第二話 こんなはずじゃなかった(ヒーロー?第一王子シェール視点)
ヒーローもといグズヒーロー、シェール第一王子視点です。
次話はヒロイン?ネルーダ視点になります。
それではお楽しみください。
「おいっ!ここから出せっ!王子である俺の命令が聞けないのかっ!」
声を張り上げるも固く閉ざされた扉が開くことはない。俺はイラついて周囲の物に当たり散らした。
一度だけ開いたとき、王弟である叔父上が立っていて、「夜会がいち段落すれば此度の件について沙汰がある。それまで大人しくしていろ。」と苦虫を嚙み潰したような顔で言われた。扉が閉まって、「あの馬鹿を絶対に出すな。」と見張りの騎士に命令している声が聞こえた。
くそっ、完全にしくじった。ネルーダが公爵令嬢でないなんて誰が予想できる?あれほど夫人と瓜二つだというのにっ?!フォンディーン公爵家の後ろ盾を逃すのは大きい。
母上は隣国の王族だが国内に力を持っているわけじゃない。血筋は完璧なんだ。俺に必要なのは国内での力。公爵家の後ろ盾を失うのはマズい。
義理の娘の手前、遠慮している。お母様は私を一番愛している、と言っていたネルーダの言葉を鵜吞みにしなければっ!おまけに「妊娠しているかも知れない。」なんて騒ぎやがって。もし本当に妊娠していたら俺の心証が悪くなるじゃないかっ!
「第一王子殿下、王陛下がお呼びです。」
向かった先には父と母である王と王妃、叔父である王弟、宰相にフォンディーン公爵夫妻に娘のカロリスがすでに着席していた。ネルーダはいなかった。
「この場では発言の是非を確認する必要はない。忌憚なき意見を述べてくれてかまわぬ。先ずはこの愚息の非礼を詫びよう。カロリス公爵令嬢、ならびにフォンディーン公爵夫妻、本当に申し訳なかった。」
王だけでなく王妃も共に頭を下げる。国のトップたる二人が臣下に頭を下げるなんて…。ショックを受けていると「お前も下げるんだ!」と叔父上に頭を押さえつけられた。
臣下に頭を下げるなんて屈辱以外の何物でもないが、騎士団をまとめる叔父上に腕力でかなうはずがない。腹立たしいがこれで収まるなら安いものだ。後は婚約者に戻ったカロリスがつけあがらないようにしなければ、そう思っていたのに…。
「愚息との婚約は破棄しよう。無論、愚息の責で。」
なっ?父上は何と言った?婚約破棄?俺の責任で?冗談じゃないっ!
「お待ちください!どうして婚約破棄などとっ!」
「何を言っている?そもそもお前が夜会で大声で宣言したのであろうが?国中の貴族が一堂に会する場で宣言したことを覆せる訳がなかろう?」
「あれはっ!ネルーダが平民だなんて知らなかったからです!俺は悪くない!俺は被害者だ!カロリス、婚約は結び直しだ!お前からも懇願しろっ!」
「御冗談でも笑えませんな。婚約は破棄されました。貴方の責で。婚約者でもない娘を名前で呼ぶのは止めていただきたい。」
俺が頼んでやっているというのにカロリスはこちらを見ようともせず、父親の公爵から憎々し気に吐き捨てられた。臣下のくせに王族である俺の言葉に反するとは生意気な。
「いい加減にせんかっ!あれだけのことをしておいてカロリス嬢に再び婚約を迫るなど、厚顔無恥にも程がある!」
父上は被害者は俺ではなくカロリスだといった。何の落ち度もない令嬢に瑕疵を付けたと。だったら婚約を結び直せば全て解決するではないか。俺の素晴らしい案に皆が有り得ないといった顔をする。何故だ?
「お前にはほとほと呆れる。婚約を結び直したいと言うからには、後ろ盾の重要性を理解しているのだろうが、ではなぜ本来の婚約者であるカロリス嬢を蔑ろにしたのだ?」
「蔑ろになど…。」
カロリスは上位貴族として何でもそつなくこなしていた。周りからの評価も高いが、俺からしてみればただの澄ました可愛げのない女だ。
美人だが婚約者のくせに碌に触らせてもくれない。王族の婚姻は純潔が必須だと言って。そんなの建前で皆陰でヤッているに違いないのに。
「婚約しただけで妻でもないくせに口出しするなと言っていたそうではないか。学園内のことだから耳に入らんとでも思うたか?数多の女と快楽に耽り婚約者としての最低限の交流も疎かにしていたことは調べがついておるぞ?」
「俺が相手をしてやるというのに拒否したのはカロリスですよ?!」
「普段の交流を蔑ろにして性的交流だけを強いる男に身を任す女がどこにいる!軽々しく名を呼ぶなと言われたのを忘れたのか!フォンディーン公爵令嬢と呼ばんか、馬鹿者がっ!」
青筋を立てて怒る父上。何故だ?俺と結婚すれば王妃になれるんだ。俺が求めたら体を差し出すのは当然だろう?交流だってしていた。確かに侍従や側近に丸投げしたが、ちゃんと贈ったんだから問題ないはずだ。そもそも何故俺が格下の者のために時間を取る必要がある?
