって謎に包まれた冒険の始まりを予感させた。
「地球に戻って24時間後に死んだらまたここに戻るんですか?」
天使はにこやかに「完全に消滅するので、2度とここには戻れません〜」と答えた。
「仕方ない…お母さんごめんなさい…」
「彼氏にもごめんなさい・・・あっ。まだ彼氏いなかったんだ....」
桃華は地球を諦め、新たな惑星へと目を向けた。
「一番大きい惑星は地球の何倍あるんですか?」
「1.6倍ですー」
大は小を兼ねる!
頑張れば地球の滅亡を阻止できかもしれない…
「よし!その惑星にします。」
桃華は決意を固めた。地球を救うために新たな惑星へ行くしかない。
「それでいいですか?一応お伝えしておきますが、この3つの惑星、どれを選んでも同じです。
動物なのか植物なのか何に転生するか選べませんが、一番大きい惑星で、
ファイナルアンサーでOK〜?」
桃華は少し戸惑いながらも、
「はい!その一番大きな惑星に飛ばしてください!」と答えた。
その瞬間、彼女は眩い光に包まれ、
1400光年離れたケプラー-452bという惑星へと飛ばされた。