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第七話 お前と一緒にするなよ(悪役令息?ティル視点)

第七話、公爵家長男ティル視点です。


自称ヒロインの末路も決まります。


それではお楽しみください。


誤字脱字報告、ありがとうございました。



「あぁもうっ!いつまでこんなとこに入れられなきゃいけないのよぉ!サッサと出しなさいよぉ~!」


頭が花畑なイカレ女の声が響く。ピーピーギャーギャーうるさい女だ。ドレスはヨレヨレ、髪はぐちゃぐちゃ、化粧は()げて見るも無残だ。母上と同じ顔のはずなのに、どうしてこうも違うのか?


「あぁんもうっ!うっさいワねぇ!室外に音は漏れないケド、一緒に室内に居るワタシたちにはいい迷惑よ!ちょっとは静かにしなさいよぉ?」


「うっさい!筋肉変態ダルマ!あたしの体見たくせに!このドスケベオカマっ!」


「んまぁ!なんて口の悪いコ!診察だって言ったじゃない。ワタシだってアンタみたいな阿婆擦(あばず)れビッチの股なんか見たくもなかったワ。」


ここは王宮内医務局の特別病室。問題のある患者が入る鉄格子付きの病室だ。自称公爵令嬢の平民ネルーダは、こともあろうに第一王子の子を身籠ったと馬鹿でかい声で宣言したために、その真偽を確かめるべくここに連れてこられた。


結果は妊娠などしていなかったが、それを調べたのがこの目の前にいる筋肉ダル…こほんっ、筋肉隆々(マッチョ)な先生。王宮医局長のボウナタニアン先生(通称ボウ先生)だ。


「ボウ先生、こんなイカレ女と口利くだけ無駄ってもんですよ。」


「ティル!お姉ちゃんを助けて!ここから出してっ!王子と結婚できないなら公爵家で我慢するから連れて帰ってよぉ!」


「うるせぇ、気安く俺に声かけんじゃね~よ。お前と半分でも血が繋がっているのかと思うとゾッとするわ。」


「公爵家で我慢ねぇ、よくもまぁそんなセリフが吐けたものだワ。あれだけの事しでかして、まだ公爵家に戻れると思っているなんて。この娘の頭、一体どうなってんのかしら?」


「だからイカレ女だって言ってんですよ。自分が物語のヒロインだと思っているんじゃね~の?いや、乙女ゲームの方か?」


「なんてはた迷惑な思考なの。()()()が皆こんなのって思われたらイヤだワ~。」


牢の中のネルーダが驚愕で目を見開く。


「なっ、何?アンタたち転生者なの?じゃあ、あたしと一緒、仲間じゃない!助けてよぉ!」


ガンッ!


「お前と一緒だと?冗談じゃねぇ!馬鹿も大概にしろよっ!」


怒りに任せて目の前の鉄格子を蹴り上げた。


「あらあらティルちゃん、暴力はダメよぉ~。王宮内の鉄格子はただでさえ頑丈なんだから。足、痛めちゃうワよ。で、この娘、どういう処置になってんの?」


「身元保証人は母上です。処罰はうちですることになりました。こいつの処分は俺に一任されてます。」


「あら、テス(父上の愛称)ってば大胆♡公爵令息ティルの腕の見せ所ね♡」


「父上は母上を慰めるっていう大事な役目がありますから。ゴミに関わっている暇はないんですよ。」


「トゥイーは真面目だもの。責任感じているわよね~。まぁ、テスが逃しはしないでしょうけど♡はい、イライラしたときは甘いものがいいわよ♡」


ボウ先生が俺の前にホットチョコレートとビスケットを置いた。子ども扱いすんなよって、13歳はまだ子どもか。自分にもよこせというゴミを無視してホッチョコをすする。美味いな…。


「表向き、コイツは修道院に入れたってことにします。母上への説明にはおあつらえ向きでしょう。」


「い、嫌よ!修道院になんか行きたくないっ!ママに会わせて!公爵家にいた方がマシだわっ!」


「あらあら()()()って言ったじゃない?頭の悪いコねぇ。」


「えっ?」


「お前はここでボウ先生の助手として治験者になるんだよ。それが今回の騒動に対する責任だ。望み通り王宮で暮らせるんだ、よかったじゃないか。感謝して国の為に励めよ。」


「うふふふふ♡活きのいい治験者って貴重なのよねぇ♡試してみたいお薬()がい~っぱいあるのよぉ♡美味しいお食事に混ぜ混ぜしてア・ゲ・ル♡死んだって大丈夫♡皮膚、内臓、骨に至るまで検体としてフル活用するから安心してね♡」


