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第四話 私の人生、クソだと思ってた①(母カトゥイーヤ視点)

母親、カトゥイーヤ視点のお話です。

長くなったので数話に分けます。


それではお楽しみください。



貴族家に生まれたからには希望通りの結婚なんて有り得ない。そう教育されて育ってきた。でも、それって真っ当な貴族家の話だと思うのよ。


使用人を雇い入れる金もない。途中から家庭教師や学園に通う金もなくなったので勉強は独学。貴族の立ち振る舞いやマナーは付け焼き刃程度でしかない。ハッキリ言って裕福な平民の方がまだマシかもしれない。


娘に碌な教育も施さず使用人のようにこき使っておきながら、貴族の責務を果たせなんて一体どの口が言う?領地経営も満足にできない父親、身分以上の贅沢を欲する母親、親のいいなりの気弱な嫡男の兄ももううんざりだった。


母親がギャンブルで作った借金のカタに子爵家に身売り同然に嫁がされると知ったときは、本気で殺してやろうかと思った。婚家が、実家で冷遇された娘が嫁ぎ先で幸せになるといった物語的展開はミジンコほども望めないほど悪名高い家だったからだ。


女癖の悪い夫には結婚前から愛人が何人もいた。正妻に至っていないのは、皆平民の女だったからだ。この国は貴族と平民の結婚を認めてはいない。いくらその平民が貴族並みに裕福であろうとだ。


没落した元貴族や貴族の庶子となら、平民でも結婚はできる。要するに貴族の血がちょっとでも入っていればいいのだ。だからこそ戸籍上の貴族の妻を欲した夫によって、没落寸前の実家を持つ私との縁談は成った。


夫からは結婚初夜から「お前を愛することはない。」のセリフを吐かれた。私は目を見張った。ショックだったからではない。こんな物語のようなセリフを吐く奴が現実にいたんだ、と衝撃を受けたからだ。


もちろん、「お前を愛することはない。」からの溺愛なんてミジンコ程も期待してはいない。かと言って白い結婚にもならなかった。奴は美しい愛人との合間に私をつまみ食いするクズだった。


「高級料理ばかり食っていると、たまに屋台の串焼きみたいなものが食いたくなるんだよな~。」と処女を散らされた後で吐かれて、軽く殺意が湧いた。頭の中で足のつかない殺害方法をいくつか思い浮かべた程だ。


つまみ食いで適当に抱かれた私だったが、意外に早く身籠った。ただ、残念なことに私の子は死産だった。子も満足に産めない私に、夫の子爵はその場で離縁を宣言。私は出産したばかりの身で家を放り出されることとなった。(この世界では死産した女は縁起が悪いとされていたから)


邸の近くで野垂れ死んだら醜聞になるとでも思ったのか、ご丁寧にも馬車で近隣の領の森に捨てられた。どうにでもなれと思って意識を手放したが、気が付くととある治療院の一室で寝かされていた。


女が一人行き倒れていたので、ここ(治療院)に運ばれたらしい。何とも親切な人がいたもんだ。普通、身ぐるみ剝がされて娼館にでも叩き売られるものだろうに。そう、私の担当の看護師に伝えるとビックリ仰天されてしまった。


「そんな治安が悪い領ならいざ知らず、この領ではそんな非人道的行為をする輩はおりませんよ。」


よっぽど治安の悪いところにいらっしゃったのね~と同情されてしまった。うちの実家と婚家は、そのよっぽどのエリアに入るらしい。他の領がこんなに居心地が良いならサッサと家を出ればよかった…。


でも、もう実家も婚家も関係ない。私は自由だ。お金もなかった私は、運び込まれた治療院で働くことにした。死産とはいえ妊娠・出産した私は母乳が出る。ここには出産しても母乳が出ない、少なくて困っている母親たちがたくさんいた。私は喜んで自分のを分け与えた。


ここ(治療院)にきて一月ほど経った頃、ある大雨の日に彼女はやってきた。お貴族様の、それも国内有数の力を誇る公爵家の紋の入った馬車に、治療院は大わらわになった。


領に帰る途中、長雨が続いて橋が流されてしまい足止めを食らっていたお貴族様。その奥様が産気ついてしまったらしい。出産予定日までまだ一月あるからと油断していたそうな。


専門ではないものの、末席とはいえ貴族であった私がお世話係になってしまった。とりあえず、お子様は無事に生まれたものの、奥様の様子が芳しくない。


あまりにも儚げな様子で、私が死んだらこの子をお願いとか物語の悲劇のヒロイン張りのセリフを吐く奥様にイラっとして、やや叱咤多めの激励をしてしまった。


「奥様、しっかりなさってください!貴女が死んだらこの子の乳は誰がやるんですか?」


「えっ?それは、乳母が…?」


「乳母連れてきていないでしょうが?それに、妊婦の為の情報誌『たまっころクラブ』にも母親からの母乳が最上級と書かれています!なんか、病気になりにくい免疫?が付くんですって。ボウ何とかって偉い学者様の論文に書かれてますよ?母乳って血液だから親である母親のが相性的にもいいって。」


「じゃあ、私は無理ね。ごめんなさい、こんなに弱い母親で…。」


「もうっ、だから頑張って元気にならなきゃダメでしょう?奥様が元気になるまで私がお子様にお乳を上げますから、奥様も頑張って!もし、ここで奥様がこけたら累はお子様にも及びますよ?」