「お前の王位継承権をはく奪し、王族からも外す。弟の下で一兵卒からやり直すがいい。」
「なぜですか?!カロ…フォンディーン公爵家がダメなら他家の娘と婚約すればすむことじゃないですか!」
「馬鹿め。婚約者を蔑ろにし、姉と思しき者でも平気で関係を持ち、挙句の果てに公衆の面前で婚約の破棄を宣言するような愚か者の妻に、大事な娘を差し出す家などおらんわっ!」
いつの間にか叔父上が背後に回り込んでいて、俺は椅子に押さえつけられた。くそっ、離せよ、この筋肉ダルマがっ!
「俺が王族を抜けたら誰が王位を継ぐのですか?!父上には俺以外息子はいないじゃないですかっ?!」
「王位継承権を持つ男子ならいますよ。貴方が暴れないように押さえている王弟殿下も然り。それにご子息は王子だけですが、ご息女ならば二人もいらっしゃいます。女性では王位を継げないという法はこの国にはありません。あまり例がない、というだけです。」
それまでだんまりだった宰相が淡々と説明する。余計なことを言うなっ!
「直系男子の俺がいるのにっ?!そうだ!カロ…いや、フォンディーン公爵令嬢がダメならネルーダを養子にすればいい!ネルーダなら俺の言うことなら聞くし、夫人の実の娘なんだから問題はないっ!これで全て解決だっ!」
「実の娘であっても公爵家にとって害にしかならない者です。旦那様がお許しになっても私は認めません。」
俺の素晴らしい発案を小馬鹿にするように吐き捨てた公爵夫人。ネルーダに目を付けたのは俺に従順でもあったせいだが、この夫人のせいでもあるのにっ。ネルーダを十数年老けさせた姿を目の当たりにして、年をとってもこれだけの美貌を保てるなら、長く楽しめると思ったんだ。
何といっても聖女の色彩だ。俺の傍に置くにふさわしいと思ったのにっ!
「はっ、自分は公爵夫人として贅沢三昧だというのに実の娘を平民として扱うなど、血も涙もない人間だなっ!」
「産み落とした時に死産だったと伝えられ、私の中ではとっくの昔に折り合いを付けていました。いきなり現れて娘だと言われても戸惑うだけです。」
「それでも生きていたならば、貴族として迎え入れるのが常識ではないのか?!」
「先にも言いましたが、貴族といっても私の実家の爵位は叔父が継ぎ既に息子に移っております。生物学上の父親の子爵家も、既に没落して爵位は返上。ネルーダを貴族として受け入れる家はもうありません。」
「公爵家があるではないかっ!」
「ですから、私の娘としては認知しております。衣食住を保証し、教育を施し、その成果を見て就職先なり、嫁ぎ先なりを口添えする用意はありました。それなのに、ネルーダは自分が公爵令嬢にでもなったかのように振舞ったのです。身にまとうものはカロリスと同じ一流の物をねだるようになりました。外見だけ整えても中身が伴わなければ意味がありません。学ぶべき教養座学を身に付けない娘を貴族として迎え入れることなどあり得ません。」
くそっ、顔はそっくりなのになんて融通の利かない女なんだ!
「情けない…」
王妃である母上が、初めて発した言葉が響く…。
「母上…?」
「由緒あるプルートー王家の血を引継ぎし者がこのような浅ましい考えしか持たぬとは…。」
「そ、そうだ!俺はプルートー王国の王位継承権ももつ高貴な身だぞ!その俺を…」
「黙りゃ!この痴れ者が!」
はっ?今のは母上か?声を荒げたところなど初めて見たぞ?
「王陛下、わらわは疲れてしもうた。暫し休みたい。どうか静かなところで静養させてはもらえまいか?」
何を言っている?そんなことをすれば俺の立場は益々危うくなるではないか?
「快適に過ごせる離宮を用意しよう。今まですまなかったな、王妃よ。もうこの場におらずともよい。部屋でゆっくりと休んでくれ。」
王の許しを得た母上は、フォンディーン公爵一家にもう一度頭を下げて退席した。「母上!」と呼ぶ俺には見向きもせずに…。
その後は、自室に戻ることも許されず、叔父上の邸に行くことになった。通っていた学園は、卒業に必要な課程は修了していたので辛うじて卒業はできたが、式にも参加できなかった。王の言葉通り一兵卒となって毎日毎日基礎練ばかりを繰り返す日々。
あぁ、何でこんなことになったんだ…。
人は反省した後にどんな行動を取るかで変われると思います。
反省だけじゃダメなんですよ~。
お読みいただきありがとうございました。