「い、い、いやぁぁぁ~~!そんなの修道院の方がマシじゃないのよぉ!修道院に行く!修道院でいい!ここから出してっ!死にたくないっ、ママぁ~助けて~~!!」


ここに来てようやく自分の立場を自覚したのか叫びまくるゴミ。今更遅せ~よ。


「あっそうだ、ボウ先生コイツの顔変えられる?母上と似ているだけにムカつくんだけど?」


「ティルは髪の色だけで後はテス似だもんね♡色を変えられる薬はあるわよ。造りを変化させるものもね。持続時間計っていないものもあるし、いろいろ試しちゃおうか?楽しみ~♡」


泣きわめくゴミを無視してボウ先生の研究室を出る。一仕事終えてホッとした。






俺は異世界転生者だ。

生まれた時から前世の記憶がある。そしてここがある恋愛小説の世界だということも知っている。


小説の中では確かにあのゴミはヒロイン役でカロ姉様は悪役令嬢役だった。ただこの小説は、悪役令嬢に仕立てられた令嬢が逆ざまぁする逆転物だったんだ。


妻の命を奪うように生まれてきたカロ姉様を父上は愛さない。後に迎えた後妻の連れ子と後妻との間に生まれた俺のみを可愛がる父上。継母と連れ子、異母弟に虐げられる日々。


使用人も助けてはくれず、婚約者の第一王子にも助けるどころか冷たくあしらわれ、挙句その地位を義理の姉に奪われた。


いわれのない罪を着せられ追放刑を言い渡されたカロ姉様を救ってくれたのが王弟子息。カロ姉様の無実を証明し、第一王子たちを断罪。王太子の地位を確立した王弟子息はカロ姉様と婚約・結婚し、未来の王と王妃として幸せに暮らす、というストーリーだ。


カロ姉様をいじめた母上と俺とゴミは終身強制労働、第一王子は王族の身分剝奪、父上は男爵までその地位を落とすことになる。



はぁ?いじめ?俺が?ベビーベッドの柵の隙間から手を握って「はじめまして。わたしがおねえちゃんよ。」とニッコリ笑いかけてくれたカロ姉様。


控えめに言って天使やんけ!こんな国民的美少女をいじめるなんて冗談じゃない!って思っていたが、この世界、小説そっくりで登場人物も同じなのに何か違う?


先ず先妻のアマラル様の死因がカロ姉様を出産したからではなく事故だということ。母上は後妻だけど、カロ姉様の乳母で先妻のアマラル様とも関係が良好であったこと。何より後妻に入ることをカロ姉様自身が望んだということ。


ヒロイン役の連れ子である俺の異父姉もいなかった。見た目は子ども頭脳は大人な俺の調査で母上には死産した子がいたということが分かった。


「ふぅ~ん?小説の世界っていうより、その小説に似たまた別の世界ってことなんじゃない?」


お茶を飲みながらボウ先生の持論を聞く。父上と茶飲み友達のボウ先生は公爵家(うち)の敷居をよくまたぐ。気を付けていたつもりではあったが、子どもらしからぬちょっとした行動や発言で、転生者とあっさりばれてしまった。


「テスからもしかしたらワタシと同じかもって聞いていたのよねぇ♡」実の父親の目はごまかせなかったようだ。この世界では、転生者の存在は認知されている。と言っても王族とごく一部の貴族だけに過ぎないが。


異界の知識は世界に影響を及ぼす。いい意味でも悪い意味でも。ボウ先生は父上という後ろ盾を得て今の地位を確立した。知識を提供することで身の安全を保障してもらっている。囲われているとも言えなくもないが、好きなだけ研究ができる今の環境に満足しているという。


「似た世界って言うけど、地名も人名も同じってあり得る?」


「ワタシたちがこの世界に転生しているんだったら、この世界の住人が地球に転生するのもアリだと思わない?そんでもって前世を知っていたりしたら、その世界を舞台に小説に書いたとしても不思議はないでしょ?パラレルワールドって線もあるわねぇ。」


「う~ん。確かに俺が知ってる小説の内容とは大分違うからなぁ…。特に母上、趣味が薪割りってだけでめっちゃ常識人だし?」


「トゥイーの場合は親や最初の夫のクズさを反面教師にしたのね。大体テスだって妻が亡くなった原因を子どもになすりつけるような男じゃないわよぉ。気にしたら負けよ?それとも小説通りにしたいわけ?」


「まさか!せっかく剣と魔法のファンタジー世界に転生できたんだ。この世界を楽しみたいよ。常識の範囲内で。」


「ふふっ、それを聞いて安心したわ♡」


後で父上に聞いたが、俺が悪い影響を与える転生者だったら、息子であっても処分対象だったという。「そうなる前に手は尽くすつもりだけどね♡」とウインク付きで言われた。あっぶね~~。




