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第六話 私の人生、クソだと思ってた③(母カトゥイーヤ視点)

第六話。

カトゥイーヤ視点、終わりです。


次は誰視点にしようかな?


それではお楽しみください。




公爵夫人となった私は、程なくして妊娠が判明。長男となるティルが生まれた。死産した女に子は望めないと思っていただけに驚いた。皆、喜んでくれたが、それに水を差したのが王家だった。公爵家に後継である長男が生まれたので、カロを第一王子のシェール殿下の婚約者によこせと言ってきたのだ。


私としてはカロが婿を取って公爵家を継いで欲しかったのだが、王家の打診を断ることは出来なかった。ちっ。第一王子の母である王妃様は他国の姫だった御方。身分は高貴だが国内に対しての力はない。


だからこそカロを王子妃に迎えて地位を盤石にしたいのだろう。正直、気乗りしない。お相手の第一王子は性格に難ありとのもっぱらの噂だからだ。


次期王妃の椅子を用意されてもカロが幸せにならないなら意味がない。カロは大丈夫だと言っていたが、カロを不幸にする結婚など例え相手が王家でも白紙撤回してもらわないと。旦那様と考えていた矢先にあの馬鹿王子がやらかしたのだ。


それも、あのような瑕疵のつくやり方で。しかも断罪には私の娘のネルーダが関わっていた。あの問題だらけの娘はいつか何かとんでもないことをしでかすと思っていたが、第一王子(馬鹿)とタッグを組むとは…。





ネルーダ…私が産んだ娘。

死産だと伝えられていた子。

生きていたと伝えられても実感が湧かなかった。あの子の存在を知ったのは、慰問で訪れた孤児院だった…。


「ポー院長先生、お久しぶりです。」


「カトゥイーヤ公爵夫人、わざわざご足労いただきありがとうございます。」


「私と先輩の仲なんですから、人の目がないところではトゥイーと呼んでくださいな、ポー先輩。」


「まぁ、恐れ多いけど話が進まないからそうさせてもらうわ。」


ポー先輩は私がアマラル様と出会った治療院の看護師で、私が運び込まれた時、担当だった人だ。私が治療院で働く際、私のショボい治癒魔法を効果的に使えるように指導もしてくださった。


公爵家が支援している治療院&孤児院で孤児院をまとめる院長先生が高齢で引き継ぎを探していると聞いて、ポー先輩をヘッドハンティングしたのだ。


「聞きにくいことを聞くんだけど、トゥイー貴女子どもを産んだわよね?」


「えっ?ティル(長男)のこと?」


「いいえ、ご長男ではなくてね、その…カロリスお嬢様の同じ年に…貴女が治療院に運ばれたとき、出産をした形跡があったから…。」


「あぁ、そのこと。確かに産んだけど、死産だったのよ。」


「本当?その、確認はした?生きていたってことはない?」


ポー先輩方には婚家から追い出されて行く当てがないことは伝えていたが、詳細は語っていなかった。先輩方もボロボロな状態の私を見て、深くは聞いてこなかったのだ。


隠すこともないので、今までの私の状況をポー先輩に語った。確かに赤子の遺体を確認したわけではないが、旦那様が探ってくれた子爵家にはそれらしい子はいなかった。


「実はね…最近この孤児院に来た子で貴女ととても似ている女の子がいるの。年齢も貴女が出産した頃と一致する娘が…。」


「似ているだけの他人はいくらでもいるわ。ポー先輩が私に話すということは何か問題があったんですね?」


ポー先輩も似ている子だなという認識でしかなかった。自分は貴族で公爵令嬢だ、などと言わなければ。


初めはどこかしらで私のことを知った娘の妄言だと思ったようだが、ここに来る前の孤児院でも問題行動を起こしていたと聞いて不安になったのだという。


「その手の詐欺はよくある話よ。でも、まだ子どもの内から…しかも、ちょっと性格に難ありの娘なのよ…。」


「難ありって?どういう感じ?」


「言っちゃ悪いけど、男を手玉にとるのが上手いというか…。」


私に似た男癖の悪い娘。なるほど、これは問題ね。


「貴女に接触出来ないようにはできても、外で何を言うかわからないわ。」


「真偽はともかく、私に似ているってだけで格好のネタにはなるわね。その子をあまり外に出さないようにしてもらえますか?公爵様と相談して対策を講じます。」


「分かったわ。私としてもあまり外には出したくないの。孤児院の信用にも関わるから。」


育児の達人ポー先輩が匙を投げるなんて相当な娘のようだ。早急に手を打たないと私事で公爵家の迷惑になってはいけないと思っていたのに、懇意にしているドレスショップで出くわすなんて…。


