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第1話 「いいから、2番目の惑星で。」

俺の名前は浦島葵、

都心の喧騒に疲れ果てた30代半ばの広告代理店勤務のサラリーマンだ。

彼は仕事で成功を掴んだが、その裏には代償として失ったものが多くあった。

毎日を過ごす中で、彼は何度も自問自答を繰り返していた。

葵は、若い頃から人一倍努力してきた。地元の高知から東京に出てきて、何もないところから這い上がり、一流企業に勤めるようになった。だが、仕事に打ち込むうちに、いつの間にか自分自身を見失っていた。

心の中にぽっかりと空いた穴は、どれだけ成功を重ねても埋まることはなかった。


2025年7月

「これで本当に良かったのか?」


終電間際のオフィスで、彼は自分に問いかけた。

デスクには山積みの資料、点滅するパソコンのモニター。

書類を整理する手が止まり、彼はふと、自分が何をしているのか分からなくなった。

モニターに映る自分の顔は、やつれ切っていて、かつての自信に満ち溢れた姿とはかけ離れていた。


ある日、葵は突然、実家への帰省を決めた。

理由は特になかった。

ただ、無性に地元の空気が恋しくなったのだ。

高知県宿毛。

彼の心の奥底に眠っていた記憶が呼び起こされたのかもしれない。



「久しぶりだな、この空気…」



電車が最寄り駅に到着し、葵は荷物を手に取り降り立った。

駅から歩いて数分の距離にある実家は、昔と変わらない佇まいを見せていた。



表札には見慣れた「浦島」の文字。

その表札は花崗岩類閃長岩を使用している。

少し赤い粒々があり、とても綺麗な石だ。

綺麗に磨き上げられた表面には

明朝体で名前が掘られている。

家に帰った時はいつも、

その表札を手で触る癖があった。


玄関の扉を開けると、古びた木の香りが鼻をくすぐり、母親が台所から顔を出して彼を迎えてくれた。



「葵、帰ってきたのね!おかえりなさい。」


「ただいま、母さん。」



母親の温かい笑顔に、葵の心は少しずつ解きほぐされていった。


実家の冷蔵庫にはいつも、

カツオのたたきが

三分の一を占領している。

うちの家ではおやつだった。

いつ食べても格別にうまい!


俺はキンキンに冷えた

麦茶をコップに注ぎ

一気に飲み干した。


先にご先祖の墓参りを済ませるか。


子供の頃から毎年のように続けていたこの行事は、彼にとって特別な意味を持っていた。

都会での生活に追われるうちに忘れがちな、自分のルーツを確認する時間だった。


青く澄み渡った空には、うっすらと白い月が浮かんでいた。

静かな風が吹き抜ける中、彼は墓地へと続く道を歩いていた。

昔はよく祖父と一緒に歩いた道だが、今ではその記憶も遠いものとなっていた。


「えっと、うちの墓はどこだっけ…」


15年ぶりに訪れる墓地は、少し様子が変わっているように感じた。

彼は記憶を辿りながら、墓地の奥へと進んでいった。

道すがら目に入る墓石には、どれも同じような苗字が刻まれている。


「浦島…こっちもか。田舎の墓は同じ苗字ばかりだな。」


ようやく目的の墓を見つけた葵は、その前で手を合わせた。

祖父母の名前が刻まれた墓石には、歴史の重みが感じられた。

長い年月の中で風化しつつある文字を指でなぞりながら、彼はふと、自分がこの場所に繋がっていることを実感した。


「一一三八年、一月、浦○○…か。こんな古い時代の先祖がここに眠ってるんだな。」


葵は、自分の名前が刻まれるであろう未来を想像した。

人生の中で何を残し、どのように記憶されるのだろうか。

そんな思いが彼の胸に去来したが、すぐに頭の片隅に追いやられた。


「まあ、まだ先の話だよな…」

彼は軽く笑って、墓参りを済ませた後、ふと考えた。


「この墓石、普通の花崗岩かな?」


そんなことを考えながら、

舗装も何もされていない石を並べただけの階段を軽快に降りていた

(降りていたつもりだった・・・


が、突然あたりが一瞬真っ暗になり、、


俺は足を滑らせて階段から落ちてしまった。


石の角で頭を強打し、

ご先祖の墓の近くで帰らぬ人になってしまった。


死ぬ直前の記憶は墓参りとカツオのたたきって・・・

無性に残念な気持ちだ、

人の死とは実にあっけないものだ・・・


たたきでなくたたりかよ・・・!

(鰹のタタキ、一切れでも食べておけば.....