公爵令息としての平穏な生活が壊されたのは、カロ姉様が15歳、俺が10歳の時だった。母上の娘という女が公爵家にやってきたのだ。


ボウ先生の魔道具判定で実の娘と結果が出た。女は喜んでいたが、死産したと思っていた子どもが実は生きていたと知った母上は、嬉しいよりも複雑な顔をしていた。


女が転生者だということはすぐに分かった。小説のことは知らないみたいだけど、自分をヒロインだと思い込んでる頭が花畑なヤバい女だった。


実の娘だとわかっても母上の態度は冷静だった。自分の娘だと認知はするが、公爵家には入れず、自立に必要な教育を施すという。その結果次第では公爵家から出すつもりだとも…。


あんな女を姉上と呼びたくなかったから、母上の決断を尊敬できるけど…。


「なぁに?トゥイーの決断にケチ付ける気?」


「いや、公爵夫人としては真っ当だと思うよ…。」


ボウ先生の研究室で出されたジュースを飲みながら考える。


「…あのね、ある日ハーレム作っている雄ライオンに若い雄ライオンが挑み、若い雄ライオンが勝利しました。」


「えっ?何の話?」


「黙って聞きなさい。新しいハーレムの主になった若い雄ライオンは、前ハーレムの主との間にできた仔ライオンを嚙み殺します。母親である雌ライオンはそれを動かずジッと見ています。全ての仔ライオンを葬った若い雄ライオンは、ハーレムの雌ライオンと交尾をして自分の仔を生み育てさせましたとさ。」


「…………。」


「人と動物は違うわよ。でもね、死んだと折り合い付けないと前に進めなかったと思うわ。ワタシは貴方よりもトゥイーの過去を知っている。気分のいい話じゃないワ。貴方が生まれた時、トゥイーはとても喜んでいた。ちゃんと産んであげられたって。」


「いや、別に母上を非難しているわけじゃ…ただ、実の娘をそう簡単に切り捨てるのはって…。」


「産んだだけでは親にはなれないワよ?生みの親より育ての親って言葉があるでしょ?育てて初めて親っていえるの。あの娘はトゥイーから見れば墓場から出てきたゾンビみたいのものよ?それでも将来の為の道をちゃんと用意している。トゥイーは冷たい母親じゃないワよ?安心して♡」


亀の甲より年の功というか…ボウ先生には俺の不安を全部見透かされていた。あんな女、どうなろうと知ったこっちゃないが、切り捨てたときに母上が非情だと非難されるのが嫌なんだ。


「そんなに心配することないと思うケド?あの娘ってさぁ、トゥイーが公爵夫人でなかったら名乗り出なかったんじゃない?顔合わせの場にはワタシもいたケド、あの娘、トゥイーが身に着けていた宝石に釘付けだったワよ?」


「確かに。その後、宝石取ったメイド服姿の母上には全く気が付かなかったんだぜ、あの女。」


「んまぁ!金目当て確定じゃない?その内、カロの婚約者にも手を出したりして♡」


「第一王子をか?あの女癖の悪い王子引き取ってくれるなら願ったり叶ったりだけど、曲がりなりにも王族だぜ?そこまで無謀じゃないだろ?」





あのゴミは俺の斜め上を行った。(もう女呼ばわりもする価値もねぇ)

本当に王子を引っ掛けるとは。それに引っ掛かる王子も王子だ。あの色ボケが!やっぱりカロ姉様は王子にはもったいなさすぎだ。


ちょうどいい。あのゴミを利用しよう。あのゴミは、母上の温情を踏みにじりやがった。遠慮はいらねぇ。と言っても、ちょっと逢瀬がしやすいようにお膳立てしてやっただけだけどな。


あの大夜会のやらかしの後、父上からゴミの始末を頼まれた。


「私はトゥイーに捨てられないようにするだけで精一杯なんでね♡」


きっと母上に縋りついて「捨てないで~」とか言うんだろうな、この男は。母上は父上のことを、ちょっと頼りなさげな所もあるけど、優しくて情に厚い御方よ♡なんて言っていたけど…それ、母上限定だからね。


どう振る舞えば母上が公爵家に留まるかわかっていての行動だから。カロ姉様の婚約もはなっから成立させる気0だから。俺がコソコソしていたことも全部筒抜け。あ~あ。


「あぁ、そうだ。ボウが活きのいい治験者はいくらいても構わないって言ってたよ♡」


ヒョイとドアから顔だけ出してウインク一つ決めて出ていった。くっそ~、出来レースじゃね~か!いつか必ずあのオッサン超えてやるからなっ!










ティルはカロリスやカトゥイーヤの前では猫かぶりで一人称が僕ですが、素の一人称は俺です。


ボウナタニアン先生のセリフにカタカナが混じっているのはオネェ演出です。



お読みいただきありがとうございました。

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