大勢の人の目がある場所で母親呼びされてしまった。咄嗟に扇で顔を隠して馬車に乗ったが、確かにポー先輩が確認するのも頷けるぐらい似ている。


旦那様に相談すると、とりあえず真偽を確かめようということになり、血液を使って親子関係を判定できる魔道具があるから取り寄せるという。そんな便利な魔道具があるのかと感心していたら、件のボウナタニアン先生が製作したものらしい。何でもありね、あの先生。


王族専属医師で医局長でもある多忙なボウナタニアン先生自ら判定して貰った結果は、ネルーダは私の娘で間違いないということだった。たぶんそうだろうとは思ってはいた。私も腹をくくらなくては。


ネルーダが私の娘だったことを想定してある程度の取り決めをしておいた。私の娘として認知をして公爵家で引き取るが、公爵家の一員とはしないというのもその一つだ。


ネルーダの背後に黒い組織や貴族もいなかったし旦那様は迎え入れてもいいとおっしゃったが、今まで平民として生きてきた者が貴族それも最高位の公爵家に入るのはかなり無理がある。それに素行も問題だ。


私は、ネルーダが公爵家に迎え入れるにふさわしいかテストをし、その結果によっては旦那様の厚意に甘えさせてもらおうかと思っていた。


結果はさんざんだった…。


ひとまずネルーダ用にあつらえた部屋に案内をした。孤児院の部屋とは比べ物にならない豪華さに初めは喜んでいたが、クローゼットの中にドレスやアクセサリーがないことに不満を漏らしていた。


用意したワンピース類は私が男爵令嬢時代のものよりもずっと上等な物だというのに。貴族と言えど夜会で着用するようなドレスを普段着になどしない。そんなことも分からないらしい。


お茶請けの菓子が足りないと文句を言う。侍女だけだと随分態度が横柄になった。侍女と言えど公爵家の使用人となると貴族家出身の者が大半だ。少なくともこの部屋にいる者はネルーダよりもずっと身分が上なのに…。


自分が殿上人にでもなったかのような振る舞いだ。あぁ、これはないわ…。私と親子関係が証明されたことで勘違いしたのだろう。さんざん説明したのに聞いてなかったのだろうか?ほんっと頭が痛い…。


私はこの結果を夜中のカロを省いた家族会議で披露した。


「これは想像以上だな…。」


「本当に気が付いていないの?えっ?真っ正面にいるよね、これ?」


ネルーダの観察用に小型の映像記録魔道具を客室に設置していた。今、その映像を流しているのだが、その映像の中には私も映っているのだ。公爵夫人としてではなく茶髪のカツラを被って侍女服に身を包んた一使用人として。


「前髪を多めに垂らして瞳を見えにくくはしたけど、色も変えていないし声も作ってはいないわ。でも、あの娘は気が付かなかった。応接室で見ていたのは私の顔ではなく私が身に着けていた宝石なのでしょう。」


あの娘と会う時、私はあえてシンプルなドレスシャツとスカートを選んだ。それとは反対にアクセサリーは一番石の大きなダイヤの指輪に家宝のエメラルドの首飾りを身に着けていたのだ。


あの娘の視線が宝石にしか向いていないと分かった時から私の方針は決まっていたが、家族を分かりやすく説得するために一芝居打ったのだ。


「これから必要な教育を受けさせますが、孤児院のポー院長先生も難色を示す娘です。結果次第ではここに置いてはおけません。実の娘を切り捨てる非情な母親と言われようともです。醜聞になるようなら私も切り捨ててくださって構いません。」