()()()



暗闇の中で、彼は鰹のタタキ以外にも様々な記憶を見た。

まるで走馬灯のように、過去の出来事が次々と脳裏に浮かんでくる。

会社の同僚と朝まで飲み明かし、笑い転げた夜。

大学の合格発表で喜ぶ両親の姿。

高校時代、生徒会長として朝礼で全校生徒に話していた自分。


「懐かしいな…」


それらの記憶は、まるで昨日のことのように鮮明だった。

家族との海水浴の記憶、小さな自分が高熱を出して母親があたふたしていた光景。

次々と浮かび上がる記憶は、どれも彼の心に深く刻まれていたものばかりだった。


だが、その記憶の中には、時折現実とはかけ離れた光景も混ざり込んでいた。

東京オリンピックの聖火が揺れる横を零戦が飛び去り、ドイツ兵が第九を演奏し、伊藤博文が演説をしている光景。龍馬が手を振り、江戸の街並みが流れ、織田信長が目の前に現れる。


「これ、何なんだ…?」


彼は混乱しながらも、その一つ一つの光景を見つめ続けた。


「実に興味深い!」


三好長慶が現れ

足利義満と永楽帝が手を握り、

足利尊氏と楠木正成が激しく激突し、

重源が材木を運ぶ。


永尊が町民(ほぼ女性)に囲まれ照れている、

遣唐使が荒海を渡り、

羅城門を潜り平安宮さらにその先に平城宮

時代はどんどんさかのぼっていく・・・

俺の左右で三国時代の名場面が再生され

卑弥呼と共に俺は金色の大地に立ち、

その横をイエスキリストが旅をしている。


激しい剣と剣のぶつかり合う音がしたとき、

コロッセオの真ん中で剣を持ち、大観衆の中で俺が叫んでいる?


「もう、日本じゃないじゃん…!」


葵は不思議な感覚に囚われながらも、その走馬灯に見入っていた。

時には棺の中で黄金のマスクをかぶり、時にはピラミッドから火焔式土器と共に転がり落ちる俺。

アンモナイトが空を飛び、ストロマトライトが大量に現れ、そしてハビタブルゾーンが浮かび上がる。


「これは…何だ...」


彼の心は混乱していたが、同時にどこか興味をそそられていた。

この走馬灯が見せる光景には、彼自身も知らなかった過去や未来が混ざり合っているかのようだった。


「お兄さーん、そろそろ良いですかー?」


突然、どこからか子供のような声が聞こえた。

葵はその声に反応し、視界が戻ると、広い真っ白な空間の真ん中に立っていた。

周囲には何もなく、ただ無限に広がる白い世界が広がっている。


「ここは…どこだ?」

彼が振り向くと、そこには小さな白い体に大きな半透明の羽をつけた天使が立っていた。

使は頭に輪っかを載せ、まるで絵に描いたような可愛らしい姿をしていた。

しかし、その目にはどこか深い知識と優しさが宿っていた。


「この場所で君を待っていたんだ。」


天使は、柔らかな声で話しかけてきた。

その声には、どこか懐かしさと安心感が混じっていた。

彼の存在が、葵にとってどこか親しみを感じさせるものだった。


葵は、天使が指差す透明な椅子に、戸惑いながらも腰を下ろした。

この場所は、現実とも夢ともつかない奇妙な空間だ。

全身がふわりと軽く、まるで重力が存在しないかのような感覚が広がっている。

目の前に立つ天使は、無邪気に微笑みながらも、その背後には何かしらの威厳と冷静さが漂っている。


「では、今後の流れを説明しますね。」


天使は、どこか楽しそうに説明を始めた。

しかし、その言葉はあまりにも突拍子もなく、葵の頭にうまく入ってこない。

現実感のない状況の中で、彼は自分が置かれている立場を理解するのに必死だった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ…質問いいか?」


天使は、その問いに答えるのを楽しんでいるかのように、軽い口調で返事をした。


「どうぞどうぞ〜、時間は無限にありますので〜」


葵の頭は疑問でいっぱいだった。

「ここはどこだ?俺は死んだのか?ここはあの世?さっき見た映像は何なんだ?これは夢か?お前は誰なんだ…?」

葵は、あまりにも多くの疑問に包まれていた。


「あー、やっぱりお忘れですね。思い出せないようなので、もう少し説明しますね。」

天使は楽しそうに答える。その軽やかな声とは裏腹に、彼の言葉には不気味な現実感があった。


「ここは、あなたの世界と黄泉の境目です。私たちが存在する世界です。」

天使の顔には、微笑が絶えない。しかし、その背後には何か計り知れない意図が隠されているように感じられる。


「あなたの肉体は先ほどリセットされました。それは、あなたの世界の言葉でいうと『死』ですね。」

「いま、あなたは意識が肉体から離れ、精神だけの状態です。」


葵の頭の中で、過去の映像がぐるぐると回り続けていた。

階段から滑り落ちる瞬間の記憶、その後に見た走馬灯のような映像、そしてこの奇妙な空間…。


「ってことは、俺は階段から落ちて、死んだのか?」


葵は自問自答しながら、目の前の天使をじっと見つめた。


「はい、いい勘してますね〜♪少し思い出しましたか〜?あなたは今、あなたにアーカイブされている情報にアクセスしていたのです。」


天使の言葉に、葵は驚きながらも少しずつ状況を把握し始めた。しかし、その情報はあまりにも膨大で、彼の脳は過負荷を感じていた。

「アーカイブ?思い出?でも、それが俺に何の関係があるんだ?俺が生まれる前の出来事や世界のことにアクセスしたって、どういうことなんだ…?」

天使は、葵の混乱に微笑みながら、「では、もう少し簡単に説明しますね」と言いながら、話を続けた。

「今、あなたがここに存在している事実。それは、肉体が存在しないけれど、意識がここにあるということです。そして、今あなたは、これから何に輪廻転生するかを選ぶ状況にいます。」