「えっ?」


「母親の死の原因になった子どもを冷遇する夫。この子が居なければと子どもを苛め抜く継母&連れ子もしくは異母妹。ドアマットヒロイン爆誕ですね。この子をそんな目に遭わせたいんですか?」


「えっ?やだっ、そんなのダメッ!」


枕元に置かれた恋愛小説から奥様の嗜好を瞬時に推理してハッパをかける。物語はあくまでフィクションだからいいのであって、現実に子どもを不幸にしたい親などいない、と思いたい。(私の親はクズだったけどね)


少しやる気が出てきた奥様をうまい具合に転がして、健康体に近づけた。なんせこの奥様、日にも当たらないし、好き嫌い激しくて野菜食べないし運動もしない。高位貴族の女性らしいっちゃらしいけど、不健康極まりない。


昨今の貴族と平民の出生率の差を研究してきたボウ何とかって偉い学者様が、貴族の不健康極まりない生活が出生率にも影響していると論文で発表して以来、貴族も健康に気を使い始めた。国を動かす貴族が弱いと他国どころか国内で平民にとって代わられるかもしれないものね。


貴族の健康は国にとっても死活問題。偉い学者様を盾にしてビシバシ奥様を教育してやった。生きて子どもが産めた奥様へのやっかみもあったかもしれない。愛してもいない夫の子でも、生まれたならそれなりに愛情を込めて可愛がるつもりだったから。


こんな恵まれた環境にいて育てられないなんて言わせない。奥様に気づかれないようにコッソリ治癒魔法もかけた。実は私は治癒魔法が使える。といっても、医療師や聖女と謳われる程の力じゃない。


人間が持つ自然治癒力をアップさせる程度のすっごいショボいものだ。けれど、奥様はこのショボい治癒魔法と生活改善で、自身のお乳を与えられるまでに回復なさった。


橋の整備と安全に渡れるかの確認作業が終わったのは、奥様がご出産されてから4ヶ月後のことだった。本当はもう少し早かったが、生まれたお子様の首が据わるのを待っていたらしい。


奥様は、ここ数ヶ月ですっかり健康志向に変わっていった。ボウ何とかって偉い学者様の論文という最強の盾を用いての理詰めの説得が功を奏したようだ。(家族が酒止めろって言っても聞かないけど医者が言ったら聞く、みたいな感じね)


奥様付きになったから結構な給金がもらえたもの、そりゃ張り切って仕事しますよ。お金はいくらあっても困らないし。公爵家に帰ると聞いたので、お別れの挨拶をしようとしたら公爵様に呼び止められ、私を乳母として雇いたいと言われてしまった。


「えぇ~っと、母乳の事なら奥様がご自分で与えられる量で十分だと思われますが?」


「母乳だけのことではないさ。妻を健康体にしてくれた君の手腕をかっているんだが?」


「私だけでは無理でしたよ。ボウ何とかって偉い学者様の論文あってのことですから。」


「ボウナタニアンね。貴女が何かにつけて彼の論文を引き合いに出していたのは知っているよ。」


偉い学者様のお名前だからって、よくすらっと出たな?もしかして知り合いかと思って突っ込んだら本当にそうだった。


「学生時代の同級でね。今は王宮で働く医師だよ。仕事の傍ら貴族の出生率を上げる研究をしているんだが、彼の発案の健康法は貴族のご令嬢や夫人には受け入れられない部分もあってなかなか普及しないんだよね。」


「まぁ、平民からすれば、ごく普通のことなんですけどね。私は貴族であってもほぼほぼ平民と変わらぬ生活でしたからすんなり受け入れましたが、高位貴族の方たちには抵抗あるかもしれません。コルセット着用を止めるとか、女性の美に関することは特に…。」


社交界はただでさえマウントの取り合いだ。いくら健康のためとは言え、美を損ねることを進んでやりたがる女性はいないだろうな…。


「そうなんだよ、よく分かっているね。妻がこの健康法を広めたがっているんだ。高位貴族が発信源になれば普及すると思うんだ。君にはその手伝いをしてもらいたいと妻が希望しているんだ。私も今の溌剌とした美しい妻を好ましいと思っている。何より妻が健康だと安心して仕事ができるしね。」


確かに母子ともに健康で幸せオーラ全開の奥様は美しいけどね。安定した職場なのはいいとして、う~ん、公爵家かぁ…。


「貴女の実家や元婚家にはいろいろと問題があるようだけど、貴女自身には何の問題もないよ?」


流石は公爵家、すでに調べ上げられていたか。まぁ隠すつもりもなかったけど。


「私は縁を切っているつもりですが、書類上の確認はまだなんです。公爵家にご厄介になっていることが知れると、また縁を持とうとするやも知れません。金に対する嗅覚は人一倍ですから。きっとご迷惑になります。それに、私も貴族のゴタゴタはご免なんです。一平民として静かに暮らしていきたいと思っています。」


「う~ん、気持ちはわかるが簡単に貴族であることを手放すことはおすすめしないよ。貴族の優位性は大きいんだ。末端の貴族であってもね。公爵家に身を寄せなさい。悪いようにはしないから。」


何故か夫婦揃って猛プッシュされて、私はお子様のカロリス様の乳母兼奥様のアマラル様のお話し相手として公爵家に迎えられたのだった。






転生者によっていろんな便利グッズに溢れる世界。

母カトゥイーヤは転生者でも転移者でもありません。


お読みいただきありがとうございました。

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[一言] すわ、転生者か!と思ったら現地文化かw
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