「まさか、離縁などしないよ。有り得ない。なぁティルもそう思うだろう?」


「もちろん、僕は貴族夫人として真っ当な判断ができる母上を尊敬するよ。母上は非情なんかじゃないよ。僕だって母上には悪いけど、血が繋がっていてもアレが姉上なんて思いたくない。僕の姉上はカロリス姉様ただ一人だよ。」


良かった…。ティルは幼くとも公爵家の人間として正しく育っている。私がいなくても息子は大丈夫。旦那様やティルはああ言ってくれたけど、何かやらかしたらあの娘と一緒に修道院にでも入ろう…。






公爵家の私室でこれからのことを考える。


ネルーダはまだ王宮内の牢に入っているらしい。平民に過ぎないネルーダが王家を謀った発言をしたのだ。厳しい処分は免れない。正直、難あり王子とカロの婚姻がなくなったのは良かったけど、こんな形での婚約破棄は望んではいなかった。


はぁ…どうしてあんな娘に育ったのだろう?赤子から育てていればあんな風にはならなかったのだろうか?


あの顔合わせの日、あの娘の中に女を見た。カロと同い年の15歳の少女にだ。会えて嬉しいと言いながら私の身に着けているエメラルドに釘付けのネルーダは、男爵家が傾きかけても贅沢がやめられなかった母そっくりだった。


こんなことで血のつながりを感じるなんて皮肉だわ。あんな娘でも実の娘なら私も責任を負わなければ…でも、どうやって?私も公爵家(ここ)を出た方がいい?



「トゥイー、ダメだよ。私たち家族を捨てないで。」


いつの間に部屋に入ってきたのか?私の前に旦那様が跪いて手を握ってくる。あぁダメよ、カロのお目目ウルウル攻撃にも弱いけど、旦那様のコレにも弱いのよ~。


チュッチュッとリップ音を響かせながら指にキスする旦那様。旦那様がめちゃくちゃ毛並みのいいゴールデンレトリバーに見える~。


「トゥイー、ちゃんと私を見て。ねぇトゥイー、トゥイーはルゥ(アマラル様の愛称)とも約束したでしょ?カロを守るって。あれは噓だった?」


「そんなっ!噓じゃありませんっ!ただ私は公爵家の迷惑になりたくないだけでっ!」


「出ていったらカロを守ることなんてできないよ?」


「旦那様やティルがいるじゃありませんか…。」


「君がいなくなったら私は妻一人守れない弱腰公爵って呼ばれるかもね。また引きこもりたくなるかもしれないよ?」


「ダメですよっ!そんなことしちゃっ!カロやティルがいるんですからっ!」


「愛する妻を二度も失ったら立ち直れない。お願い、私を選んで。傍にいてトゥイー。私を捨てないで…。」


「旦那様…。」







「で、絆された結果が()()ってわけね…。」


苦笑しながら私のお腹を指すポー先輩。今、私のお腹には新しい命が宿っている。


「うぅ、言わないでぇ~、あんな雨の日の捨てられて、しょげかえっている犬のような旦那様を見たら、もぅ、もぅ公爵家から出るなんて言えないわよぉ~~~。」


「捨てられた犬ねぇ…あ~あ、まんまと公爵様の術中に嵌っちゃって、可愛いこと♡(←小声)」


「えっ?何か言った?ポー先輩?」


「い~え、何でもないわ。公爵家の大事な御子がいるんなら、もう家を出るなんて馬鹿なコト考えないでしょうね~?」


「ええ、ネルーダは修道院に入れたって。どこの修道院かは聞いていないわ…。」


「やっぱり気になる?実の娘だから。娘として実感湧かないって言っていなかった?」


沈んだ私の声を汲み取ってポー先輩が尋ねてくる。


「気になるっていうか、出産した時、やっぱりって諦めないでちゃんと確認したら私の手で育てられたかもって思って。そうしたらあそこまでヒドイ娘にはならなかったんじゃないかなっていう後悔かな?」


「やっぱりってどういうこと?」


「出産予定日前に胎動を感じなくなったのよ。不安でたまらない中での出産だった。死産だって、言われてやっぱりねって納得しちゃったの。」


「そうだったの…。でもね、孤児だから無作法っていうのは偏見よ。」


ポー先輩曰く、同じ環境に居た他の孤児たちはあそこまで無作法な子はいないという。


「特にこの孤児院は公爵家の支援のおかげで教育も行き届いているわ。子どもたちは自分の立場を理解して身に着けるべき作法を習得しているの。あの娘のアレは持って生まれた性格だと思うわよ?トゥイーがそこまで気に病む必要ないと思うけど?」