「先ほど見た走馬灯は、あなたの記憶です。あなたはすでに1万回輪廻転生していますが、その記憶を忘れているようですね。」


「え?1万回も…?俺はそんなに生まれ変わってきたのか?」


驚愕とともに、葵はこれまでの人生の断片が頭の中で渦巻いた。しかし、その記憶のすべてが、1つの線として繋がることはなかった。


天使は、そんな葵を見つめながら、

「そうです。あなたは1万回も転生していますが、それを忘れていましたね。

さて、今は新たな領域を選択する時が来ました」と言った。


天使は空中に手をかざすと、3つの青い惑星が宙に浮かび上がった。


「ここに、3つの惑星があります。一番大きいのがケプラー452b、二番目がケプラー62f、地球とほぼ同じサイズのケプラー186fになります。どれかお一つお選びください。もちろん、地球上にも転生できますよ〜」


葵はその光景に唖然としながらも、心の中で葛藤していた。


「新しい惑星?地球以外にも生命が存在する場所があるのか?そんな話、冗談だろ?それに1万回も転生してきたとか…」


天使はそんな葵の反応を楽しむかのように、

「そうですね〜。この広い宇宙には生命が存在できる惑星が13個ありまして、今回はケプラー系から3惑星を厳選しました」と続けた。


さらに天使は、少し楽しげな声で続けた。「あ、そうそう、あなたが今まで転生してきた世界、地球なんですが、残念ながら滅亡まであと24時間です。」


「…」


葵の思考は停止した。24時間後に地球が滅亡するなんて、あまりに現実離れした話だ。


「まじか…あと24時間で地球が滅亡するなんて、どうしようもないじゃないか?それに生まれ変わったとしても赤ん坊じゃ、何もできない…」


葵は混乱しながらも、どうにかして状況を打破できないかと考えた。

「転生で過去に戻れれば、科学者や技術者として何かできるかもしれない。

だって、俺は1万回も転生してきたんだ。まだトライする価値があるんじゃないか?」


天使は、少し真剣な表情を見せながらも、

「それは無理ですね〜。宇宙全体のバランスに影響を与えるような事象や、重大なパラドックスが起こるとルール違反になりますから。過去に転生することは認められていません」と言い切った。


「そろそろ地球は、このまま終焉を迎えてもらって、再起動の時期にきているんです」と、天使はあっけらかんとした口調で続けた。


「再起動って、パソコンじゃあるまいし…そんな軽い表現で言われても…しかも、ルールなんて聞いてないぞ!」


天使は少し不機嫌になったような気がしたが、それでも微笑を浮かべたまま「いいんですよ、地球に転生しても。ただ、初めにルールを説明しようとしたのを止めたのは、あなたですからね」と言った。


葵はしばらくの間、今までの話を頭の中でじっくりと整理した。


「俺がここに存在している確率は限りなくゼロに近いんだ…。

地球に戻っても24時間じゃ何もできないだろう。

なら、違う惑星に行ってみて、可能性を探るのもありかもしれない。

どちらにせよ24時間しか猶予がないんだし…」


葵は、天使に向かって一つの質問を投げかけた。


「一つだけ教えてくれないか?俺が地球に転生したとして、24時間後に地球が滅亡したら、またここに戻れるのか?」


天使は、楽しげな声で答えた。


「それは無理ですね〜。分かりやすく言えば、地獄に落ちちゃいますね。

地獄では、永遠に輪廻を繰り返すことになり、二度と転生はできなくなります〜」


天使の説明は軽やかで楽しそうだったが、葵の心には重くのしかかるものがあった。


「それって…人生詰んでるじゃないか…」


天使は微笑みを浮かべたまま「はい、そうですねぇ〜」と同意した。


葵は心の中で地球を諦めた。

しかし、正確には「一旦」諦めたに過ぎなかった。

彼は賭けに出ることにした。


「俺の存在自体が奇跡っていうなら、今から起こることも奇跡につながるかもしれない!地球の滅亡なんてさせない!」

「一番大きい惑星は迷子になりそうな気がするな…ん…」

「二番目に大きい惑星にする。」


天使は、少し意外そうな顔をしながらも

「それでいいですか?一応お伝えしておきますが、この3つの惑星、どれを選んでも同じなんです。何に転生するか、ほぼ選べないんです。ということで、二番目の惑星【ケプラー62f】で、ファイナルアンサーでOK〜?」と、冗談を言うように尋ねた。


葵はその態度に少し苛立ちながらも、

「いいから、二番目のケプラー62fで」ときっぱりと答えた。






天使AとBが後ろで会話をしているのが耳に入った。

「彼、地球滅亡って言ったら焦ってたね〜」

「だね〜。でも、あのくらい言わないと目覚めないからね〜」



葵はその言葉に、わずかな不安を感じながらも、新たな運命を選択したのだった。

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