「でも、どんなに取り繕ったって娘を手放したことに変わりないし。借金のカタに嫁がされた親を恨んだけど、やっていることは私も同じだなって思って…。」


「同じじゃないわよ。トゥイーは公爵家の家族を守っているし、娘と分かったあの娘にだってちゃんと道を示してあげたじゃない。自分の立場を理解していたらちゃんと幸せになれたのに、分不相応な夢を見てトゥイーの手を振り払ったのはあの娘よ?」


「本当よね。貧乏男爵令嬢だった私でさえそんな夢物語を本気にしたことなんてないのにね…。」


「ハイハイ、しみったれた話はもうお終い。今は新しい家族に集中しなさいな。あらっ、いいタイミングでお迎えが来たわ。」


バンッと扉が勢い良く開いて入ってきたのは公爵である旦那様。


「トゥイー!大丈夫?!」


「えっ?えっ?旦那様、どうして孤児院(ここ)に?」


「ポー院長先生から連絡もらって。トゥイーが一大事だってっ!」


「ポー先輩っ!」


「一大事でしょ?公爵夫人のご懐妊なんだから。」


「えっ?ご懐妊?トゥイーが?えっ?赤ちゃんできたの?やったぁ!」


「あぁ!妊娠初期なんだから抱っこクルクルはダメですよっ!公爵様!」


勢い余って抱き上げられた私を見て慌ててポー先輩が旦那様に注意する。


「ははっ、ごめんごめん。嬉しすぎて♡我が家はますます賑やかになるね♡元気な子を産んでね、トゥイー♡」


ウットリとした顔で私のお腹をさする旦那様。やっぱり旦那様ってめちゃくちゃ毛並みのいいゴールデンレトリバーに見えるわ…。


「もちろん。私も新しい家族に早く会いたいです♡」


ネルーダが修道院にいるのは自業自得と割り切るしかなさそうね。神の家で奉仕して改心出来たら、いつかまた会えることもあるでしょう。このお腹の子と公爵家を守ることで責任を果たすとしましょう。


毒親のせいでクソだと思っていた人生だけど、捨てたものでもなかったわ。だって、私今、とっても幸せだもの…。


(でもしばらく薪割りができないのは残念ねぇ~)









ーおまけー


ポー「カウンセリングは順調ですよ、公爵様。」


公爵「これからもよろしくね。トゥイーは君を信頼しているから。」


ポー「心配なさらずとも奥様が大切に思っているのは公爵家の皆さんですよ?」


公爵「分かっているけどね~。ほら、トゥイーは責任感が強いから。」


ポー「だからって妊娠までさせて繋ぎ止めなくても。」


公爵「おや、子どもは授かりものだよ♡」


ポー「今回はそういうことにしておきます。経産婦であっても高齢出産は体の負担になるんですから、ほどほどに。」


公爵「肝に銘じるよ。ところで孤児院で何か困りごとはないかな?」


ポー「そうですねぇ、魔力値が高い有望な子が何人かいるんですよ。そっち方面で伸ばしてあげたいのでお力添えいただきたいですわ。」


公爵「お安い御用だよ。じゃあ、またね。」


帰っていく公爵を見て思う。

トゥイー、あなた公爵様のことを捨てられないって言ってたけど、捨てさせてもらえないのよ。アレはゴールデンレトリバーなんかじゃなくてフェンリルなんだから。多分一生知りえないだろうけど…。


まぁ、噓も方便、知らぬが仏、でしょうね~。



お読みいただきありがとうございました。




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[一言] 愛する人や家族に向ける顔と領民に向ける顔犯罪者に向ける顔が違うのは当時(´ー`*)ウンウン
[一言] ゴールデンレトリバー舐めちゃあかん…あの犬捨てられない技にめっちゃ長けてるからな…ボディがデカいからそれ使ってパワーで押してくるからな…!! それにしても公爵様強い女子にビシバシされるカイカ…
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